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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
11/86

4、正しい連休の過ごし方 <Side 和馬>(前編)









京都に着いたら、俺と宗次で<レイニー・ブルー>を持ち主に返してくる予定だった。


なのに。


里奈が宗次と一緒に返してくるなんて言うから、ここからきっと歯車が狂い始めていたんだ。


・・・いや。


そもそも、愛良をこの旅行に連れてきたのが、歯車の狂い始めだったんだろうな・・・。






4、正しい連休の過ごし方◎  <Side和馬>(前編)






京都での1日は、俺はただ愛良と観光するだけだったから、気楽に過ぎた。


宗次と里奈が無事に<レイニー・ブルー>を返却してくれていることを祈っているだけだ。


あの宝石はすでに<解読>は終わってるから、ただの普通の宝石だ。俺たちがあれをこれ以上持ち続けている意味もない。


そして、今回の<天使の宝剣>もそうだ。


<解読>が終われば、返却するだけ。・・・もっとも、東京に戻ってからになるが。



出発前の宗次との会話を思い出し、俺はまた、ため息をつきたくなった。



「・・・そういえばさ」


愛良を旅行に連れていくかどうかばかり考えてて、すっかり失念してた俺も俺だった。


出発の前日、携帯で宗次と打ち合わせているときに、ふと、俺は思い立った。


「神戸までわざわざ<天使の宝剣>を盗みに行くってことは、<解読>が終わったらまた神戸まで行って返却するのか?」


ま、そうなったらそうなったで、さっさと返却してくるだけだから別にいいけど。


<解読>するための装置は、どう動かしていいかが俺にはわからないから、東京の、父さんの部屋でしか<解読>ができない。


『あれ~?おまえ、<天使の宝剣>のこと調べたんだろ?』


電話の向こうで、宗次が聞いてくる。俺はパソコンで見た<天使の宝剣>のデータを思い浮かべながらうなずいた。


たしか、今回の獲物は、盗品ではなかったはずだが、宗次はなにを示唆してるんだ?


「見たけど、なにかあったか?」


『なにかあったかっていうか・・・あれって今度、東京にも展覧に来る予定だったんだよ』


「・・・へ?」


『あれ~?知らなかったか?だから俺たちって運がいいよなって里奈と言ってたんだよ。<レイニー・ブルー>を返しがてら<天使の宝剣>を手に入れることができて、返却は東京でできるんだぜ?こんな楽なことってないよな?』


電話の向こうで宗次が陽気にそんなことを言っているが、どうしても、俺はある考えに思い至らないわけにはいかなかった。


そして、思わずそれは、言葉となって、宗次に訴えてしまった。


「・・・・・・だったら、東京に来るまで待ってればよかったんじゃないか・・・?」


すでに明日に控えた京都・大阪旅行(名目では)の荷物を見降ろしながら、俺は脱力してそうつぶやいた。






「和馬お兄ちゃんはなんだった?」


愛良の呼びかけで、俺ははっと我に返る。見れば、愛良がにこにことしながら、おみくじを握り締めている。


・・・そういえば、清水寺まで来て、おみくじなんかひいてたっけ。


俺は握り締めたままのおみくじをもう一度見た。


「・・・大凶・・・・・・」


・・・そうなんだよ・・・。こんなおみくじの結果なんて出るから、俺は余計に不安に思って回想なんぞしちゃったんだ・・・・・・。


「大凶?!おみくじで大凶の人って初めて見た~!!」


のんきに愛良はけらけらと笑いこける。


彼女は京都に着いてからずっと上機嫌だ。ま、それもそうだろ。


「うるさいな。愛良はなんだったんだよ?」


「あたし?あたしはね~大吉!!」


自慢げにおみくじを俺に差し出してくる。


「へぇ・・・そりゃよかったな。後生大事に握りしめてろよ」


「あ~お兄ちゃんってば、悔しいんでしょ~?」


「う、うるさいな!!ほら、次行くぞ、次!!」


「は~い!!」


寺を見ている時間なんてほんとにわずかで、俺と愛良は食ったり遊んだりしながら、京都を見て回った。


そんなことをしていたら、あっという間に時間は過ぎてて、気付けば宗次たちと合流する時間になっていた。


駅前のホテルに行けば、すでに宗次と里奈が待っていた。


チェックインをすますと、宗次は俺にルームキーを預けた。・・・が、なぜか宗次もルームキーを持ってる。




「・・・どういうことだ?」


「どうもこうも。俺と里奈、和馬と愛良で部屋割するんだよ」


あっさりと宗次はそんなことをぬかす。


なに馬鹿なこと言ってるんだ?今夜は明日の<仕事>の打ち合わせと準備だろうが。


「あのな、今夜は準備するんだろ?」


「愛良が寝てからでいいだろ?」


「だったら最初から里奈と愛良で一緒の部屋にすればいいだろ?なんで俺が愛良と・・・」


「大丈夫だって、心配するな」


「は?」


ぽんぽん、と宗次が俺の肩を叩いて、うなずく。


・・・こいつはまた、なにを勝手に納得してるんだ?


