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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
10/86

4、正しい連休の過ごし方 <Side 愛良>(後編)






怪盗夜叉の今回の獲物<天使の宝剣>。


それが、神戸にある異人館っていう建物で展覧されているものらしい。



夜叉に盗まれないように、と<天使の宝剣>は厳重な檻の中に展示されていて、あれでは簡単に盗むこともうごかすこともできそうにない。


どんな不可能なことも可能にしてきちゃった夜叉だけど、今回は大丈夫かなぁ。


そんな心配をしていると、檻の中にあった<天使の宝剣>がなぜか、どんどん膨らんできた。




「なに、これ・・・?」


見間違えかと思ってじぃっと画面を見ても、どんどん<天使の宝剣>は膨らんでいて。


まるで風船みたいに膨らんでいく。


その事態に気付いた警察のひとたちも慌てて檻のまわりをおろおろとしだしてる。


<天使の宝剣>って短剣じゃなくて、風船だったの?!












4、正しい連休の過ごし方◎  <Side 愛良>(後編)








「すごいね、どうなっているのかな」


「本当ね。イタズラ好きなんだから」


あたしがお姉さんに同調を求めれば、お姉さんはまるで子供のイタズラをおもしろがるかのような表情を浮かべた。


画面の向こうの<天使の宝剣>はその間にもどんどん膨らんで、檻いっぱいになろうとしている。


早く檻をどけないと、<天使の宝剣>が爆発しちゃう!!




って、あたしが思うと同時に、檻ぎゅうぎゅうに膨らんだ<天使の宝剣>が、ばん、という大きな音共に弾けた。


「あ、<天使の宝剣>が割れちゃった!!」


割れると同時に、檻の周辺に煙幕がたちのぼる。


テレビの中継も画面いっぱいにひろがった煙幕に動揺した様子だ。


このままじゃ<天使の宝剣>がどうなったかわからないよ~!!


はやく煙幕をどけろ~と念じていると、画面の向こうからくぐもった声が聞こえてきた。






「こんばんは、みなさま。お集まりいただきありがとうございます」





煙幕の向こうから聞こえてくる、このくぐもった声。夜叉だ!!


夜叉は仮面をかぶっているから、声がくぐもっている。


やがて煙幕が晴れていき、なんと、<天使の宝剣>を囲っていた檻の上に立つ、怪盗夜叉の姿が現れた。


明かりのついた部屋に映える、漆黒の衣装。


その手には、膨らんで割れちゃったはずの<天使の宝剣>もある。



「<天使の宝剣>、たしかにいただいていきますね」






夜叉は手に持った<天使の宝剣>をカメラに突き出すように示す。カメラも夜叉の手の中にある<天使の宝剣>をじっくりと映す。


・・・すごい。どうやって盗みだしたんだろ・・・。



あたしが感心しているように、現場にいる警察のひとたちも、呆気にとられて檻の上に立つ夜叉を凝視している。



『なにやってるんだ、奴をつかまえろ!!』




テレビの向こうで警察のえらそうな人が叫んだと同時に、まわりの警官もはっと我に返った様子で夜叉に飛びかかる。


だけど、夜叉は軽い身のこなしでそれを交わして、最後に一言付け加えた。


「それではみなさま、ごきげんよう」


再び立ち上った煙幕。また中継画面は煙幕でいっぱいになって何も見えなくなる。


しかも、同時に部屋の明かりまで消えてしまって、画面は真っ暗でなにも見えなくなってしまう。




ただ携帯が壊れたわけじゃないとわかるのは、画面の向こうで、警官のひとたちが色々なことを叫びながらあわただしく動いている様子が聞こえるからだ。





すごい!!さすが夜叉だ!!


今夜もあっさりと獲物をGETしちゃった!!





すごいねって里奈お姉さんに声をかけようとして、あたしは声をかけるのをためらってしまった。


画面を見つめたままの里奈お姉さんが、すごく真剣な顔だったからだ。


その目はたしかに画面を見つめているけど、意識は別のところにあるみたいで。片手を片耳につけたままのイヤホンにあてている。よく聞こえるようにするみたいに。



里奈お姉さんのただならぬ雰囲気にびっくりしながらも、あたしは画面が切り替わった中継画面に再び目を落とした。


テレビ画面は今度は<天使の宝剣>を飾っていた建物の外の様子を映し出している。


サーチライトが辺りを照らしているけれど、もうそこには、怪盗夜叉の姿はどこにもなかった。



どうやって夜叉が逃げたかはわからないけど、今夜も鮮やかに獲物を盗み取った怪盗夜叉に大満足して、あたしは画面から顔をあげた。


テレビ画面も夜叉を探すことをあきらめて、先ほどのダイジェストを繰り返していたりする。




だけど、里奈お姉さんの表情はなぜか強張っていた。


そばにあたしがいることを忘れているかのように、ぶつぶつとなにかを言っている。


「・・・・・・<ビール>、合流はできないの?」


あ、またビールって。合流って、なんのことだろ?


