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サンソンくん fire horse 編  作者: ハクノチチ
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火だるまの小人たちが踊るような炎

 その小さな蟻が、禁じられた標的を狙う彗星の、長い尾と似る隊列から離脱した理由は誰にも分からない。ことによると、そうしてしまおうと決意しそして行動に出た本人にも分からなかったのかもしれない。海溝のようなこの深い地上の森に果たして出口という場所が本当にあるとは思えなかったからだ。しかし当たりくじがあろうがなかろうが一匹の蟻は自分にも把握できない衝動に突き動かされた。盲目的に働き、時には恐れを知らず敵と闘う仲間たちとは全く違う時間軸のある明日へ触角を向けてみないことにはいかなかったのだった。



 遥か昔のこと。獣や虫、花や樹に至っては精霊ごと丸裸にされていた森が土の中まで焼け落ちたのは彼らが最初で最後の長い休息を取ったからだった。生まれて初めて見る夜の空が明けて行動に出た彼らは、後に意図していなかったまるで炎の糸杉を散々に育ててしまい、そのときほんの少しの横風にすら歴史的さじ加減があることを知る。

 ここでの「彼ら」とは湖の湖畔で稼働している火力発電所の燃料として生きた火の馬のことだ。

 「一角」から始めた神話のシナリオライターが星と共に命尽き、代替わりしていく物書きはどこかで「翼の種」を生み、やがて「火の種」を派生させたと言われる・・・・・・体高は160㎝程度で馬体重が450㎏前後の、ややスリムな少なくともずんぐりとはしていない馬体で、その全てが炎に包まれているわけではなかった。肩甲骨より後ろから骨盤の手前付近までの背中一帯にだけ、火だるまの小人たちが踊るような炎は認められるのだが、その他の部位(顔、首、腹、脚、尻と尾)で炎が踊ることはない。しかし翼のない馬体は着火した炭か石炭のように寡黙で猛烈な高温を発し、あるいは纏っている。そしてもう一つの特徴は鬣がないことだろう。鬣のない馬の姿はどこか物足りないのだったが、背中で燃え盛る炎と全身からの放射熱が近寄りがたい透明な膜をつくり、佇むだけの姿さえぼんやりと揺れているように見えてしまうので間違っても剃髪を連想する卑猥さはない。むしろつるりとすることで、現存する馬よりもずっと親しみを持てると同時に、より明確なほどの神々しさがあった。

 ところで、彼らは二日に一度、午前七時になると10分ばかりの間しゃく熱の暗闇からすぐそこの湖畔に解放された。気象状況にもよるのだが、乳白色した朝もやのなか、再び130万ボルトの鉄の棒で尻をつつかれ、背を叩かれボイラーへ追いやられてしまうまでに口を潤す湖面には、思春期の神様が寝癖を直す鏡、との神話が漂よった。全く不思議な話しなのだが寝起きの神様を映す鏡はいつだって氷より冷たい水温を保っていた。もちろん以前は、ということなのだが・・・・・・




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