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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
17/86

6、ふたりの1日 <Side 和馬>






「こんばんは、刑事さんたち」


俺は、怪盗夜叉として余裕のある口調で、刑事たちに挨拶をする。


今夜の獲物である<アメジストの裁き>を警護する刑事たちに。



「怪盗夜叉め・・・!!今夜こそ、逮捕してやる!!」


何人かの刑事がなにやらわめいているが、それが毎回俺を捕獲しようと躍起になってる連中なのかどうか、知らない。


いちいち夜叉のために走り回ってる刑事を覚えるほど俺も暇じゃない。


だいたい、どいつこいつも相手になりゃしない。




俺は軽く肩をすくめたあと、ばさっと黒マントを翻した。刑事たちは俺がなにをしでかすのかわからずに動けないでいたが、それが俺には好都合。


刑事たちの視界をマントで奪っている間に、俺は懐からナイフを取り出した。


それを振り上げて、そのナイフを振り回す。



俺がマントをもとに戻したあと、その場にある光景に、刑事たちはぎょっとしていた。


「・・・<アメジストの裁き>をいただいていきます」


俺はそう言うとすぐに、その場を立ち去る。そして、多くのマスコミが待つ、美術展の入口へ向かう。



刑事たちは追ってこない。


まぁ、たぶん、あまりの衝撃に呆けているんだろうな。



怪盗夜叉は、<アメジストの裁き>をずたずたに切り裂いて逃げ去ったのだから。







6、ふたりの1日◆   <Side 和馬>









午前11時。


昨日<仕事>だった俺は、そのあとの宗次たちとの<打ち合わせ>で夜も遅くなり、家に帰宅したのは明け方近くだった。


だから起き上がるのもこんな時間になる。


それでも、今夜も怪盗夜叉として<仕事>をすることは決まっていた。



昨日ずたずたに切り裂いた<アメジストの裁き>は贋作。そうじゃなきゃ、さすがの俺もそんなことはしない。


あぁすることで、オーナーに警告したんだ。



「怪盗夜叉はすべてを知っている」と。



あの美術展にあるほとんどは贋作だろう。


そのうちのいくつかの贋作の中には、あるものが埋め込まれているであろうことも俺たちは情報としてつかんでいる。


たまたま今回の<アメジストの裁き>にはそれがなかったようだけど。





俺は朝食兼昼食をすますと、隣駅にある宗次の家に向かう。


今頃きっと、里奈が今夜の夜叉の予告状を警視庁と美術展のオーナーに送りつけているにちがいない。


宗次の家に向かいながら、俺はふっと昨夜のことを思い出して、思い出し笑いをしてしまう。



高所恐怖症の宗次だったが、今回の獲物は高層ビルの最上階の展示場。


いつもは喜んで現場にまぎれこむ宗次だったが、今回は断固拒否していた。だが、今回の作戦では宗次の協力もないと逃げ切れない。


びくびくする宗次をなんとかなだめて、俺は昨日夜叉になったのだ。


高層ビルからの脱出劇。


どう逃げるか、実と色々相談した結果、窓から飛び降りるのがいいだろう、と実が言いだした。



・・・・・・・・・そりゃ、実行するのは俺なんだから、実はいくらでも好きなこと言えるよな・・・。



だけど、実の提案した逃走経路はたしかに確実そうで。


仕方なく、その案で逃げることになった。



そこでまず一夜目の昨夜は、怪盗夜叉は、いつもほど長くマスコミの前に姿をさらすことなく、最上階の窓を割って夜空へ飛び出した。




当然、人々はそれから下を見て、夜叉の姿がないか確認する。


ないとわかると、飛び去ったのではないかと、遠くを眺める。




観客がそうやってよそ見をしてくれている間に、俺はさっさと頑丈なワイヤーを駆使して、ビルの屋上へと昇っていたのだった。けれど、そのワイヤーを引き上げる作業を宗次がしてくれないと、屋上にのぼるにも時間がかかってしまう。