すると、しばらくするとお姉さんの表情がほっとしたように和らいだ。


「・・・・・・よかった、無事なのね」


だけど、その発言のあと、すぐにお姉さんの表情が曇る。


「うまくかわせそう?無理は禁物よ、や・・・<アールグレイ>」


あれ?紅茶が飲みたくなったのかな?


不思議そうに見上げるあたしと里奈お姉さんの目が合った。お姉さんは照れ臭そうににこっと笑った。


あたしも笑い返そうとした矢先、お姉さんの表情が変わった。




「<アールグレイ>?!」




突然紅茶の名前を叫んだ里奈お姉さん。


あたしのまわりにいた人も、ちらっとこっちに振り向いた。


でもお姉さんはそれに気付かないのか、顔を真っ青にしている。


「里奈お姉さ・・・」


具合が悪くなったのかと心配になったあたしの声が途中で途切れた。


パレードが始まったのだ。


あたしも思わずパレードのほうに目を向けてしまって、ぱっと横を見ると、お姉さんが複雑な表情を浮かべたままあたしの頭をなでた。


「ごめんね、愛良ちゃん。ちょっと、私トイレに行ってくるね」


「え、でもパレード・・・」


「すぐに戻ってくるから、パレード見ててね」



まくしたてるようにお姉さんはそう言ってさっさと立ちあがってしまう。


その間にも「<ビール>、いそいで」とか言っているのが聞こえる。


あ、さてはお酒を飲みにいくのかな?


ま、あたしには関係ないことだし、と思い直して、あたしは目の前の綺麗な夜のパレードに見惚れることにした。









パレードが終わるころに里奈お姉さんは戻ってきた。


残念。お姉さん、あまりパレード見れなかったんじゃないかな?


「ごめんね、戻るの遅くなって。パレードのせいで通行を規制してたから、なかなか戻れなくて」


「ううん、大丈夫。パレード、きれいだったよ。お姉さんも見れた?」


「うん、少し見れたわ」


お姉さんの顔はまだ少し青ざめていて。


ビールを飲みに行ったのかな、と思ったけど、全然お酒の匂いもしない。


「花火、みんなで見れるかな?」


何気なく尋ねただけだったんだけど、里奈お姉さんはひどく驚いた顔をしたあと、少し表情を曇らせてうなずいた。


「・・・見れると、いいけど・・・」


どういう意味だろう?和馬お兄ちゃんも宗次お兄さんも花火のこと忘れているかもってことかな。





花火が始まる8時半まで、あたしと里奈お姉さんはまだ乗っていなかったアトラクションに並んで乗ったり、買い物をして時間をつぶした。


でも、その間もずっと、お姉さんは心ここにあらずって感じで、ずっとそわそわしながら、片耳につけたイヤホンになにか言ったりしていた。


あれってもうひとつの携帯とかだったりしたのかな?


