公園に立つ少年
「圭太さん、ブランコ押して!」
「いいよ。」
零理は、優斗に「いってらっしゃい」をした日から、時々圭太と遊んでいた。
今日も、零理は、圭太の家の近所の公園で、圭太と遊んでいた。優斗と圭太の、そして、零理の思い出がたくさん詰まった“あの公園”だ。
優斗と圭太の思い出の公園のことを、零理は、「永遠の仲良し公園」と呼んでいた。
それを聞く圭太の顔がいつも嬉しそうで、圭太はまるで優斗に会いに行くように、この公園にきているようだった。
「これさ、優斗と一緒にキャッチボールしてた時のグローブなんだ。零理、キャッチボールはやったことあるか?」
「ううん。ない。」
「やってみないか?」
「やってみたい!でも、僕にできるかなあ。」
「大丈夫。初めから上手くできるやつなんかいないよ。練習してみよう。」
「うん!」
零理は、ブランコから飛び降りると、圭太からグローブを借りて、左手にはめた。
「これで大丈夫?」
「ああ、バッチリだ!じゃあ、その辺で止まって。そう、そのあたり。俺がボールを投げるから、グローブでとってみようか?」
「うん!やってみる。いいよ、圭太さん!」
圭太の見様見真似で、構えている。
そんな零理をみて、圭太は微笑ましく思っていた。
「じゃあ、行くよ。」
圭太は、下からそっと、零理の構えるグローブに向かって優しくボールを放った。
「あっ!」
零理は、ボールをとろうと思って前のめりになりながら、ボールに向かってグローブを出した。ボールは、無情にもグローブの端っこに当たって、零理の斜め後ろへ向かって転がっていってしまった。
「気をつけろよ!ボールが公園の外に出たら、公園の外には出るなよ。俺が取りに行くから!」
圭太が、叫んでいる。
「わかった!」
零理は、元気よく答えて、ボールの後を追った。
転がったボールは、公園の周囲に植えられた、どんぐりの木の幹にぶつかって跳ね返って止まった。
「よかった。」
やっとボールに追いついた零理は、ボールを拾うと、圭太のところへ戻ろうとした。
すると、どんぐりの木の裏から、足先が見える。どうやら誰かがいるようだ。気になった零理は、ゆっくりと、木の裏側へと回った。
そこには、零理と同じ年くらいの少年が立っていた。でも、格好が不思議で……。
「こんにちは。ここで何をしているの?」
「……」
返事はない。
ぼんやりと、どこか遠くを見ていて、目の前の何かを全然見ていない。
目の焦点が合っていないようにさえ見える。
「ねえ、僕、零理っていうんだ。君は?」
少年は、なんの反応もしなかった。
「なんで、パジャマ着て歩いているの?もしかして、今日ズル休み!?格好いい!!僕まだやったことないけど、ちょっと憧れてる。ズル休みして、お父さんとお母さんに内緒で、お菓子いっぱい食べるの!」
「……。」
少年は、やっぱり反応がなかった。
零理は、完全に無視されていた。
「零理!!まだか?何かあったのか?」
心配そうに零理を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、僕いかなきゃ。またね!」
少年にそう言うと、
「圭太さん、ごめんなさい!ボール見つかったよ!」
零理は、圭太の方へと走っていった。
次の日の放課後、昨日見かけた少年が気になって、1人で永遠に仲良し公園に来た。
「いないな。」
今日は来ないのかな。
零理は、ブランコをこいでいた。ブランコをこぐのが好きだった。
自分のペースで行ったり来たりして、そのたびふわりと風が体に纏うのが好きだった。
風のバリアーに守られて、その時だけは何からも守られているような気がするから。
しばらくブランコをこいでいると、
「あ!」
昨日と同じ場所に、昨日の少年が立っているのが見えた。零理は、ブランコから飛び降りると、走り出した。
「こんにちは!」
少年の目の前に立ち、挨拶をした。やはり昨日と同じで、返事がない。
「ねえ、ここで何しているの?なんでパジャマなの?なんで返事しないの?声出ないの?喋れないの?」
「……。」
全然反応がない。
あ、もしかしたら聞こえないのかもしれない!
零理は、キョロキョロあたりを見渡し、小枝を見つけると拾って、少年の前に戻ると、地面に何かを書き始めた。
「書けた!!」
零理は、嬉しそうに立ち上がると、少年の横に立つと、地面を指差した。
「ねえ、これ見て!僕、零理って言うんだ。君の名前は?」
少年の目の前には、零理が地面に書いたメッセージ。
『僕は零理です。君の名前は?一緒に遊ぼう!』
少年は、地面のメッセージに目をやったけど、プイッと顔を背けると、歩いていってしまった。
「あーあ、行っちゃった。」
その場に零理はぽつんと1人、少年の背中が消えるまで見ていた。
それから毎日、零理は「永遠の仲良し公園」に足を運んだ。
そして、毎日15時頃現れる少年に話しかけ続けた。無視され続けた。




