96 慈愛の御子
空間が歪む。
また、誰かが。
何かが転移してくるのだろう。
その様子を見て人が増えた、とばかりに顔を歪める福幸。
グギュ。
福幸の背中から音が聞こえる。
次の瞬間、2本の骨が背中を突き破る。
次に血肉が骨から溢れ出て翼を模した悪趣味なナニカへと変貌する。
それだけでは無い。
その翼の先から逆に覆うようにまるで植物の根みたいなものが現れ翼だけではなく福幸の身体も覆い始める。
根は特に体を覆い、浮き出た血管のように身体中に現れる。
抜き放たれていた2本の剣は木に覆われ造形され大剣に等しい大きさの木刀へと。
そして、これらの変化が終了する頃には彼の頭の上に光輪が浮かぶ。
「悪趣味な天使だね……。」
ボソリと、レオはそう呟く。
確かに、その姿はそのシルエットは噂、伝承にある天使と酷似している。
本質はどうであれ、だ。
ミョン
空間の軋みが最高潮に達し異形の姿をとった人間が現れる。
皮膚はあまりに肥大化した肉やら臓物やらで裂かれ、その隙間からは未だに肉が増えている。
体からは血を垂れ流し続け男女の判別すらつけることはできない。
そんな存在が福幸を見る。
「お前が敵? 弱そう♪」
リズミカルにそう告げると福幸に殴りかかる。
声はしわがれており人なのかどうかすら怪しい。
ヒュッ。
「不味そうだな。」
不屈の魔剣を振る。
大きくリーチが変わったそれは寄ってくる敵の腕を切り落とし、左手に持ったククリナイフで追撃を行う。
「きゃひ♪ いったぁ〜い♪」
まるで性的快楽を得たかのような動きをしてから、ソレは切り捨てられた腕を即時再生する。
「もっともっとぉ〜♪」
そう言って、擦り寄ってくる。
吐き気を催すほどの歪な体で。
「汚物より酷いな。」
「何かにぃ〜? 褒めてくれてるのぉ〜?」
気色悪いしわがれた猫撫で声が神経を逆撫でする。
「もういい、死ねよ。」
本能的な拒絶を持ってそう告げる。
同時に、2本の大剣を横一閃に振り抜く。
ガギ……。
分かっていた。
そう、分かっていた話だが当然のごとくその剣は止められる。
ソレが手にしている武器はレイピア。
一切しならず、曲がらず貫くことに特化したレイピアである。
「本格的に趣味が悪いな。そこまで痛ぶって殺したいか?」
「何言ってるの♪ 私は最高の苦痛を与えて優しく殺してあげるだけ♪」
「狂ってるな。」
それだけ言うと交わす言葉は無いとばかりに剣を振る。
それぞれの澱みのない技を惜しみなく出し合い何合も打ち合う。
それぞれの肉体の特異性を使い敵を殺さんとする。
化物と異形がおこなうその打ち合いは世界で最も醜い物の一つとなるほどに悍ましい物である。
そんな戦いは、徐々に福幸が押され始めた。
「早く戻ってきてくれないかな!? 御子が増えすぎて僕じゃぁ対処できなくなったよ!!」
理由は単純、数が増えたのだ。
不意の一撃や、テンポを崩すように入ってくる敵を処理するのも簡単では無い。
暴食の霧で雑魚は蹴散らせるがその間に目の前の異形が襲ってくる。
さらには恍惚とした笑みを浮かべた、のかもしれない気色悪い顔で。
下手に逃げようとしても、どちらかに足止めをされて動けない。
確かに、肉体はまだ戦える。
しかし、精神は、メンタルは確実に削られている。
圧倒的劣勢と言っても過言では無い状況に追い込まれ始めたのだ。
回復魔法の暴走に近いですね。