だから、どうしても宗次の協力が必要なのだ。



ビル内での盗みだから、とヘリコプターの一機も用意していない警備体制だったからこそできた芸当だった。


加え、今回は獲物を持っていなかったため、身軽だったからこそワイヤーを使ってビルをのぼる、なんてできたのだ。


もしも片手に絵画なんぞ持ってたら、あんなことできやしない。




今夜は本物の<アメジストの裁き>を盗む日。


昨日と同じ逃走経路を使うわけにはいかない。


それに、今回は間違えなく<シリーズ>のひとつだから、<組織>のやつらが待ち構えている可能性もある。


今夜は、油断は絶対にできなかった。






「お邪魔しま~す」


「あら、瀬戸君、久しぶりね!!元気してた?ご飯ちゃんと食べてる?男の子の独り暮らしなんて大変でしょう?」


「お久しぶりです、おばさん。大丈夫ですよ、なんとか暮らしてます」


「あ~もう、母さんうるさいよ。和馬も相手してなくていいからさっさとあがってこいよ」



午後2時。


宗次の家にたどり着けば、俺はすぐに宗次の母親に声をかけられた。


彼女はひとりきりになった俺をよく心配してくれて、こうしてよく声をかけてくれる。


別に俺は嫌いではないのだが、宗次は母親をうっとおしそうに追い払うと、彼の部屋に案内した。




今回は宗次の部屋で俺とふたりきりで<打ち合わせ>だ。


逃走経路については昨夜すでに4人で作戦会議は済んでる。なのに俺が宗次の家におしかけたのは、今回の贋作はどうやって突き止めたのか、それを教えてもらうためだ。


情報収集はたしかに宗次に頼っているが、だからといってやり方を知らないままでいるつもりはない。


だから、たまにこうして俺は宗次の家を訪れているのだ。


たぶん、里奈も実も知らないだろうけど。


「・・・あいっかわらず、すげぇ部屋だな・・・」


思わず俺は第一声にそう言ってしまう。


散らかっているのは俺も人のこと言えないからどうでもいいんだが、なんというか・・・。


「この部屋は人の暮らす部屋じゃねぇよな」


部屋の主である宗次ですら苦笑しながらそう言う。


ひとりで使う部屋だというのに3台あるパソコン。そこに付随する機械。


そして、まるで管のようにあちこちから飛び出ている無数のコード。


これがどこからどう繋がってるのか、わかっているのは宗次だけだ。



「今回あれがニセモノだってわかったのはこの情報からだよ」


3台あるうちの1台のパソコンの画面を叩きながら、宗次が手招きする。俺は足元のコードに気をつけながら、そこを覗き込んだ。


わけのわからないコードが並んだ画面がそこには映し出され、宗次が次々と何かを打ち込んでいく。


記憶力は結構自信がある俺だけど、どうしてもこういう専門的なものは苦手だ。宗次がどこでそれを覚えてきたのかは知らないが、闇サイトと言われるそれらを駆使して、情報を取り込んでいる。



めまぐるしいほど移り変わる画面を見ていると、やがてパスワード表示画面になる。


「これがちょっと苦労したけどな。でも、俺にかかればちょちょいのちょい、だ」


けらけら笑いながら宗次はそう言うが、結構苦労したに違いない。それでもそのパスワードをひらいてしまったのだから、やはりすごいと素直に思う。


カタカタカタと7桁のパスワードを入力して、あっさりと宗次はそれを解除してしまう。


すると、画面には次々と絵画の映像が映し出されてきた。その中には、昨日俺がずたずたに引き裂いた<アメジストの裁き>もある。そして、それらの絵画の画像の横に映し出されているのは・・・・・・