宗次お兄さんと連絡してたりするのかな、とか、色々考えたけど、あえてあたしはそこはお姉さんに聞かなかった。


なんとなく、聞いちゃいけない気がしたから。





8時半になって、和馬お兄ちゃんたちと約束していた場所にあたしと里奈お姉さんは向かった。


絶対遅れてくると思ったのに、そこにはすでに宗次お兄さんがいた。


でも、和馬お兄ちゃんが一緒にいない。


「・・・宗次、和馬は?」


「それが・・・」


あたしが尋ねるよりも早く、里奈お姉さんが宗次お兄さんに詰め寄った。ちょっと尋ねる、というよりも、切羽詰まって攻寄っている感じだった。


答える宗次お兄さんも、言葉を選ぶようにしてためらっている。


「・・・具合が悪くなって、先にホテルの部屋で休んでいることになったんだ。だから、ごめんな、愛良。和馬とは一緒に花火を見るのは無理なんだ」


宗次お兄さんが申し訳なさそうにあたしにあやまる。


あたしだってお子様じゃない。和馬お兄ちゃんが具合悪いのに、みんなで見たい、なんてわがままをいうつもりはない。


だけど。



「和馬お兄ちゃん、大丈夫なの?朝から眠そうだったのも、具合が悪かったからかな?」


「・・・そうかもしれないな。とりあえず、今は部屋で休んでいるから、花火を見たら、ホテルに帰ろうな」


「・・・うん」


和馬お兄ちゃん、アトラクション乗りすぎてはしゃぎすぎちゃったのかなぁ。


具合が悪いなんて大丈夫かな。


今夜もきっと同じ部屋だろうから、看病してあげなくちゃ。






閉園の花火も見終えて、あたしたちは大阪駅のそばにあるホテルに向かった。


宗次お兄さんがすでにチェックインはすませてくれているから、お兄さんが里奈お姉さんに鍵を渡す。


「じゃぁ、今夜は里奈と愛良で泊ってくれ」


「わかったわ」


「え?!あたし、里奈お姉さんと一緒なの?!宗次お兄さん、里奈お姉さんと一緒じゃなくていいの?!」


てっきり今夜も和馬お兄ちゃんと同じ部屋だと思っていたから、あたしは心底驚いた。


そうやってあたしが宗次お兄さんに尋ねれば、お兄さんはすぐにおどけた表情で大仰にうなずく。



「愛良は男心がよくわかってるな~!!そうなんだよ!!俺は里奈とず~っと一緒にいたいんだけど、でも仕方ない!!親友の看病は俺がしないとな!!」


「和馬お兄ちゃんの看病だったらあたしでも・・・」


「おやおや~、愛良のエッチ」


くすっとおどける宗次お兄さん。


なんで看病がエッチって言われるの?!


むっとした表情であたしが返すと、里奈お姉さんが宗次お兄さんに怖い顔をした。



「宗次。愛良ちゃんは真剣なんだから茶化さないの。・・・愛良ちゃん、気持ちはわかるけど、今夜は宗次に任せてくれないかしら?今日は愛良ちゃんもいっぱい遊んで疲れたでしょ?」


「でも・・・」


「愛良、俺が信用できないってわけ?」


今度は宗次お兄さんが割と真剣な表情であたしに問いかけてきた。


「・・・そんなことないけど・・・」


「じゃぁ、決まり。じゃ、女二人で仲良く過ごしてくださいね~」



それ以上の問答は無用とばかりに、宗次お兄さんは手をひらひらとさせながら、部屋に入っちゃった。


仕方なく、あたしも里奈お姉さんと一緒にもうひとつの部屋に入った。









「あら、いけない。化粧落とし、忘れちゃった」


荷物を広げながら、里奈お姉さんが叫ぶ。


「ごめんね、愛良ちゃん、ちょっと買い物に行ってくるから待っててくれる?」


「うん、いいよ」


「夜は物騒だから、絶対に部屋から出ないでね」


「う、うん」


すごく強調して念押しされて、あたしはたじたじになりながらもうなずく。


何度もしつこいくらいに、部屋でおとなしくしているように告げてから、お姉さんは部屋をでていった。


本当は隣の部屋の和馬お兄ちゃんの様子を見に行きたいけど、宗次お兄さんがあとで里奈お姉さんに告げ口しそうだから、あきらめた。


いつまでたっても帰ってこない里奈お姉さんを待つために、お風呂に入ったり、歯を磨いたりして時間をつぶしたけど、なかなか戻ってこない。



心配になってあたしはホテルの電話で、前に教えてもらった里奈お姉さんの携帯番号に電話をかけた。


短い呼び出し音ですぐにお姉さんが出る。


『・・・はい?』


「あ、里奈お姉さん?」


『愛良ちゃん?!』


「お姉さん、今どこ?迷子になったりしてない?」


『大丈夫よ、もうすぐ戻るから、眠たかったら寝てていいからね』


あたしからの電話だとわかって驚いた様子のお姉さんだったけど、すぐに優しい声でそう言ってくれた。


「ううん。お姉さんが戻るまで、待ってるから」


『・・・わかったわ。すぐに帰るからね』


ちょっとためらったあと、お姉さんはそう言って電話を切った。


そのあと5分もしないうちに部屋に戻ってきたところからすると、ホテルにもう近付いていたのかもしれない。






無事に里奈お姉さんも帰ってきて、あたしはお姉さんに言われた通り、どっと疲れが込み上げてきた。


今日は昨日よりもすっごく楽しかったし、はしゃいだせいかも。


昨日は和馬お兄ちゃんとデートできて楽しかったし。


今日は和馬お兄ちゃんとあまり一緒にいられなかったけど、里奈お姉さんとテーマパークで遊べたし。


怪盗夜叉の活躍も見ることができたし。


あたしはすっごくすっごく大満足して、ゴールデンウィークを終えることができた。





やっと終わりました、愛良サイド。

・・・おや?連休の旅行記の話のつもりが、全然旅行に触れてない感じが……(汗)

ま、いっか。

里奈がおろおろしているその裏で、和馬たちがどんな行動をしていたのか、それは次回以降の和馬サイドでお話することになります。

こちらも申し訳ないのですが、前中後編と長いのですが、お付き合いいただけるとうれしいです。

ちなみに、紫月はまだ、実在する大阪のテーマパークに行ったことがありません・・・(泣)

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