18 貧民街の天使
「あの、下だけではなく上も脱いでください」
「女を抱くなんて何年ぶり……、え? あぁ、そうだな」
痩せこけた中年男性はマールの言葉に少し戸惑いつつ、着ていたシャツも脱いでいった。
マールはでこぼこの地面を足で均すと、その後にカバンから清潔なシーツを出して敷いた。
「ではこのシーツの上にあおむけになって寝てください」
中年男性はぎらついた眼差しマールへを向けつつ、シーツの上へと寝た。
マールは、しゃがんで仰向けになった中年男性へと近づき……。
「やはり、体にも反応が出ていますね」
簡単な触診の後、カバンから深緑色の液体が入った小瓶を出すと、それを中年男性の体へと塗っていく。
特に皮膚が紫色に変色している部分は念入りに処置した。
「……おい、何やってるんだ?」
「何って、薬を塗っているんです」
「俺はそんな薬いらないぞ」
「いいえ駄目です。外と内と両方から治していかないと」
中年男性は困惑していた。
てっきり、イイ事が出来ると考えていたのに、実際にやっているのは体に薬を塗られるだけ。
当然、気持ちは治まらず、強引の手段に出る為に起き上がったが……。
「てめえ、ふざけ……」
「はい、処置は終わりました。あとはこれを寝る前に飲んで下さい、食事もとるように」
「おい! 俺の相手はまだ……」
「お気分はどうですか?」
「え? あ、ああ……、そういえば……痛かった体が少し楽に……」
「ふふ、効いてるみたいですね」
マールは純粋な笑みを見せながら、紙に包んだ薬を中年男性へ渡した。
中年男性は、そんなマールの言動に気圧されたのか、それとも心を打たれたのか、少しばつの悪そうな表情をしながらも薬を受けとると立ち上がり、その場から去って行った。
「次は……、あなたが悪そうですね。じゃあこちらへ」
「お、おう……」
こうしてマールは周囲に集まっていた貧民病の人々を治療していった。
最初はマールを汚したいという邪な感情をむき出しにしていた者も、マールの手際の良さと献身的な態度に面食らったのか、はたまたアルベルドが目を光らせていたせいなのか、大人しく処置を受けたのだ。
そして、周りに居た人の治療を終え、日も落ちかけてきた頃。
「ふー、薬が無くなってしまいました」
「マールは医術の心得もあるんだな」
「専門家ではないので難しい手術は出来ませんが、薬学を習う時に併せて覚えたんです」
「でもすげえよな! 手際もよかった!」
「えへへ……」
マールはスカートをぎゅっと握りながら下を向き、少し照れつつ微笑んだ。
「よし! じゃあ明日の分の薬を作らないと、この近くに薬草が生えているはずなので、採りに行きましょう」
「もう夜になるぞ? 行くのか?」
「はい、明日の薬も用意したいですからね」
「そうか、分かった。護衛と明かりは任せて貰おうか」
「おいらも手伝うぞー!」
その後、マール達はルビーロザリア近くの森へ向かい、野営のための準備をしつつも薬草の採取をした。




