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10 祝されない再会

 マールは老婆が住んでいた家の隣へ向かった。

 そして到着して間もなく、扉を何度か叩いた。


「すみません、すみません」

 しかし、まるで反応は無かった。


「……中に居るのか?」

「居ないとは思うけれども……」


「……げほっ、げほっ、一体何なんだ?」

 軋む音を鳴らしながら家の扉がゆっくりと開いていく。

 中から出てきたのは、ぼろ着を着た老人だった。


「あのっ、私は冒険者で、回復魔法は使えないのですが怪我や病気で困ってる人を助けにきました」

「…………」

「お隣のお婆さんもそうでしたが、皆さん咳をされてますよね? もしかして具合が悪いのでは――」

「帰りな」

 そしてこの老人も先に出会った老婆と同じく、マールが冒険者と名乗った瞬間に扉を閉めようとしたのだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 真相を知りたいマールは、面食らって何も出来なかった老婆の時とは違い、声を大にして引き留めた。

 老人はその様子に、扉を閉める行為を止めると……。


「そんなに誰かを治したいなら、この村の外れにある小屋へ行ってこい」

「ああっ! ちょっと!」

 そう言い捨てて、扉を完全に閉めてしまった。


「さっきの奴といい、一体何なんだよー!」

「まあまあ落ちついて……」

 マールのありがたい行為をことごとく無駄にする村人達に、アルバは手足をじたばたさせながら怒っていた。


「おじいさんの言ってた通り、その小屋へ行ってみよう」

「もういいんじゃないか? 別に放っておいてもさ。どうせ嫌な態度とられるだけだぞ」

 感情を露わにするアルバとは対照的に、マールは冷静だった。

 その様子を見たアルバは怒るのが馬鹿らしくなったのか、じたばたするのをやめて腕を組みながらそう言った。


「そうはいかないよ。さ、アルバも行こう」

「本当に行くのかよ……」

 そしてマールのお人好しに肩をすくめると、二人はその小屋へ向かった。



 集落のはずれにある、小屋にて。


「ここだね」

「確かに……他の家よりもぼろいな。牛小屋か?」

 アルバの言う通りだった。

 木で出来た小屋は、屋根や壁が傷んで隙間が出来ていて、とても雨風をしのげるようにはなっていない。

 小屋の周りは雑草が伸び放題になっており、お世辞でも手入れがされているとは言えない状態だ。


「あの……、すみません」

 マールは扉の前に立ち、声をかけた。


「…………」

 だが、反応は返って来なかった。


「もし、どなたかいらっしゃいますか?」

 それでもマールは再び声をかけたが……。


「…………」

 やはり反応は無い。


「私は冒険者をやっています。今日は病気の治療に来ました」

「……誰も居なさそうだな」

「そんな事は無いと思うけども……」

 実は別の小屋があって、場所を間違っているのではないか?

 マールもアルバもそう思いかけた時。


「だれ……?」

 扉がギィっと嫌な音をたてながら、ゆっくりと開いていく。

 薄暗い小屋の中に居た、人の姿が露わになると……。


「あなたは!」

「あんた……!」

 マールは、小屋の中の居た人を見ると、身をすくめて驚いた。


「ルルエリカさん、どうしてここに……?」

 何故ならば、そこに居たのはかつて同じ冒険者一団で治療師をしていたルルエリカだったからだ。


 だが、ルルエリカの様子は以前とはまるで異なっていた。

 髪はぼさぼさで手入れされておらず、水浴びをしていないのか肌も薄汚れてしまっている。

 服装だって、冒険者時代に着ていた異性を誘惑するための服装ではなく、ほつれと染みが目立つぼろぼろのシャツとスカートだ。


「げほっ、げほっ!」

 そしてルルエリカも、集落の他の住人と同じく咳き込んでいた。

 咳き込む時に体を大きく揺らし、ひーひーと喉を鳴らしている様子から、他の住人より重症であるような感じだ。

 

「まずはこれを飲んで下さい。少しは楽になりますから」

 その様子を見たマールは、一切迷わずカバンの中から緑色の液体が入った瓶をルルエリカへ渡した。

 ルルエリカは少し戸惑いながらも、手を震わせながらその瓶を受けとり、コルクの栓をとると中身をゆっくりと飲んだ。


「家の中失礼しますね」

 薬を飲み切ったのを見たマールは、半ば強引に小屋の中へと入っていく。


「お、おい。マール! 何するんだよ放っておけよ!」

「放っておけないよ。さあ、横になって下さい」

 ルルエリカは多少困惑しつつ、マールの指示に従い小屋の中へ戻ると、体を横にした。

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