「ニセモノにこれを隠してるってわけだ」


画面をとん、と叩いて、宗次がにやりと笑う。



「せっかくだから、いつもがんばって夜叉を追いかけてくださる刑事さんたちに、たまには花を持たせてやるか」



俺もその画面を見ながら、怪盗夜叉としてにやりと笑い返した。




「・・・で?どうやってこれを見つけたんだ?」


「はぁ!?それは企業秘密だろ」


「なんで仲間同士で企業秘密なんだよ」


「だって、このやり方知ったら、和馬、おまえひとりで情報収集をしようとするだろ?」


鋭い宗次の指摘に、俺はうっとつまる。


「そ、それは・・・・・・」


「俺の楽しい仕事とるなって。おまえは夜の<仕事>のことだけ考えてればいいの。そのサポートとして、俺たちがいるんだからな」


「でも、危ないだろ、こういうの・・・」


「ま、危なくないとはいえないけどな。でも、その予防策のために、部屋がこんなことになったんだから、いまさら降りろなんて言わないだろ?」



俺はもう一度宗次の部屋を見回す。


この渦巻くコードの山も、機械の巣窟も、すべては、夜叉のため。


<失われた誕生石>シリーズを集めるため。


「・・・巻き込んで、悪いな・・・」


「何言ってんだよ。俺たちはみんな、自分の意志で夜叉になったんだ。和馬のためじゃないさ。自惚れんなよ」


ばんばん、と宗次は俺の背中を叩く。それが宗次の優しさだということはわかる。


それでも、宗次は俺にそう言ってくれる。


「<失われた誕生石>がどこに導いてくれるのか、俺は興味あるしな」


・・・・・・ま、それも半分本音なんだろうな。


宗次がにやにや笑っているのを、俺は軽く頭を叩くことで抗議すると、彼はおもむろに携帯を取り出した。




「どうする?今日はここでこのまま<作戦会議>といくか?」


「・・・あぁ、そうだな。今頃愛良も帰ってきちゃってるだろうし・・・」


時計を見て、ずいぶんと時間が過ぎていることに驚いた。すでに時間は夕方5時を過ぎている。


「あ、そうか。そうすると、愛良に夕飯がいらないと電話しないといけないな」


いつもは愛良に合わせて早めの夕飯を食べてから<仕事>にいくが、それより前のころは、いつも<仕事>のあとに4人で食事をしていた。


今日はそういう流れになるだろう。


「おっと、ラブコールしなくちゃってか?どうぞどうぞ、俺は里奈にラブコールしてくるから」


宗次が笑いながら部屋を出ていく。俺は彼の背中をにらみつけながら、携帯のボタンを押した。


そういえば、俺は愛良の携帯の番号を知らなかった。






愛良をひとりきりで留守番させることに若干の罪悪感を感じながら、俺は実たちがそろうと、すぐに<夜叉>として頭を切り替えた。


全員、足元のコードに気をつけながら、逃げるようにベッドの上に座り込む。


「パラグライダーかぁ・・・。これ使うの結構久しぶりだよな?」


「初めのころはよく使ってたけどな」


今夜は絵画を盗んだ後、俺一人だけパラグライダーで夜空へ逃げることになっている。助走もなければ、いきなり48階の高さから飛び降りてパラグライダーを広げるのだから、正気の沙汰じゃない。


だけど、そういう無茶もすでに俺は慣れてしまっている。


その無茶な作戦はたいがい実の提案だけど。



こいつは幼馴染というだけあって、俺の運動神経をよく知ってる。加えて、両親がなぜか俺に教え込んだパラグライダーを始めとする特殊な特技も、熟知してる。


怪盗夜叉の武器であるダーツも、幼いころから両親になぜか鍛えられたダーツの腕があってこそのこと。



なんでそんなもんをひとり息子に教え込んだのか、あのころはわからなかったけど。


いや、実際は今もよくわからないけど。


それでも、そうして俺を鍛えてくれたことは感謝していたりする。


まさか、息子が<怪盗>をやる日がくることを望んでいたとは思えないけど。





「あ、和馬、これも持っていけ」


宗次がダーツの矢を3本俺に渡してくる。


「これは?」


「<ビール>様特製ダーツの矢!!」


「・・・・・・・・・だから、効力は?」


「ひ・み・つ」


ふざける宗次の足を俺は蹴りつける。蹴られた足をさすりながら、こいつは嘘泣きをして実にすがりつく。


こういうときに里奈に助けを求めても、里奈は俺の味方をするからな。


「いいじゃんいいじゃん!!使ってからのお楽しみのほうが楽しいじゃんか!!なぁ、実?!」


「ま、今のところ宗次の発明ではずれはないし、いいんじゃないか?」


「ほれほれ!!」


悪魔ふたりが俺を追い詰める。どう反抗してやろうかと伺っていると、横から里奈が宗次をしかりつけた。


「あのね、今夜は本物の<シリーズ>を盗みに行くのよ?<組織>の連中だって襲ってくるかもしれないのに、こんな得体のしれないものを使えないでしょ?意地悪してないで、早く教えなさい!!」


