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23 マールの決断

 貧民街、キングの館入り口にて。


「……どうした? まだ邪魔をするのか?」

 そこには、無数の住人が居た。

 そして館から出てきたアルベルドの方を、じっと見つめていた。


「いや、もうそんなつもりはねえ……」

「ほお、主人に従わないのか?」

「別に本心からキングを慕っていたわけじゃねえ……、むしろあんたこそが俺達の王様だ」

「俺は冒険者だ、お前達の王になるつもりはない」

「そうか……」

 アルベルドはマール以外の人間には興味は示さなかった。

 だからこそ、人々を束ねる存在になろうともしなかったし、その気持ちは一欠けらも無かった。

 故に人々は、彼の返答に対してただうなだれるだけだった。


「それよりも近くに川はあるか?」

「え? あ、あぁ、向こうの方にある……」

「そうか、教えてくれて感謝するぞ」

 住人の一人が指で示した方向へアルベルドは真っすぐ歩いて行く。

 人々はマールを抱きかかえるアルベルドへ道を開けつつ、少し名残惜しそうな眼差しを向けて彼を見送った。



 貧民街の住人が教えた通り、ルビーロザリアの町はずれには、清らかな小川があった。

 アルベルドは川のほとりにマールをそっと置くと、キングの館からこっそり取り戻したマールのカバンを開けて布を取り出し、それを水に浸して濡らし、マールの体に塗られた香油をふきとっていく。


「アルバ、周囲を見張っていてくれ。俺の嫁の裸体はあまり晒したくはない」

「ああ!」

 アルバはそう言うと、元気よく川から離れていった。


「マール、すまないな」

 誰も居なくなったのを確認すると、アルベルドはそう一言告げて悪趣味な下着を脱がせた。


「…………」

 そこには、生まれたままのマールの姿が横たわっていた。


「以前もそうだな、お前は無防備な姿をよく晒す……」

 アルベルドは一つため息をつきながらそう言うと、香油をふき取るのを続けた。


「う、うーん……」

 その時、今まで意識が無かったマールは、ゆっくりと目を開けた。


「おお、気がついたか! 良かったぞ!」

「アルベルド……、わたし……」

 戸惑っている様子だったが、キングの館に居たような虚ろな状態ではなく、瞳にはいつもの元気な光が戻っている。

 その事を確認し、笑顔になったアルベルドだったが……。


「きゃあっ! な、なにするんですかっ!」

「ち、ちがう! これはその……! 今全てを話すからよく聞け!」

 マールが自分自身の姿を見た途端、局部を腕と手で隠してそう言い放つと、アルベルドは慌てながらも今までに起きた事をどうにか伝えた。


「――というわけだ」

「そうだったんですね……」

 キングの館で起きた出来事を聞いたマールは、目線を下に落としながらそう答えた。


「あ、あの……」

「どうした? 服なら気にするな、また用意する」

「あっ、それもなんですけども……」

「何か他にあるか?」

「あの……、私に妖精の王様の……、お嫁さんって出来ますか?」

 マールの顔は真っ赤だった。


「今……なんと……?」

「もー! 何度も言わせないで下さいっ!」

「あ、ああ……、すまない」

「その……、あの……。私、異性の人に裸見られちゃったし、責任とって貰わないといけないって……」

「…………」

 マールは幼い頃、母親から言われた事があった。


 ”大切な人にのみあなたの全てを見せない”

 ”そしてあなたの全てを受け入れてくれる人と結ばれなさい”


 その言葉はマールの中では絶対であったため、全てを見せたアルベルドに恥ずかしそうにそう言ったのだ。


「で、でも、妖精の王様が相手なんて、やっぱり無理だし……」

「…………」

「私、そもそも人だし、薬作る事くらいしか出来ないし……」

「そうか」

 だが、言いつけを守る一方で迷いもあった。

 マール自身、誰かの伴侶にはなれないと思っていたからだ。

 それがただの平民ではなく、一国の主、しかも妖精の国の王だ。


「ならば答えよう。マール、余の伴侶となれ」

 そのマールの迷いに対して、アルベルドはただ真っすぐにマールを見つめながらそう告げた。


「……はい」

 アルベルドの気持ちが本当であった事。

 身分や種族や能力なんて関係なかった事。

 全てが分かった時、マールは一粒涙をこぼし、彼を受け入れた。

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