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21 砂上の楼閣

 マールは怒涛のごとく貧民街のキングにさらわれてしまった。

 薬学に強いという点以外はごく平凡な少女であるマールは、当然抗っても成果は出ず、結局なす術無いままある場所へたどり着いた。


 その場所は、貧民街の陳腐で偏狭な建物とは異なり、壁や柱は黄金で彩られ、綺麗に磨かれた石柱が立ち並び、大きく広がって悠々とした作りになっている。

 床に極彩色の絨毯が敷かれており、塵や埃一つ落ちていない。

 貧民街に漂っていた腐臭も無く、むしろ甘い花の蜜の香りがほんのりとしている。

 まるで王族が住まう宮殿のような印象の強い場所だ。


「キング、おかえりなさぁい」

 そんな地上の楽園ともいえるような場所へキングが帰還すると、花瓶にさしていた花の手入れをしていた一人の女性が手入れを中断し、近寄ってきた。


「あ、あなたは……?」

「こいつは俺の正妻のジルコニアだ」

 ジルコニアと呼ばれた女性。

 健康的に焼けた小麦色の肌とは対極的な、周囲の明かりを反射するくらい眩い銀色の短い髪が印象的だ。

 体型も綺麗にくびれた腰、大きさはあるが重力に負けないハリのある胸と、同性のマールも目を見張ってしまう。

 そしてその体型を惜しげもなく見せつけるように、局部を金属の鎖や宝石によって彩られた下着で隠す以外は全て露出している。

 顔立ちも当然よく、周囲の彫刻や絵画にも負けないくらい目鼻立ちははっきりとしている。全てにおいて完璧と言っても過言ではない、キングが正妻と呼ぶだけの美女だ。


「この子はなぁに?」

 美女ジルコニアは吐息交じりの声かつ、蕩けた表情でキングへ問いかけた。


「俺のおもちゃだ」

「随分若い子を連れてきたのねぇ」

「たまにはいいだろう? あとは頼む」

「はぁい」

 キングとジルコニアはお互いに話し合った後、キングは室内の奥にある扉へと入っていった。


「あなたはこっちよぉ」

 そしてキングを見送ったジルコニアは、振り向きながらマールへそう言った。

 マールは戸惑いつつも、ジルコニアへついていった。



 キングの宮殿内、小部屋の一つにて。


「ね、ねえ!」

「どぉしたの?」

「あ、あなたは何……? ここは……?」

 宮殿内の一室に連れてこられたマールは、不安げな顔をしながらもジルコニアへ問いかけた。


「うふふ、話すよりも体感した方が分かるわよぉ」

 しかしジルコニアはマールの方を見向きもせずに甘い声でそう返すと、部屋の隅にあった黄金色のランプに火を灯す。

 するとランプからは淡い紫色の煙がゆっくりと立ち昇ってきた。


「この臭い、幻覚性と催眠性の強い薬品……」

「あらぁ、小さいのに詳しいのねぇ」

 マールはそういうと袖で口を隠した。

 その様子を見たジルコニアはマールの方へゆっくりと近づくと……。


「あぐっ、い、息が……」

「ちょっと苦しいけども、我慢してねぇ」

 無理矢理腕を掴み口を押えていた袖をとり払い、そしてマールの口と鼻を手で塞ぐ。

 呼吸の出来なくなったマールの表情がだんだんと苦しみに満ちていき、顔色も変わってきたときにジルコニアは手をとり払った。


「はぁっ! はぁっ!」

「苦しかったよねぇ、たっぷり吸うといいわぁ」

 マールはその言葉を聞き、咄嗟に息を止めようとしたが無駄だった。

 今まで呼吸の出来ていない体は、マールへ必要以上の呼吸を求め、それに抗う事は出来なかったからだ。


 結果、ランプから発生し、今では部屋中を包む紫色の煙を大量に吸い込む事となってしまった……。


「はぁー……、はぁー……」

「どぉ? 気分はぁ?」

「あつ……い……、からだ、うずうずする……」

「いいわねぇ、その感情に全て委ねてなさい」

 変化はすぐに起きた。

 マールはその場でうずくまり、自分でも自分の体を抱きかかえた。

 息づかいも荒く、伏せて見えないが紅潮もしていた。


 そんなマールをジルコニアは優しく抱きしめた。

 煙の影響なのか、マールはその優しさに自らの身を委ねてしまう。


 …………。

 …………。


 マールは微睡む意識の中、ジルコニアの声を受け入れた。

 自らアルベルドから受け取った衣装を脱ぎ、ジルコニアの手に委ねたのだ。


 …………。

 …………。


 ジルコニアはマールを仕上げた。

 キングのおもちゃとして相応しい振る舞いが出来るよう、一切の手心を加えなかった。


 …………。

 …………。


 それから少しの時が経った……。


「はぁー……、はぁー……」

 その結果、光を失った大きな瞳はひどく潤み、ジルコニアと同じく金と宝石で出来た卑猥な下着で局部が隠れている以外は、生まれたままの姿となった。

 膨らみの乏しい体には香油が塗られててらてらと輝いている。

 今までの淑やかな薬師マールからは想像の付かない姿になり果ててしまった。


「本当、あなた素敵よぉ、素質あるわぁ」

「はぁー……、はぁー……」

「薬師よりも、こっちの方が向いているんじゃないかしらぁ?」

 ジルコニアはそう言いながら、マールの体のラインを指でなぞった。

 するとマールは、体を大きくびくつかせた。


「どうだ、様子は?」

「はぁい。仕上がりましたぁ」

 その頃、扉が音を立てて開く。

 そこからキングが悠然と歩いて入ってくると……。


「ふむ、悪くないな」

「はぁー……、はぁー……」

 仕上がったマールへと近寄り、彼女を舐めるように見回す。

 マールはそんなキングを、ジルコニアと同じく蕩けた表情で見つめるだけだった。


「ではいただくとしようか」

 マールはキング自らの手に墜ちた。

 そう確信したキングは、マールを強く抱きしめ、誓いと欲望の口づけを行おうと顔を近づけていく……。

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