「・・・・・・・・・はい」


里奈に怒られれば、宗次もしゅん、としながら俺に素直に効力をしゃべる。


俺はそれを理解しながら、思わず苦笑をもらしてしまった。実もこの展開を予想していたのか、一緒になって苦笑している。


怪盗夜叉で、一番強いのは<ダージリン>かもしれない。







今夜もマスコミは展示室には入れてもらえない。


警備の刑事たちはなんとか<アメジストの裁き>の周りに配置することは許されたようだが、ほかの作品のそばによりつくことすら許されない。


そう、怪盗夜叉が<本物>の<アメジストの裁き>をいただくと警視庁に予告状を送ると、警察は慌ててオーナーを問い詰めたのだ。


オーナーは苦しい言い訳で、夜叉から<本物>を守るために昨夜は<ニセモノ>を飾っていたのだ、と言い訳をしたようだ。


それをまんまと信じる警察も警察だと思うけど。


どう考えたって、もっと前からこの<ニセモノ>はあったのだと思うのが常識だろう。


だって、前回も予告状から予告日までは1日くらいしか時間があいていなかったのだから。




「・・・さて、そろそろかな」


展示室の天井裏に隠れている俺はぽつりとひとりごとを言う。


今夜は全員それぞれ配置が違う。


<ダージリン>は得意の変装で警備員に交じり、<ブラック>は屋上で待機。


そして、<ビール>はというと・・・・・・


『では、時間ジャストなんで、始めま~す』


気が抜けそうなほど軽いノリで、電源ブレーカーのある電気室にいる<ビール>が通信機で伝えてくる。同時に、館内の電気がふっと消える。


警察たちは突然の暗闇にパニック状態になる。リーダーらしき警官が声を荒げて指揮をとばしているのが聞こえる。



「明かりだ!!明かりをつけるんだ!!」


「そんなことより絵じゃ!!<アメジストの裁き>を守るんじゃ!!」



オーナーが必死に訴えているのが聞こえる。そして、うっとぉしいことに、オーナーが<アメジストの裁き>にしがみついてきた。


夜目の効く俺はさっと天井裏から展示室に姿を現すと、絵画としてわりと小さめの<アメジストの裁き>を盗もうと手をかけた。


だが、暗闇で見えないとはいいつつも、オーナーの執念か、しっかりとその絵の額縁を握りしめていて、俺も簡単には盗みだせない。


暗視スコープをかけた<ダージリン>がそれに気付き、慌てて俺の援護にまわろうとする。



「オーナー、ここはわたしにお任せを」



警備員らしく、<ダージリン>はオーナーの肩を叩きながらそう言う。その声は、全然女性らしさを残しておらず、暗闇の中で聞いても若い男の声にしか聞こえない。


相変わらず、すごい変装能力だ。



でも、<ダージリン>には<ダージリン>の<仕事>が今回はある。俺は<ダージリン>の手を取って首を横に振り、ここは俺一人でなんとかする意思を伝えた。


<ダージリン>も即座に理解し、さっとその場を離れる。


・・・そう。<ダージリン>にもやってもらわないといけないことがある。





「な、なんじゃ?!どこに行った?!」


先ほどまで肩を叩いていた警官がいなくなったことにより、オーナーが不安そうに叫ぶ。その周りでは他の警官たちも明かりをつけようとしたり、前後不覚なまま<アメジストの裁き>を探ろうとうろうろしている。


俺はくすりと笑いながら、そっとオーナーに耳打ちをした。



「こんばんは、オーナー」


「・・・なっ!!おまえは・・・・・・!!」


「しぃ。お静かに」


叫ぼうとしたオーナーの口を俺はふさぐ。今ここで、騒がれるとちょっと面倒だからな。


俺がここでいますべきなのは、オーナーの気を反らせて、<ダージリン>の仕事をしやすくすること。



「今夜の<アメジストの裁き>は本物のようですね。・・・さて、他の絵画はニセモノですか、本物ですか」


「な、なにを・・・・・・!!」


「こちらに飾られているほとんどがニセモノであることは知っているのですよ。本物もあなたがお持ちであることも。・・・そして、ニセモノとともに、もうひとつのものを隠し持っていることも・・・」


