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19 王との対峙

 マールがルビーロザリアの貧民街へ到着してからしばらくの時が経った。


「今日の治療はここまでです」

「ありがとうございます……」

「また明日になった来ます。お大事にして下さいね」

 今日もルビーロザリア内の貧民街で、回復魔法で傷や病気を治している治療院へ行く金のない人々を診ていた。


「あの、マール様」

「はい?」

「少しですがこれを……」

 枯れ木のような老人は、ぼろぼろの麻袋をマールへと差し出す。

 袋の口から、銅色の輝きがうっすらと漏れた。


「いいえ不要です。このお金でおいしいもの食べて下さいね」

 それを見たマールは静かに顔を横に振ると、差し出した手をマール自身の手で包み、優しく微笑みながらそう告げた。


 マールは貧民街での治療は、特別対価を求めてはいなかった。

 元々そういう物が払えない人々を救うためという思いもあったからだ。


「うぅ……、ありがとうございます……」

 その言動によって老人はその場で泣きながら、何度も頭を下げてお礼を言い続けた。


 マールの献身的な活動と薬の力によって、退廃的だった貧民街に活気が戻っていた。

 多くの者の生活は困窮したままだが、それでも健康になり体力が戻ったお陰か、生きるための希望と活力を得たのだ。


「マール様! マール様だ!」

「おお、我らの天使様が来られた!」

 そしてその希望と活力に比例して、マールを感謝し称える声も大きくなっていった。

 今では神話上の生物であり、聖なる存在の象徴でもある天使と例えられるくらいになった。


「具合はどうですか?」

「いやあ、最高ですよ! マール様の薬がこんなに効くなんて」

「ふふ、良かったです」

 だがマールはその声に驕らず、ただひたすらに貧民街の人々を蝕む病魔に立ち向かい続けた。


「すごい人気だな」

「アルベルドのお陰だよ。食料を支援してくれたからね」

「気にするな。俺はマールを手伝うと決めたからな。それに、マールの実に素晴らしい姿を目の当たりにする事が出来た」

「本当だよ! やっぱマールはすげえや」

「えへへ……」

 妖精王アルベルドや妖精アルバの協力あってこそ、貧民街を丸ごと救う事が出来た。

 マールはその事に感謝し、逆に感謝されるとスカートの裾をぎゅっと握ってはにかんだ。


「じゃあ次は……」

 そんな会話の後、他の患者が待っている場所へ向かおうとした。

 その時。


「お、おい……」

「あれは……」

 今まで無条件に明るかった人々の声色が、畏敬の念にかられた震え声へと変わる。


「ん?」

 マールは貧民街の人々の方を振り向くと……。


「き、キング……」

「キングが来たぞ!」

 そこには、複数人の貧民が玉座を担ぎながら、道のど真ん中を歩く様子があった。

 玉座はこの貧民街に似つかわしくなく黄金色の煌びやかな装飾がされており、まるでそこだけ色がついたような風景が生まれてしまう。

 キングと呼ばれた玉座の主は、足で玉座を担ぐ貧民の頭を踏みつけながら、腕を組み不機嫌そうな表情をしていた。


「相変わらずくせえ場所だな」

 そして吐き捨てるようにそうつぶやくと、玉座を担ぐ貧民の頭を軽く蹴る。

 すると玉座はゆっくりと地面へ降ろされていき、玉座が地面と完全に着地するとキングはゆっくりと立ち上がり……。


「あ、あなたは……?」

「お前が最近、ここの住人に変な事している奴か?」

「えっ?」

 キングは一直線にマールの方へと歩み寄り、マールを見下ろし問い詰めた。

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