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4 求められぬ癒しの手

「えへへ……、追放されちゃったなぁ……」

 誰も居なくなった部屋で、マールはそう一言つぶやくと、目を雑に擦って大きく深呼吸した後に部屋から出て行った。


 そしてその足ですかさず冒険者ギルドの職員へ話しかけて、次の所属先について話を聞いた。

 しかし……。


「冒険者で薬師の募集ですが、申し訳ございません。現在募集はありません」

「えっ……」

 自分の居場所が無い事を告げられたマールは、その場で顔を青くした。


「マルグリットさんは、回復魔法が使えないとの事ですよね?」

「はい」

 追放された少女、本名はマルグリットという。

 もっとも、周囲の人は愛称であるマールと呼ぶことが多い。


「治療師募集は、回復魔法を使う事が必須とされているのですよ。これを機に習得してみては?」

「うーん……」

 マールがここで躊躇うには理由があった。

 以前所属していた冒険者の一団で、ルルエリカが来た時にマールはこっそり練習をした。

 しかし、どうにも上手くいかなかった。

 ある程度誰でも使えるのはあくまで攻撃魔法であり、回復魔法は持って生まれた天賦の才が必要だと言う事を身をもって知っていたのだ。


 そしてもう一つ。

 マールの母親も同じように薬師をしており、そんな母親への憧れから始めたというのもあった。

 だからこそ、薬師という職を捨てられずにいた。


「ギルドの方でも、回復魔法の習得をお手伝いする事は可能ですが、いかがでしょう?」

「……ごめんなさい。やっぱりいいです」

 結局、マールを受け入れる冒険者の一団は存在しない。

 その事を知り、マールは服の裾をぎゅっと握りしめながら、小走りに建屋から出て行った。



 それでもマールはめげなかった。

 冒険者ギルドへ定期的に通い、マール自身を受け入れてくれる場所を探した。

 一度は諦めた回復魔法の習得も、ギルドを通じて習った。


 だが回復魔法が上達する事は無く、結局使えずじまいのマールが厚遇されるわけもなく、結果的にはどの冒険者一団にも迎え入れられる事はなかった。



 数日後。


 今日もまた冒険者ギルドへ通いながら、受け入れてくれる場所探しと回復魔法の練習をした。

 しかし、どちらも成果は出なかった。


「はぁ……。今日も駄目だったかぁ……」

 何をやっても上手くいかない現実と、貯めていたお金の底が見えてきた現実。

 二つの苦境が、マールの肩を落とす。


「あれ? マールさんじゃないですかっ!」

「あなたは!」

 そんな時、マールの背後から声が聞こえてくる。

 マールはそちらを振り返ると……。


「ルルエリカさん、どうしてここに?」

「近くのダンジョンを攻略し終わって、戦利品をバイヤーへ換金して貰いに来たんですっ」

 そこには、かつて所属していた冒険者一団の治療師であるルルエリカが立っていた。


「マールさん? なんだか暗いかも?」

「う、うん。ちょっとね……」

「もしかして、まだ(・・)冒険者一団に所属していないとか……?」

 ルルエリカはひとさし指を自身のあごに当て、少し前かがみになりながらそう言った。

 現状を見通されたマールは、ただ黙っているしか出来なかった。


「いい事、教えてあげますっ」

「ん?」

 そしてルルエリカは落ち込むマールの顔を覗きながら、少し薄目になると……。


「あなたを追放しようと提案したの、私なんですよっ」

 両手を合わせ、それを頬に当てながら満面の笑みでマールへそう告げたのだ。


「え……。ど、どうしてどんな事!」

 マールは目と口を開き、半歩程下がると、すかさずその理由を聞いた。


「だってぇー、邪魔だったし?」

「わ、私は何も邪魔なんてしてない!」

 ルルエリカの発言に、マールは声を荒げて反論した。

 その様子に、周りに居た冒険者も彼女達の方を振り向いた。


「にっぶいなぁ! 女が一人だと、他の馬鹿な男がチヤホヤしてくれるんだよ! 二人じゃ駄目なのわかるぅ?」

「そんな!」

「現に、あごひげの戦士なんかちょっと一晩一緒にすごしたらもう味方しちゃってさ。あはは、本当チョロすぎだよね」

「うう……」

「ま、いきなりは刺激が強かったかもね。あんたみたいな可愛げの無い芋臭い女とずっと一緒だったわけだし?」

 マールはこの時、ルルエリカの言動を思い出した。

 確かに青年戦士にやたらくっついていたし、服装だって太ももや体のラインを意識させている。

 動きやすいという理由でそういう格好をする人らも少なくはないので、マール自身気にも留めなかったが、ルルエリカの場合は異性を誘惑して味方につけるためのものだったのだ。


「あと、ギルドに掛け合っても無駄だから、私のお父さんが冒険者ギルドの偉い人と知り合いでさ、あんたを復帰させないように言っておいたからー」

「ひ、ひどい……」

「まあ、冒険者廃業して実家に帰っていれば? 芋臭女ちゃん♪ あははっ」

 そう言いながら、ルルエリカは手を振ってマールから去って行った。

 マールは拳を強く握りしめながら、ただ涙をこらえる事しか出来ずにいた……。

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