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3 古きは捨てられ、新しきに変わり

 治療師ルルエリカがパーティに加入してから数日が経った。


 マールが所属している冒険者一団は、あるダンジョンを攻略しようとしていた。

 そこは人一人が辛うじて通れる通路を抜けていくと、やがて大きく空洞になった部屋に辿り着く、その部屋の奥にはまた細い通路がある。

 それらがまるで蟻の巣のように枝分かれして地下に張り巡らされている事から、アントネストと呼ばれている場所だ。


 アントネストは冒険者の間でも踏破者の少ない場所だった。

 その理由は迷いやすい構造である事、出入り口の狭さから、宝を得ても持ち運びが容易でないという事、堅い殻で全身を覆われ、侵入者へ無差別に襲い掛かる巨大蟻が居る事だった。


 そしてマールが所属している冒険者一団も、巨大蟻に襲われたがどうにか切り抜け、ひと呼吸おく事が出来た。


「いてて、油断した……」

 だが無傷で乗り切れたわけではなかった。

 あごひげの青年は戦いの途中で怪我をしてしまい、筋肉質の中年戦士も口には出さないが全身にあざが出来ている。


「戻るか?」

 二人のけがは、決して無視出来るものはなかった。

 今までならば、探索半ばであっても戻るべき局面だった。


「いや、大丈夫だ。俺達にはルルエリカが居る」

 しかし、今の冒険者一団は違った。


「回復頼む」

「はいっ! 回復魔法使いますっ!」

「すげえ、みるみるうちに傷が塞がっていくぞ……」

「疲れもとれている、すごいですね」

「ありがとうございますっ」

 ルルエリカは傷ついた戦士たちに手をかざす。

 手からは淡く柔らかい緑色の光が放出されると、受けた傷が瞬く間に塞がって元に戻っていったのだ。


 冒険者達は回復魔法に歓喜した。

 死なない限り、魔法使う本人の体力さえ続けばダンジョン探索が出来るという破格の好条件を得た事を改めて確認したからだ。


「あの、これも飲んで下さい。皆さんの体力回復の為に作りました」

 そんな最中、マールはすかさず、自ら調合した特製の薬を差し出した。


「おう。いつもすまないな、マールちゃんありがとう!」

「あ、ああ……、ありがとう」

 中年戦士は快くそれを受け取って一気に飲み干したが、青年戦士は少しぎこちない笑顔を見せながら口をつけると、半分も飲まないうちに自らのカバンの中へしまったのだ。


「ルルエリカ、まだ体力はもつか?」

「はいっ!」

「頼もしいな。お前が居ればどんなダンジョンも攻略出来そうだ」

 元々渡した薬の味は良くない。

 だから残すのは当然だし、今なら回復魔法もあるから大丈夫。

 マールはそう思いつつ、青年戦士の方を見ながら一人で静かに頷いた。


 青年戦士はそんなマールの気持ちと視線に気づく事無く立ち上がると、ルルエリカと仲良く会話しながらさらなる深部へと向かっていった。



 そうやって日々は過ぎていった。

 回復魔法の使い手を得た冒険者一団は、今までにない程のハイペースでダンジョンの攻略を行っていった。

 その結果、他の冒険者の間では噂になっていった。

 難しいダンジョンの攻略やまだ見ぬ宝の収集といった、さらなる活躍が見込まれると誰もが思っていた。



 それからさらに数日が経ったある日の事。

 冒険者の斡旋と管理を国から委任されている機関、冒険者ギルドの建屋にて。


「マール、すまないがお前はもう連れて行く事は出来ない」

 建屋の一室で、一団のまとめ役立った青年戦士が、少し申し訳なさそうにマールへとそう告げた。


「……そんな! 私はちゃんと頑張ってたのに!」

 普段はあまり怒らないマールも、その言葉にだけは強い口調で反論した。


「でもお前、回復魔法使えないじゃないか」

「…………」

 しかし、回復魔法が使えないという現実を突きつけられると無言のまま下唇を噛みしめる事しか出来なくなっていた。


「おい、本当にいいのか? 確かに回復魔法は偉大だが、別にマールちゃんは何も失敗してないじゃないか」

 マールに非情な現実を突きつけられている中、中年戦士が青年戦士へ睨みつけながらそう告げた。

 まるでやってはいけない事を止めるようにも見えた。


「ルルエリカ、同じ治療役としてどう思う」

 だが青年戦士はその言葉を無視し、隣に居たルルエリカへと問いかけた。


「ごめんなさい、回復魔法が使えないマールさんはこれ以上ついていけないと思います」

 ルルエリカは少しためらった後、マールから視線を外しながらそう言うと……。


「ごめんなさい……、ごめんなさい……」

 体を震わせ、涙をぽろぽろと零しながら何とも謝った。


「泣くなルルエリカ、お前が悪いわけじゃない」

 青年戦士は、突然の追放宣言でショックを隠せず俯いているマールではなく、泣きじゃくるルルエリカを庇った。


 実はこの時、青年戦士と回復魔法使いルルエリカは恋仲だった。

 当然マールもその事には察していたが、異性同士の冒険者が仲良くなる事はさほど珍しくはなかったので、特に気に止めてはいなかった。


「そういうわけだ。ギルドの人らには他の所属先を探して貰っているから安心しろ」

「……はい」

「今までありがとうな、じゃあな」

 青年戦士は泣いているルルエリカの肩を抱きかかえながら、部屋を出て行く。

 他の仲間も青年戦士の後を追って出て行き、中年戦士は部屋に取り残されて俯いたまま動かないマールを何度か見た後に出て行った。


 こうして薬師であり治療役であるマールは、冒険者一団から追放された……。

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