22 王の憐れな最後
マールとキングの距離が、限りなく無くなろうとしたその時。
「マール!」
宮殿の扉が勢いよく開くと、そこからアルベルドとアルバが現れた。
アルベルドもアルバも慌てた表情をしており、ここへは最短最速で向かった事が容易に察せた。
「折角これからだというのに……」
キングはマールからゆっくりと離れると、近くに居たジルコニアへ目線で合図を送る。
ジルコニアはその合図を受け取ると一度だけ頷き、今にも倒れそうなマールの手を引いて部屋の壁際へと下がった。
「アルベルド! マールが!」
「マール! マール……?」
アルベルドはジルコニアの手からマールを取り戻そうと駆け寄った。
「残念だったな、冒険者」
だが、その間にキングが割って入ってきて、勝ち誇った笑みを見せた。
「何が残念なのだ?」
「ほら、マールはもう俺のモノだ。マール自身も望んでいる」
「……そうは見えないが。お前の目は節穴か?」
アルベルドは腕を組み、少し首をかしげながらそう告げた。
キングは彼の言動に、嘲笑しながらもマールの方を再び向くと……。
「涙……?」
「体の自由は奪われても、心までは奪えなかったようだな」
「馬鹿な! このキングを拒んでいると?」
マールは呼吸を荒くしながらも、光を失った瞳からは涙がこぼれ続けていた。
その様子を見たキングは酷く怒った。
「さて、仕置きの時間だ」
「やれやれ、たかが冒険者風情がこのキングに立ち向かうのか!」
「……愚か者め、”余”が本当にただの冒険者と思ったか」
「ジルコニア、衛兵を呼べ! こいつらを八つ裂きにしてから、ゆっくりと教えてやる」
「はぁい」
そしてキングは、その怒りを不届き物の侵入者を処断する事で解消しようと、傍に居たジルコニアへ意気揚々と指示を出した。
「残念だったな、衛兵はもう来ない」
ジルコニアは衛兵を呼ぼうと部屋から出ようとしたその瞬間、アルベルドは冷静な口調で告げた。
「どういう事だ?」
「お前が冒険者と馬鹿にしているお方は、おいらの国の王様なんだよ!」
「おいら……妖精……。……まさか!」
「そうだよ! 妖精王アルベルドにかかれば、この城の衛兵を退けるなんて朝飯前さ!」
「じ、ジルコニア!」
キングやジルコニアは特に魔法の知識があるわけではなかった。
しかし、妖精の王とはどういう存在なのかを多少は知っていたのと、アルベルドがここまで侵入してきた事を思い返して彼の発言が嘘でない事を理解すると、今度はジルコニアがアルベルドへと襲い掛かってきた。
ジルコニアの手には、黄金で装飾された短剣が握られていた。
ジルコニアは、舞いとも思えるような流れる動きでアルベルドへと短剣を振るった。
まるで羽根でもあって、空を飛んでいるのではないかと思わせるくらいに俊敏で優雅な立ち回りは、かなりの手練れである事を周囲に分からせるのに十分だった。
「ほう、やるではないか。そして美しい動きだ」
現にアルベルドも、ジルコニアの動きには感心していた。
腰に下げていた剣を抜き、彼女の攻撃を何度か受け止めるものの、反撃には至らず防戦一方だった。
「だが、それがどうした?」
しかし、アルベルドは風切り音を鳴らしながら剣を振るうと、ジルコニアの持っていた短剣をばらばらにしてしまった。
「そ、そんな……!」
人間として一流の剣さばきを出来るジルコニアだったが、人ならざる妖精王の前では児戯に等しかった事を思い知らされると、その場に座り込んでしまった。
「や、やめろ……。来るな……!」
全ての武器を失ったキングは、声を震わせながら後ずさりをしていき……。
「いいか! このまま来ればお前の恋人も道連れだ!」
そして、未だ意識が戻らないマールの首元へ腰に下げていた短剣の刃を当てた。
「キングと呼ばれているからには、せめて支配者の矜持くらいはあるかと思っていたが……。これではならず者と変わらぬな、愚か者め」
だが、アルベルドは動じる様子は無かった。
アルベルドはゆっくりと手をあげていき……。
「……その姿ならもう欲望のままに振るう事も出来まい」
アルベルドがキングに手をかざした直後、キングは薄緑色の煙に包まれてしまい、瞬く間にその姿はカエルになってしまった。
「キング! ああ……、なんてことを!」
倒れていたジルコニアは、カエルへと変わってしまったキングの方へ寄り添った。
カエルになったキングは、何かを訴えかけるようにケロケロと喉を鳴らした。
「ジルコニアとやら、お前の主にかけたその魔法、解きたいか?」
「当然よ!」
「ならば、口づけをせよ。真に愛しているのならば、その魔法は解けるだろう」
そう言い残すと、アルベルドはマールを抱きかかえてキングの館から去った。
アルバは変わり果てたキングと、そのキングの傍に居るジルコニアの方を振り返りつつ、アルベルドの後を追った。




