13 献身的な少女に恋をした者
「ねえ、マールはこれからどうするの? 私が言えた義理じゃないけど、もう冒険者にもなれないわけだし……」
「今回の事で、回復魔法でも治せない病気があるってのが分かったから、私は旅を続ける」
「それで、助けてどうするの? みんなに感謝されて、チヤホヤされるのが目的なの?」
ルルエリカは手を組み指をもじもじさせつつ、マールにそう問いかけた。
「みんな、元気になったらみんないい表情してる。私、それをもっと見たい」
「ふむ……」
満足気に答えるマールの感情が理解出来ないのか、ルルエリカは腰に手を当てて下を向いて少し考えだした。
「ねえ、私も連れ――」
「じゃあ、元気でね」
「あっ、う、うん……」
そしてルルエリカが何かをマールに伝えようとしたが、マールの別れの言葉で遮られてしまった。
「うん? 何かあるのかな? まだどこか具合が悪い?」
「えっ? そ、そんなんじゃないけど……、本当にありがと」
「うんうん。じゃあ行こっか、アルバ」
「そうだなー」
マールはルルエリカに笑顔を見せると、アルバを連れて集落から出て行ってしまった。
「…………」
ルルエリカはそんな二人の背中に向かって手を伸ばし、遮られた言葉の続きを言おうとした。
「ふう……、私じゃそんな資格ないよね」
しかし、ルルエリカは一つ大きくため息をついて、伝えようとした本当の言葉を飲みこんだ。
その日の夜。
「んー! 久しぶりのベッド嬉しいなあ」
マールは今まで野宿が続いていた。
集落に居て住人の治療をしていた時も、ちょうど空いているベッドが無かったので、集落内にテントを張って過ごしていた。
人々を治療してくれたお礼で金を得たマールは、街道の通り道にある観光街へ寄り、冒険者向けの安宿ではなく、観光者向けの普通の宿に泊まったのだ。
「良かったな!」
「うんうん、すっごくふかふかだよー」
マールは枕に顔をうずめて、頬ずりしながら心地よさを堪能している。
その愛らしい様子は、今まで人々を救ってきた治療師マールではなく、年相応の少女マールだ。
「…………」
アルバはそんなマールを、腕を組みながら笑顔で見ていた。
「すー……、すー……」
「あれ、布団もかけずに寝てしまった。しょうがないなぁ」
そしてすぐに眠りについたマールに対して独り言をすると、足元に置いてある掛布団をマールへとかけると、窓を開けて手すりに座って観光街の景色をぼうっと眺め始めた。
…………。
…………。
…………。
…………。
その日の真夜中。
観光街の明かりも一部の建物以外消えてしまった時。
「んん……」
マールはふと、眠りから覚めてしまう。
まどろみながらも体を起こし、開いた窓の方を向くと……。
「こんばんは。マール」
「ふぇ……、あなたは……?」
そこには、何者かが立っていた。
今回も、月明かりが逆光になっているせいで、姿がよく見えない。
「いつもアルバが世話になっている」
「はっ! あなたは確か教会で!」
だがマールは以前にも似たような体験をしていたおかげで、その者が誰なのかを思い出す事が出来た。
月明かりに照らされた人物を指さし、声をあげた。
「しー、他のお客さんが目を覚ましてしまうよ」
「あっ」
謎の人物は、人差し指を口元に当てながらそう告げると、大声を出したと自覚したマールは、慌てて開いた口を手で塞いだ。
「ところでマール」
「はい」
「余の伴侶にならないか?」
「えっ?」
謎の人物からの突然の求婚に、マールは思わず息を飲んだ。
「やはりそなたをこのままにするのは惜しい」
「うーん……」
マールは下を向き、頬に手を当てて少し考えると……。
「あの、一ついいですか?」
「ああ、何だって聞いてくれ」
「どちらさまでしょう……?」
謎の人物の目を見て、そう告げた。
「おっと失礼、忘れていたよ。余はアルベルドだ」
「ほおほお……、奇遇ですね、あの妖精王と同じ名前なんて!」
アルベルドとは、この世界に住む妖精達の王である。
人の住む場所から遠く離れた場所に自身の居城を構え、誰にも干渉をしない。
故に出会った人物も少ない。
マールも本で読んだ程度の認識しかなかった。
「余がその妖精王だからね」
「えっ……」
しかし、謎の人物がその本人だと名乗ると、マールは再び驚いて身を引いてしまった。




