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17 汚泥の中の花

「まずは街の様子を見てみようと思います。誰か何の理由で困ってて、何が必要なのか知りたいですからね」

「賢明だ。なら俺はマールの護衛役をしよう」

「おいらは空から見てみるよー!」

 冒険者をしていた頃にもルビーロザリアへは立ち寄っていた。

 しかし、まじまじと注視してみたわけではないので、マールは貧民街の様子を確認する事から始めた。


 こうして一行は、貧民街の中を歩いて観察した。

 よそ者であるマール達を睨みつける者、一切の興味を無くして呆然と地面や空を見つめる者、マールへ怪しげな品物を売り付けようとする少年少女、その様子は様々だった。

 メインの街と異なり、建物は乱雑に建ち並んでいて、道も狭い場所が多い。

 ただ、農具や工具がなく、物が散らかっている様子は無かった。

 本来なら散らかっていないのは喜ばしい事なのだが、散らかるほど物を買う余裕がないという現れなのかもしれない。


 そして日も落ちかけ、空が赤くなってきた頃。

 一通り歩き終えたマール達は、貧民街の中にある道が広くなっている場所で足を止めた。


「思ってた以上ですね」

「……というと?」

「栄養失調による体力の低下、不衛生が原因による怪我や病気の蔓延……。どれも劣悪な環境での生活によるものが原因です」

 薬師マールの冷静かつ的確な分析に、アルベルドはあごに片手を当てつつ頷いて聞いた。


「おーい、見てきたぞー!」

「ありがとうアルバ、何か分かったかな?」

 そんな時、今まで空から観察していたアルバが、マール達のもとへ戻ってきた。


「んー、貧しい場所ってのは分かったんだけども、それ以外はないかな?」

「そっかあ」

 アルバもマールやアルベルドと同じ結論に至った。

 その事を知ったマールは、少し下を向いて何か考え始めた。


「あ、でも、建物の裏で、住人が何やら葉っぱを燃やしていたぞ? 特に寒くないのになんでだろうな?」

「それって! ねえ場所を教えて!」

「お、おう、こっちだ」

 しかし、アルバが続けて話した言葉を聞いたマールの血相が変わる。

 普段は見せない鬼気迫る様子に面食らいつつ、アルバは葉っぱを燃やしている住人が居る場所へ飛んでいき、マールも走って追いかけていった。



 王都ルビーロザリア、貧民街裏路地にて。


 アルバに導かれて一行が向かった場所。

 そこには、地面に置いた新緑色のとげとげしい葉っぱを燃やし、そこから出てくる白い煙を吸い込もうとする中年男性が居た。


「待ってください!」

「あぁ? なんだお前……」

「駄目ですっ! それはいけませんっ!」

「てめえ! 何しやがる! 俺の一日の稼ぎで買ったブツを!」

 マールは燃えた葉っぱを何度も踏みつけて火を消し、煙が出ないようにした。

 そして無事鎮火する事に成功したが、中年男性の怒りの感情に火をつけてしまった。


「マール、急にどうしたんだ?」

「そうだよ、ようせいお……アルベルドの言う通りだぞ」

「あの草は正しく精錬すると効果の高い鎮痛剤になるんです」

「ほお」

「でも、燃やすと成分が変質しちゃって、神経を麻痺させて精神を侵されしまう。さらに中毒性も高い危険な物になってしまうんです」

 この騒ぎをかぎつけた貧民街の住人は、次々とマール達の周囲へ集まっていき、笑いとも憂いとも言えない表情で様子を伺っていた。


「どうせ俺は貧民病で長くねえ、だったらせめてこのブツで気持ちよくなろうとしてたのによ!」

「ですが……」

 中年男性の左腕は紫色に変色していた。

 目元のくまも濃く、肌もぼろぼろである事から、言っている事が本当なのだとマールは信じざるを得なかった。


「それともなんだ……? お前が俺を満足させてくれるのか?」

「はい。あなたを救って見せます、必ず満足出来るかと思いますよ」

 中年男性の発言が何を意味しているのか。

 それに対する返答がどういう意味なのか。

 それを察した中年男性は、意地の悪い笑みを見せると……。


「ははっ! こりゃいいわ! シスターさんよぉ、しっかり奉仕してくれよなぁ!」

「マール!」

 穿いていたパンツに手をかけ、それを脱ごうとしたのだ。


「お、おい、あのシスターが……」

「俺も……、俺も……」

「うへへ、かわいい子だなぁ……」

 その様子を見た他の住人も、マールに対して邪な感情と期待を抱きだす。

 彼らはまるでゾンビのようにゆっくりとマールへと迫ってきた。


「ええい散れ! 俺のマールに手を出すな!」

 アルベルドは当然彼らを近づけまいと立ちはだかり、腰に下げていた剣を振りかざす。

 彼が本気である事を悟った貧民街の住人は、一旦はその覇気と怒気によって伸ばした手を引っ込めるが、マールへ欲望を吐き出すため機会をうかがってその場からは離れずにいた。

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