7、運命の出会い <Side 愛良>(前編)
「アノ~、スイマセン」
片言の日本語が背後から聞こえて、あたしは振り向いた。
目の前には、まるで絵本から飛び出したみたいに綺麗な金髪外国人。
背もすごく高くてまるでモデルみたい。
綺麗なその外国人は、綺麗な眉を寄せて困ったようにあたしに話しかけてきた。
「スイマセン。<ルーン>、カフェ、ドコデスカ」
単語をつなげて一生懸命尋ねてくる彼女に、あたしは親切に教えてあげた。
「喫茶店<ルーン>ね?この道をまっすぐ行って、2つ目の信号を右に曲がるの。そしたら看板が見えるから・・・・・・わかる?」
一生懸命身振り手振りで説明したら、外人のお姉さんはわかってくれたみたいで、長くて綺麗な金髪を揺らしながらうなずいた。
「Merci!!!」
ん?メ・・・・・・なに?
お姉さんが言ったことを聞き取れなかったけど、どうやらうれしかったらしくにっこり笑いながらあたしの頬にちゅっと口づけて、そのまま元気に走って行ってしまった。
「・・・変な外人さん」
あんなににこにことうなずいたくせに、そのお姉さん、教えた方向と正反対の道を進んで行ってしまった。
あたしの足じゃ、もう追いつけないけど・・・・・・。
朝から、その日はそんな奇妙な体験をした。
7、運命の出会い† <Side 愛良>(前編)
「ねぇねぇねぇ!!!しずちゃん、今朝のニュース、見た?!」
教室に飛び込むようにしてあたしは走り込み、しずちゃんの席に駆け寄った。しずちゃんも顔を高揚させて、首を縦に何度も振る。
「見たよ見た!!ついにだね!!」
「待ちに待った甲斐があったよね!!」
「この日をどんなに待ちわびたか!!」
あたしとしずちゃんは朝からテンション高く会話する。
だってだって、ずっと待ちわびてたんだもん、この日を。
怪盗夜叉がこの町に来る!!!
今夜7時の予告。
それは、この町にあるデパートの中の宝石展。
そこで、<リトル・スター>っていうダイヤモンドを盗みますっていう予告状が届いた。
この町に。
やっと、あたしの心の師匠でもある怪盗夜叉が来る!!
「もちろん、行くでしょ?」
あたしが問えば
「うん!!お兄ちゃんも行くつもりみたいよ!!」
しずちゃんからも元気にそんな返事が返ってきた。
あたしは夜が待ち遠しくて待ち遠しくて仕方なかった。
だから、ついつい朝の不思議な出来事はそのまますっかり忘れてしまっていた。
帰宅すると、和馬お兄ちゃんの部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。
「ふざけんな!!なに考えてるんだよ!!危険に決まってるだろ?!」
同時にぷりぷりと怒った宗次お兄さんが部屋から出てきた。
めずらし~い。宗次お兄さんがあんなに怒ってるなんて。
その後を困ったように里奈お姉さんが追いかけている。
「ちょっと、宗次。今は怒っている場合じゃないでしょ?」
「じゃぁ、和馬の言い分をそのまま通すのか?!里奈も実もそれでいいのかよ?!」
「それは・・・・・・」
「これがどれだけ危険なことかわかってるのか?!あれに狙われたら最後、俺らは・・・・・・」
「宗次、うしろ!!」
実お兄さんが血相を変えて叫ぶ。
宗次お兄さんが口をつぐみ、その後ろに立っていた帰宅したてのあたしを視界に入れた。
「・・・よぉ、愛良」
いつもの挨拶も、今日はちょっと投げやりだ。
いや、それよりもあたしはちょっと今の宗次お兄さんの言葉が気になった。
「お兄さんたち、危ないことするの?」
「はぁ?!子供には関係ねぇよ」
機嫌の悪い宗次お兄さんはそれだけ言い捨ててさっさと玄関に向かってしまう。里奈お姉さんが慌てて、
「ごめんね、なんでもないのよ」
とあたしの頭を撫でながらフォローしてくれたけど、険悪な雰囲気であることには全然変わりなくて。
「びっくりさせて悪かったな、愛良」
和馬お兄ちゃんが部屋から出てきて苦笑していた。
「ゲームだよ、ゲーム。ゲームの話をしてたら、宗次が怒り始めたんだ。だろ、実?」
「あ、あぁ・・・」
「なんだぁ~ゲームの話か~」
あたしはほっとしてランドセルを床に置いた。
ゲームの話であんなに怒るなんて、宗次お兄さんもまだまだ子供ね。
「ちょっと和馬。話がある」
実お兄さんが真剣な表情で再度和馬お兄ちゃんの部屋を指しながらそう言えば、和馬お兄ちゃんも仕方なく、といった様子で実お兄さんに続いて部屋に入ってしまった。
廊下に取り残されたあたしは、そのまま自分の部屋に戻って荷物を置くと、夕飯の支度にはいった。
今夜はさっさと用意しないとね。しずちゃんたちと一緒に、夜叉が現れるデパートに行くんだ!!
そこで、あたしは夜叉に伝えるの!!
「弟子にしてください」って!!!
結局夕飯の用意ができても、宗次お兄さんと里奈お姉さんは戻ってこなかった。
バイトに行く和馬お兄ちゃんと実お兄さんの3人で夕飯は食べた。でもなんだかふたりともいつもと様子が違ってて、あたしは結局今夜夜叉を見に行くという話をふたりにしそびれてしまった。
せっかく夜叉の話ができると思ったのにつまんないな。
でも、怪盗夜叉と話すことができたら、ちゃんと和馬お兄ちゃんにも教えてあげようっと!!
