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3.囁きボイス

森の中を歩くこと数分、比較的近いところに町はあった。

おそらく夜中ということもありひと気はあまりない。

街灯の光だけが道に咲いていた。


そして様子を見るにやはりここは日本でない。

建物の造りはレンガであろうか。暗くてよく見えない。


「着いた・・・はいいけど、どこへいけばいいんですか?」


「そうだね。今日はもう遅いし宿屋にいこう。案内するよ。」


そういうと彼は先ほどと同じように首だけで先導した。


「ところで、あなた結構重いんですけど、なんとかなりませんか?浮いたりとか。」


ダミーヘッドマイクの重量は約3.5Kg

そもそも持ち運びするようなものでもないためとても運びづらいのだ。

それに彼女は配信業という職柄、外にでて運動をする機会も少ないため、余計にそう感じられた。


「あぁそうだね。わかったよ。」


ここまで運んできたのだからダメ元であったが、なんとかなるらしい。というかもっと早くいってほしかった。


ダミヘはみるみる小さくなり、最終的に数センチほどになり私の肩の上に乗っかった。


「なんか・・・なんでもありですね。」


「これはマイクとしての役割というよりこの世界での君のサポートとしての能力かな。」


「そうですか・・・。」


なんだかこの数時間で理解不能なことが起こりすぎていてこの程度では動じなくなっていた。


「あ、この角を左に曲がったところだよー。」


なにはともあれ、彼女の不安の一つであったマイクをもって歩くことで不審がられないかというのが解消されたのはいいことだ。それでもまだまだ不安の種は消えないのだが・・・


そして不安の一つが的中した。

宿屋と思わしき建物の看板には私の見慣れない言語が書いてあるのだ。


日本語でも中国語でも英語でもフランス語でもない。

いままでみたことのない文字が書いてある。


「中に入ろう。」


「え・・・でも。」


「いいからいいから。」


彼女の不安を知ってか知らずか、ダミヘはせかすように言った。


彼女はそれを受けてもうどうにでもなれという気持ちで扉を開ける。


「ーーー・・ー・・・・。」


中から聞こえたのはやはり聞きなじみのない言語だった。


「もしかして代わりに話通してくれるんですか?」


「まさか。僕は音を拾ってその音を相手に届けるマイクだよ?出力は専門外さ。」


「なっ・・・。」


こいつは何を言っているんだ。

その言い分が通るのなら今なぜ会話ができているのか。

現に繰の耳にはダミヘの声が届いているというのに。


「君は特別だよ。というか聞こえているように見えて実は喋ってはいないんだよね。脳に直接話している、的な?」


「私・・・いま口にだして・・・。」


「まぁその辺の説明はまた後でするよ。今はあの人何とかしないと。」


彼は受付嬢のほうをみる。

つられて彼女もそちらを向く。

受付嬢は不思議そうというか怪訝な面持ちでこちらをみていた。

もしも、本当にこのダミヘの言っていることが本当なら彼女はずっと一人で話していたように見えるというわけだ。

そりゃそんな顔もされてしまう。


彼女は愛想笑いでごまかしつつ

「って、どうするんですかこの状況!」

と耳打ちをする。


すると


受付嬢の表情が一変した。



先ほどまで追い出そうか思案していそうな表情の嬢だったが

彼女のささやきを耳にした瞬間

力の抜けた表情になった。


「いいねぇ。その調子でもっと囁いてよ。そうだなぁ『ここに泊めて』とか言ってみたら?」


「なにいってるんですか!」


彼女は再度耳打ちをする。


「~~~~~!!」


すると嬢は艶やかな嬌声を上げ、さらに表情をとろけさせた。


「いいからいいから。ほら。」


もう何がなんだかさっぱりだがあの表情は見覚えがある。

あれは彼女が初めてASMRを聞いた時の表情だ。


目がとろんとし口は半開き、時折甘い声が漏れだし、背筋から頭のてっぺんまで電撃が走ったような感覚。


あの時の彼女と同じ表情をしていることに気付いた。


もしかして・・・


彼女は目を閉じる。

そして配信でいつも彼女がするように

肩に乗っているダミーヘッドマイクに対して


『ねぇ・・・ここに・・・泊めて?』


とウィスパーボイスを発した。


「ーー~ーー~~・・・~!!」


すると受付嬢は声にならない声を発し、腰が砕けた。


へたりこんだ嬢に対し彼女は手を差し伸べる。


「・・・ーーーーー・ーーー。、、。」


「えっとー・・・。」


嬢が何か言っているがあいかわらず何を話しているかわからない。


「泊まっていいってさー。タダで。」


「えっ!言葉わかるの?」


「あれ、いってなかったっけ。僕マイクだしこっちの言葉変換して君に届けるくらいはできるよ。」


このマイクは大事なことは全然教えてくれない。

本人はパートナーとか言っているがもうこの時点で全く信用ならないことを心に思った繰であった。

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