「もしもおまえが本格的にロリコンになっちゃっても、俺はおまえを見捨てたりはしないから」


「・・・・・・・・・宗次・・・」


「ん?どうした?俺の愛に感動したか?」


「今はそういう問題の話じゃないだろうが!!!」


思わず俺は宗次の頭を叩く。こいつはこの事態に、なにを考えてるんだ?!


「怒るなよ~。どうせ明日はずっと俺とおまえで行動するんだぜ?今日くらいは里奈と一緒にいさせてくれよ」


「・・・今日だってずっと里奈と京都観光したろ?」


「ほぉ・・・おまえ、それを俺に言うんだな。聞くんだな、俺の話を」


「な、なんだよ・・・」


いきなり目が据わった宗次に、俺は思わず身を引く。


なんか知らないけど、急に宗次の機嫌が急降下しだした。


「・・・まぁとにかく。愛良を寝かしつけなきゃ動けないだろってことは実もわかってたみたいで、俺にこれをよこしてきたぜ」


宗次がこっそりと俺になにかの粉を手渡してきた。


「これは・・・?」


「睡眠薬だと。愛良の年齢、体格に合わせて実が調合したやつだから、心配ないだろ」


「愛良が寝てからが、俺の<仕事>ってわけだな」


「俺もすぐに合流するから心配するなって」


「・・・はいはい」


結局、宗次に押し切られるようにして、愛良との相部屋が決まった。


・・・いいけどな。別に、愛良と部屋にいる時間なんて短いし。


でもなんか、納得できないものもあるんだが・・・。





夕食後、俺はこっそりと飲み物に実が調合した薬を溶かし、それを愛良に飲ませた。


愛良は素直にそれを飲み、部屋でくつろいでいるうちに薬が効いてきたらしく、ぐっすり眠り込んだ。


彼女をベッドに寝かしつけて、俺はすぐに準備に取り掛かる。


明日の、怪盗夜叉の仕事の準備だ。



明日の夜6時半に<天使の宝剣>を盗みに行くことはすでに予告状で警察に知らせてある。


当日の警備体制も、なんとか情報を入手した。


今度はこちらがその対応策を練るだけだ。


俺は道具を持って、部屋を抜け出した。


目指すは神戸、異人館だ。


こんな夜にタクシーでも使って異人館を目指すわけにはいかない。


あらかじめ、俺は宗次と打ち合わせてレンタカーを借りていた。それも別行動中に里奈と宗次が借りてきて、駅前の駐車場に置いておいてくれてる。


俺は車に乗り込んで、宗次が来るのを待った。





どうも、胸騒ぎがおさまらない。


愛良が一緒だからか?


実がいないからか?