「ど、どこでそれを・・・!!!」


狼狽するオーナーの横で、俺はくすくすと笑い声をたてる。


すると、遠くで<ダージリン>が手を振っているのが見えた。<ダージリン>の<仕事>が完了した合図だ。




『夜叉、そろそろ時間だ』


いいタイミングで<ビール>の声が聞こえる。そろそろ非常用の明かりがつく時間らしい。


俺はオーナーの手が離れた<アメジストの裁き>をさっと取り外すと、小脇に抱えた。


同時に、室内に明かりがついた。


入口付近の電気は依然と消えたままだから、非常用の明かりは室内にのみ適用されているのかもしれない。



明かりがついたことにより、刑事たちが一斉に怪盗夜叉に視線を送る。



俺は余裕のある礼をしたあと、静かに言った。


「<アメジストの裁き>をいただいていきますね、オーナー」


「なっなっなっ・・・・・・・・・!!!」



刑事たちも慌てて俺に飛びかかろうとしてくるが、俺はすっと腕を横に持ち上げた。


「あぁ、それから刑事さん方。あちらの<ニセモノ>たちをよくご覧ください。おもしろいものが隠されていますから」


「なにを・・・?」


戸惑いながらも、警官たちは素直に他の絵画にも目をやる。すると、まず目に飛び込んできたのは、昨夜の<アメジストの裁き>同様ずたずたに引き裂かれた絵画の数々。


そして、その引き裂かれた絵画からは白い粉がぱらぱらと零れ落ち続けている。


「これは・・・・・・・・・!!!」





そう。ここのオーナーが贋作を用意し続けたのは、そこに麻薬を隠すため。そして絵画の売買をするとみせかけて、麻薬の売買をしていたというわけだ。


それを暴かれたと悟ったオーナーが、この世の終わりのような叫び声を、室内に響かせた。


オーナーの尋問に入った警官たちを差し置いて、俺はゆったりと展示室の外に出た。


そこには暗闇の中でも怪盗夜叉を待つ、マスコミたちがいた。


俺は昨夜はできなかったいつものパフォーマンスを彼らにする。



盗んだ<アメジストの裁き>を、マスコミに見せる。


「本物の<アメジストの裁き>、怪盗夜叉がいただいていきますね」




そして、昨夜割った窓から、俺は再び夜空にダイブする。


同時に、絵画は手放してパラグライダーをひろげる。手放した絵画は、じつはワイヤーに括りつけてあって、屋上から実が回収している。


それを悟られない様に、俺は目立った方法で夜空へと姿を消したというわけだ。




夜の街を飛ぶ、というのも意外に楽しい。


ビルの明かりがまるで夜空のようで、上が空なのか、下が空なのかわからなくなる。


俺がうっとりしながら夜空を泳いでいると、耳元の通信機からそれぞれの報告が伝えられてきた。


『こちら<ビール>。無事に変装を解いた<ダージリン>と合流して帰路に向かってるぜ』


『絵画を片っ端から切り刻むの、すごくすかっとしたわ!!』


<ダージリン>の発言に、思わず俺は苦笑する。今回彼女の仕事は、夜叉が<アメジストの裁き>を盗んでいる間に、他の絵画を切り裂き、麻薬が隠されていることを暴くことだった。


ま、たまには警察のみなさんにも花をもたせてあげましょってことで。




『こちら<ブラック>。<シリーズ>は無事に回収完了。このまま今夜は俺のところで預かるよ』


「わかった。一応、帰るまで気をつけろよ。<シリーズ>を持っているのはおまえだし」


『おまえも気をつけろよ、夜叉。<組織>の連中はおまえの動きを探っているんだから』


「わかってる」


でも、どうやら<組織>の気配はしない、上空だから諦めているのか。


だけど、この前の奴の発言では早々諦めるような感じはしなかった。墓前に花を、黒薔薇を捧げる、なんて意味不明なことを言い残したくらいだし。




適当な着陸地点を見つけると、俺はそのままパラグライダーを器用に畳んだ。


時計を見れば、思ったより早く仕事が終わったことがわかった。


今夜は盗んだ獲物もないし、このまま帰宅してもいいか。


この時間なら愛良も起きているだろうし、夕食をひとりで食べさせたお詫びになにかお土産でも買っていこうかな。




一応付近を警戒しながらそんなことを考えつつ、俺はさっさと普段着に着替えた。


マントをパラグライダーをしまったリュックに仕舞い込み、黒いジャケットからデニムのジャケットに着替えてしまえば、ただの大学生のできあがりだ。


今夜は、<組織>の嫌な気配はしない。


俺はそのことに対してむしろ不思議に思いながらも、そのまま帰路についた。


もちろん、愛良へのお土産を忘れずに。







午前12時。


お土産のケーキを喜んで食べた愛良も寝静まった頃、俺はパソコンのスイッチを入れる。


俺も多少の闇サイトはくぐりぬけられる。


ずっと心にひっかかっていたものを調べるために、俺は危険を承知でそこにアクセスする。




<組織>の連中が言っていた<黒薔薇>。


あれにはどういう意味があるのか。


俺はそのまま夜が明けるまでパソコンに向かって、ずっとそれを調べ続けていた。



和馬サイドの1日でした。

公開したかった、宗次のお部屋を公開できて満足です(笑)

贋作に麻薬を偲ばせる、とか、パラグライダーで逃げましょう、とか、そういうのはまだまだ何度もありますよ、きっと(笑)

でもきっと、そのたびに宗次が大騒ぎなんだろうなって思います(笑)

里奈の変装はちょこちょこ出てきてます。彼女は<夜叉>にとってなくてはならない存在ですね。

みんなの姉貴です(笑)

さて、次回は少し長くなりますが、紫月は書くのを楽しみにしてた回です。

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