和馬お兄ちゃんと実お兄さんがバイトにでかけてから1時間くらいして、しずちゃんとしずちゃんのお兄ちゃんが迎えに来てくれた。
あたしはうきうきしながら、夜叉が予告したデパートに向かった。その間もしずちゃんとどれだけこの日を楽しみにしていたかをずっと話しこんで。
「すっごぉ・・・・・・い!!」
デパートの前にはすでに野次馬の人だかり。
あたしたち小学生があの中に入ったら埋もれちゃって夜叉を見るどころじゃない。警察がなんだか色々言って規制しているみたいだけど、そんなの全然意味がないみたい。
はぐれないように、しずちゃんはしずちゃんのお兄ちゃんと、あたしはしずちゃんと手をつなぎながら、野次馬の中をかいくぐっていた。
なんとかいい場所がないかと探して。
早くしないと、そろそろ夜叉の予告時間になっちゃう。
突然、人の波が激しくなって、あたしたちはひっぱられたり押されたりしてしまう。
「あ・・・・・・!!」
そうしている間に、あたしの手はしずちゃんから離れてしまった。しずちゃんは気付いたかわからないけど、もうひとごみでしずちゃんの姿すら見えない。
「・・・はぐれちゃった・・・」
ま、あとで連絡すればいいか。
あたしはあいかわらずの人ごみから少し離れて、デパートを仰ぎ見た。
デパートから離れちゃえば、たしかに野次馬はいないけど、夜叉だって見えない。でも実際は、あそこにいるからって夜叉が見えるわけじゃない。
夜叉が狙っている<リトル・スター>がある宝石展は、デパートの4階。
マスコミや警察はそこまで入ることは許されたけど、さすがに野次馬はデパートの中までは入れない。だから、夜叉が前みたいに空を飛んでくれるか、デパートの出入り口から出てきてくれない限りは、夜叉を見ることはできない。
「う~ん。夜叉に会いたいんだけどなぁ・・・・・・」
「へぇ、怪盗夜叉に会いたいの?」
ひとりきりだと思ってたあたしは、突然頭上からそんな声が飛んできてびっくりした。
振り向けば、長い黒髪をひとつに束ねた、黒いジャケットにサングラスをかけた怪しい男の人が立っていた。
「夜叉に会いたいんだろ?」
「う、うん・・・・・・」
もう一度尋ねてくるその男に、あたしはついうっかり返事をしてしまう。すると、男は口をにやり、と笑わせると、あたしに背を向けて歩き始めた。
「ついておいで、お譲ちゃん。夜叉に会える、とっておきの場所を教えてあげるよ」
怪しい。
あきらかに怪しい。
よく学校の先生とかが言っている、「誘拐犯」みたいな手口。
「楽しいところに連れて行ってあげるよ~」なんて言って、子供をさらっていっちゃうって聞いたことがある。
あたしはそんな手口にのるほど馬鹿じゃない。
・・・馬鹿じゃ・・・ないけど・・・。
夜叉に関することだったら別。
「うん、教えて!!」
あたしはあっさりとその男の人についていくことを決めた。
その男の人があたしを案内したのは、デパートの隣にある立体駐車場。あたしはその人についていきながら、その人の身長の高さにほれぼれしていた。
だって、本当にでっかい。和馬お兄ちゃんたちよりもずっとずっと大きいと思う。
それに、男の人で髪を伸ばすのって好きじゃないけど、なぜかこの人には似合ってる気がする。
なにかの楽器なのか、黒い筒状のバッグも一緒に持っている。
「・・・ねぇねぇ、なんであたしに教えてくれるの?」
「子供が好きだからだよ」
あたしは真剣に尋ねたのに、なぜかくすくす笑いながらそう答えられてしまった。これ以上はきっと何を尋ねてもちゃんと教えてもらえないんだろうなって思ったあたしは、黙ってその人についていく。
野次馬がいっぱいいたせいか、この駐車場にも車がいっぱい停まってる。
何階かの駐車場まで登ると、その男の人が外を指さした。
あたしは素直にそちらの方向を向いて、思わず感嘆の叫びをあげてしまった。
「デパートの4階だ!!!」
そう。ここから見えるのは、デパートの4階、宝石展!!
これはとっておきの場所だわ!!
「ありがとう、お兄さん・・・・・・ってあれ?」
大感激してお兄さんにお礼を言おうと思って振り向いたら、どこにもあの黒づくめのお兄さんの姿がなかった。
あたしは不思議に思いながらも、仕方なく目の前の光景に集中することにした。
そろそろ予告の時間。夜叉がどう<リトル・スター>を盗むのか、見ることができる!!
すると、突然デパートの電気が全部消えた。
夜叉だ!!
あたしはひとりで大興奮しながらデパートのほうに視線をこらす。真っ暗の中で何が起こっているのかわからない。
それでもあたしは身を乗り出してがんばって目を凝らしていたけど、どうあがいても中の様子が見えないとわかると、あたしはそのまま車の陰に座り込んでしまった。
せっかく夜叉がこの町に来たのに。
せっかく夜叉が見えるいい場所を教えてもらったのに。
見えないんじゃ意味ないじゃん。
機嫌が急降下して、ひとりでむくれていたあたしの目の前で<それ>は起こった。
突然沸き起こった突風。思わず、目を閉じる。
なにかが、あたしの横を横切る風。
目を再び開けると、そこには、
漆黒のマントを翻し、仮面をつけた全身黒づくめの<怪盗>がいた。
長いなが~~~~い話の始まりです!!
でも、このシリーズを始めてから書きたかった話のひとつなので満足ですvvv
ちなみに、4話も書きたかったもののうちのひとつです(笑)
つまり、長い話は書きたかった話なんですね(笑)
それにしても愛良ちゃん・・・・・・知らない人についていっちゃいけません!!!