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第十二章 聖女と聖女2

 私の抗議の声を、ルルタは笑顔で受け流した。まだ何か隠しているような気がするけど、今はつついても言ってくれないんだろうなあ。


「ところでメイ、僕がウルだと分かったんだし、そろそろ距離のある話し方をされると寂しいな」

「そ、そうは言ってもそんな急には……」

「ウルって呼んでたのがルルになるだけだよ? ほら」

 ほら、と笑顔で言われても。

 私はまず脳内で何度か呼んで試して、それから思い切って口を開く。

「ル、ルル………………さま」

 尻窄みに小さな声でやっぱり最後に『様』と付けてしまう。ルルタはあからさまに悲しげな顔になった。

「あれから会いに行けなかった事、やっぱり怒ってるんだね」

「そんなことはない……よ、ルル!」

 昔を思い出しながらそう声をかけてみると、つっかえながらもなんとか求められるように呼べた。一度口にしたら、すごく自分の耳にも馴染んだ。

「ルル」

 確かめるようにもう一度呼んでみる。やっと再会できたって実感がじわじわと湧いてきて、自然と微笑んでしまう。


「ぅ」

 向かいから聞こえた小さな声に目を向けると、イウリスが天を仰いでいた。隣のエウジェは眉根の辺りを押さえて俯いている。


「あの、大丈夫ですか? 馬車に酔ったとか」

「いいえ大丈夫。私たちのことは壁とでも思ってくださらないかしら」

「壁ですか?」

 エウジェの答えに、私は首を傾げる。

「ああ、向こうに着くまで時間もあまりないからな、こっちの事は気にせず話すといい」

 イウリスもそう言ってくれたので、私は二人の気遣いに感謝しながら目礼を送る。


「もう一つくらいなら質問に答える時間がありそうだけど、今何か聞きたいことはある?」

 そう聞かれて私は次から次に湧いてくる疑問の中で、一番何が聞きたいのかを考える。


「……この場でこんな事聞いていいのか分からないんだけど、ウルはあの時、義理のお母さんに疎まれてって話をしてたよね……その義理のお母さんって……」

 私が言いづらそうにしていると、イウリスがあっさりと、

「ウルだった頃のルルタが言っている義理の母というのは、俺の母ではないぞ。だが、原因は当時王妃であった亡き母にある」

 そう言い切って、イウリスは顔を曇らせた。

「母が亡くなる間際に俺に兄弟が居ると言い残したのだ。ところが陛下に聞いても何も知らんと……。必死に探してなんとか見つけ出したのがウルと名乗って居たルルタだ」


「兄上には、それから随分と良くしてもらってますね」

「当たり前だろう、償っても償いきれん」

 軽くそう返すルルタに、低く唸る様に言うイウリス。


「小さな頃から体が弱かった俺を次期王にしたかった母が血迷い、側室であったルルタの母上が子を宿したと知ると毒を盛った。それが全ての原因だからな。毒に侵されながらも何とかお腹の子だけは無事に産み落とそうと持てる魔力を使い果たし亡くなった姿を見て、初めて母は自分が何をしたのか思い知ったのだと言っていた」

 怒りと悔恨を抑えつける様に、爪が食い込むほどに強く握りしめたイウリスの拳。

 それをエウジェの手がそっと包む。 

 

「それなのに母は、なお俺を王にする事を諦めきれず、産まれたルルタを秘密裡に俺の乳母に託し田舎に帰したのだ。侍医には、死産であったと報告を出させてな……本当に、馬鹿な事をしたものだ」

「既にどちらも亡くなってますから、もういいでしょう。恨みが無いわけじゃないですが、僕としては王になり国を背負うなんて面倒でしかないですし」

 そこに小さな小さな声でルルタが言葉を続ける。

 

「そう、生まれる前に言えれば良かったんですけどね」


 私はルルタが小さな子供に見えて、ぎゅっと抱きしめたくなった。でも、実際はそっと寄り添うだけに留める。

 肩越しに気持ちが少しでも伝わればいいと思った。

 

「メイと最初に会った時には、外に出る時は魔法道具で姿を偽るようにと言い聞かされてたんだよ。まあ、お陰で色んなメイの姿が見られて、それはそれで幸運だったけど」

 空気を変える様に殊更明るくそう言うルルタ。


「あの頃、一緒に水浴びもしていたような……」

 私の言葉に、ルルタはすいっと目を逸らす。

「服は着てたよ、うん」

 ルルタがごまかす様にそう言う。私は色々と思い出される日々の記憶に悶えた。


……ルルタと一緒の寝台にあんなに緊張してたけど、とっくにそれどころじゃない事もしてた訳で。


「あの日々にも楽しい事はちゃんとあったんですよ、兄上」

 羞恥に震える私を楽しそうに眺めてからのルルタの言葉に、イウリスはやっと少し笑った。

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