6 これからの旅路
翌朝。
「ふわ~ぁ、よく寝た~」
マールがまだ眠っている中、妖精アルバが目を覚ました。
アルバはあくびをしつつも両手と羽根をめいっぱい伸ばし、体をほぐした。
「んん……、おはよ……」
「おう、おはよう!」
その直後、マールも起きだした。
マールは目を何度か擦ると、ぼさぼさになった髪を手櫛で軽く整え、まくら代わりにしていたカバンを肩にかけて立ち上がり、外していたベールを被るとすぐさま別の町へ向かうべく野宿した茂みを後にする。
マールの事を気に入ったアルバも、彼女の後を追っていった。
他の町へ向かう街道にて。
「ところでマール」
「なあに?」
「どうして野宿なんてしたんだ? お前冒険者だろ? そんなに金なかったのか?」
「うーん……。実は――」
マールは今まで起きた事を隠さず話した。
最初は好奇心で聞いていたアルバだったが、マールの話を聞いていくうちにだんだんと表情を強張らせていき……。
「――というわけなの」
「なんだそれ! ひでえよ!」
話を聞き終えたアルバは、奥歯をぎりぎりとさせながら怒った。
「怒ってくれてるんだね、ありがとう」
「いやありがとうじゃないよ! とんだ奴だ! サキュバスよりもえげつねえ!」
「う、うん……」
その怒りように、マールも少し気圧されてしまっていた。
「あ、す、すまん。つい腹立って」
「ううん、アルバさんはいい妖精なんだね」
「さん付けなんてやめてくれよ! 呼び捨てでいいよ!」
「ふふ、じゃあそうする」
「で、これからどうするんだ? 冒険者にはもうなれないんだろ?」
「そうねえ……」
「そうだ! おいらのところに来いよ! 歓迎するぞ!」
「う、うーん……」
妖精は気まぐれで人の住んでいる場所へ来る事はあるが、本来は妖精の国と呼ばれる場所で住んでいる。
特殊な魔法のせいか入り口を見つける事が出来ず、未だに未踏の地とされていた。
マール自身、妖精にそこまで悪い印象はないものの、これだけ冒険者が存在して様々なダンジョンの攻略が進んでいる中、未開域な場所へ行く事に対しての不安感と抵抗感は拭えなかった。
「私、お母さんのやってきた事をやりたい」
「苦しんでいる人を救うって奴か?」
「うん」
そしてそれ以上に、この世界で苦しんでいる人を救いたいという思いがマールにはあった。
「別に冒険者じゃなくても出来るからね」
「でもお前、回復魔法使えないんじゃ……」
「確かに回復魔法は凄いと思う。でも回復魔法が万能で完璧ってわけじゃないからね。あと、治療院は大きな町にしかないから、人の少ない集落では役立てると思うの」
冒険者の間では必須能力となった回復魔法。
急速に普及していってるとはいえ、全ての病気を治せる程の実力者はまだ数少ない。
だからこそマールの存在はまだ無くなってないと、まるで自分自身に言い聞かせているようにそう言った。
「面白そうだな」
「面白いかどうかは分かんないけども……」
「おいらもついていく!」
「いいの? 何か用事があったんでしょ?」
「別に後回しでもいいよ! マールに治してもらった礼もしないとだしな!」
「う、うん」
こうして、妖精アルバが正式についていく事になった。
回復魔法が使えない治療師は、妖精を連れて各地を旅し、これから何を見ていくのか。
やがて二人の旅路が、マール自身にも予想のつかなかった事態になる事を知らない……。