なにか、言い知れない不安が胸の内に渦巻いて、息苦しくなる。


俺はひとりで深呼吸を繰り返して、なんとか気持ちを落ちつけようとしていた。


「なんだ?準備するのに緊張してるのか?」


そんな俺の様子を見て、宗次が声をかけながら助手席に乗り込んできた。


「・・・そうじゃないけど・・・。・・・なんか、嫌な予感がしてな」


「大凶ひいちゃったしな」


「・・・・・・里奈だな」


けけけけ、と笑う宗次に、俺はじろっと睨み返す。また愛良から話を聞いた里奈が、宗次にそんな話をしたのだろう。


「大丈夫だって。怪盗夜叉に不可能はないぜ。なんたって、夜叉はひとりじゃないんだから、な?」


車の窓から夜空を見上げて、宗次が静かにそう言う。


怪盗夜叉は一人じゃ・・・・・・独りでは、ない。


「なんで、おまえは・・・・・・」


思わず、俺は苦笑してしまう。


なんでおまえは、そんな簡単に俺の心にするりと入ってくるんだか。


「じゃぁ、さっさとふたりで<仕事>の準備をすませるか」


俺は軽快にそう言って、車のエンジンをかけた。







異人館での準備はすぐに終わった。


予告日前日ということもあって、警備は厳重にされていたが、それでも俺たち怪盗夜叉にしてみれば、そんなの緩い、緩い。


展示してある獲物がたしかに本物であることを確認して、俺たちはちょっとした仕掛けをそこに施した。


そして、異人館のまわりにもある仕掛けを施していく。


この仕掛けの類はすべて、宗次のお手製だったりする。


怪盗夜叉の仕掛けるものは、たいていが宗次の発明だ。


予告状も宗次がせっせとつくっていたりする。


怪しいものからおもしろおかしいものまで、多彩に富んだ仕掛けをいつも用意してくるから俺も感心してしまう。


本人はどうやらそれが楽しいらしいが。


「警察のやつらが目を丸くさせて慌てる姿を見るのが好きなんだよな~」


・・・宗次のそんな言い分、俺もちょっとわかってしまったりする。


怪盗夜叉、つまり俺を必死に追いかける警察の連中が、目を白黒させる姿を見るのはちょっと楽しかったりする。


明日の夜も、この仕掛けできっとまたあわてふためくんだろうな。






「・・・逃走経路は、やっぱりこのルートでいいよな」


最後の確認で、俺たちは異人館のひとつの館の屋根の上にのぼって、逃走経路を確認する。


「・・・い、いいと、思うぜ。だから、早く降りよう」


宗次が声を震わせてうなずく。俺はつい、いつもの仕返しをしたくてにやにや笑って宗次を支える腕を手放す。


「いい加減な返事してないで、ちゃんと確認しろよ、宗次?」


「ば、馬鹿!!手を離すなよ!!」


宗次は慌てて俺にしがみついてくる。


そう、いつもふざけてばっかりのこいつ、じつは高所恐怖症だったりする。


今も必死に俺にしがみついて、下を見ないようにしている。


「・・・<組織>の連中が、どこまで俺たちの逃走経路を見切っているか、だな」


「少なくとも、夜叉が獲物を盗む前に盗むような面倒くさいことはしないだろうな」


屋根から下りながら、俺と宗次はそんな会話をする。



<失われた誕生石>シリーズを集めているのは俺たちだけじゃない。


ある<組織>もまた、それを求めている。


そして、それを集めている怪盗夜叉を殺すために必死になっている。


だから、俺たちは二重の仕掛けをしないといけない。


<天使の宝剣>を盗みだすための仕掛けと、<組織>のやつらを出し抜くための仕掛け。



一晩中かけて、俺と宗次はその仕掛けをなんとか施すことができた。





「・・・あ、そういえばさ、さっき言ってたことだけど」


すでに明け方近くなったころ、俺と宗次はようやく車に乗って京都のホテルに向かっていた。


なんとか眠気をこらえるために、俺は宗次に話しかける。


「さっき?なんだっけ?」


「京都観光。里奈とできなかったのか?」


「あぁ・・・それね・・・」


話をふれば、宗次は遠い視線を向けて、ため息をひとつつく。


「なんだ?里奈と喧嘩でもしたのか?」


「違うって。・・・・・・<レイニー・ブルー>の持ち主って、どんな人物か、覚えてるか?」


「たしか、京都在住の貴婦人・・・・・・老婦人だよな?」


京都に何代も居を構えている名家の老婦人。そこにあった宝石のひとつが、この前の獲物だった、<レイニー・ブルー>というサファイアだったわけだ。


「そう・・・老婦人・・・老婦人だったんだよ・・・」


がっくりと肩を落とす宗次に、俺は意味がわからず眉を寄せる。


「なんだよ?」


「・・・和馬、よく覚えておけ。老人の話は、無駄に長い・・・」


「・・・おまえら、まさか、正面から返しに行ったのか?」


「おうとも。警察のふりしてな」


「・・・・・・そりゃまた大胆な・・・」


普段、俺は獲物を返却するときは、こっそりと返却してる。


あとで持ち主がちゃんと気付けるようにメッセージを残すことがあっても、正面切って返しに行ったことはない。


変装してとはいえ、正面から返却に行くとは、宗次と里奈はやることが大胆だ。


「でもよ~せっかく返しに行ったのに、あのばあさん、話が長い長い!!どうしてあの宝石が盗まれたのか、から、どうやって探し続けたのか、とか、あの宝石にまつわる話、とか、そりゃも~~~長い!!」


そんなこんなで、<レイニー・ブルー>返却に半日以上かかり、ふたりは京都観光を満足にすることができなかったらしい。


「・・・そりゃ悪いことしたな」


素直に俺もそんな言葉が出てしまう。俺は愛良とついつい楽しんでしまっただけに。


「・・・俺は学んだよ。返却作業は、今まで通り、隠密にやるほうがいいな・・・」


朝日を浴びて眩しそうに目を細める宗次に、思わず俺は苦笑をもらした。



その後、ホテルに着いた俺たちは、少ない睡眠時間を求めるようにして、ベッドにもぐりこんだ。











そんなわけで、和馬サイドの旅行です。

京都編は、和馬と愛良はのほほんと過ごしているのでつまんないですね。

せいぜい宗次に言いくるめられている和馬くらいでしょうか?(笑)

和馬は夜叉の主犯格ということもあって、すぐにダークサイドな思考にいっちゃうのですが、宗次たちがそれをうまくコントロールしてくれてます。

和馬と宗次でせっせと仕掛けをしかけたり、高いところを怖がる宗次のシーンとかがわりと好きだったりします。

宗次ってたぶん、結構女々しいところがあると思う・・・(笑)

紫月は大凶をひいたことはありませんが、ひいたことのある人は見た事あります(笑)

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