12 進むべき道しるべ
「この集落の人も咳き込んでいたけど、あなたからうつったの?」
「そうよ。ここはお父様の領地だから、私の面倒を見るよう命令されてた。私の身の回りの世話をしていくうちに同じ病気になった」
集落の人々が、冒険者と聞いたら途端に顔色を変えた理由を知ったマールは、納得しつつも表情を曇らせた。
「お、おい。じゃあやっぱうつるじゃないか! なあマール、さっさと逃げよう!」
「そうよ。ここから去りなさい。私はもういいから……」
病気を流行られた張本人と同じ空間に居る。
このままでは当然マールも、他の人々と同じ目にあってしまう。
そうすれば旅も出来なくなるし、マールの夢も叶えられなくなる。
「大丈夫。この病気は回復魔法じゃ駄目でも薬で治る」
しかしマールは一歩たりともルルエリカの小屋から出て行く素振りは見せない。
「だからお願い、元気になるの諦めないで」
それどころか、優しい笑顔でルルエリカの手をぎゅっと握り、彼女へそう告げたのだ。
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「今更謝って許されるかよ! マールはな、お前のせいで冒険者として活動出来ないんだぞ!」
「分かってる。今からでもお父様に言いたいけれど、病気になった私には会わないと思うし……」
マールの献身的な言動が心を打ったのか、アルバの言葉で自分が犯した罪の重さを知ったのか。
ルルエリカは大粒の涙をこぼして声を震わせながらそう言った。
「私の事はいいから、今は病気を治そう?」
「マール……」
「本当にお人好しすぎるよなー」
それでもマールはルルエリカの手を離さず、握る手の力を少し強めながら言った。
ルルエリカは何度も頷き、アルバは少々呆れた様子で両手を頭の後ろにやった。
それからマールの治療が始まった。
基本的にはルルエリカの小屋を拠点として、病を治す薬を調合してルルエリカや集落の人達に配り続けた。
最初はマールに対して疑心暗鬼だった人達も、症状が和らぎ回復に向かっていくにつれて信頼するようになった。
そんな出来事が過ぎ、時がしばらく経った後。
「うん、もう大丈夫だね」
集落で最も老齢だった人が完全に回復したのを確認したマールは、満足気に頷いた。
「マール本当にすげえな!」
「マール様、ありがとうございました!」
「あなたは女神様に見えますじゃ……」
「ああ、元気になれて良かった……」
治療する場所に集まっていた人々は、目を輝かせてマールの行動を称賛した。
「えへへ」
そんな人々に対し、マールは頬を赤らめて少しはにかみながら笑顔を見せた。
「よし! もうここはよさそうだね」
「そうだな。で、これからどうするんだ?」
「うーん……」
集落の人々の病気は治った。
一応、常備の薬も僅かだが置くことにしてある。
マールがここで出来る事はもう無く、旅の続きを始めようとした。
その時だった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
マールの居た場所の後ろから声が聞こえてくる。
マールは立ち止まったまま振り返ると……。
「ルルエリカさん?」
「お前、今更なんだ?」
そこにはルルエリカが、何かを喉に詰まらせたような表情のまま立っていた。
「あーそうか、さてはお礼を言いに来たんだな?」
「あ、ありがと……」
アルバに促されるまま、ルルエリカはマールから視線を逸らしつつも顔を真っ赤にしてお礼を言った。
病気の経緯や、父親に捨てられた事をマールから聞いていた集落の人々は、ルルエリカに対しての悪意もすっかり消えており、そんな光景を集落の人々も笑顔で見守った。
「そ、そんな事よりもっ!」
ルルエリカは顔を大きく何度か振ると、顔は赤いまま何かを伝えようとした。
マールは少し首をかしげつつ、彼女の様子を見守ると……。




