94 殺戮者
「行くよ!!」
レオの号令に頷く間も無く駆ける福幸。
手には不屈の魔剣とククリナイフの変則二刀流を構える。
「居たぞ!! 殺せ!!」
「殺せー!!」
こちらに気づいた幾許かの御子が剣を抜こうとする。
その様子を見ながら福幸は、技を発動する。
(技を共有、完了。肉体の上限に引っかかるか……。無視だな。)
「『雷人』」
技を発動した瞬間、魔法が発動し、スパークが発生。
福幸は帯電した状態になりあり得るはずのない電磁加速が発生する。
その速度は常人は愚か超人ですら四肢がもぎ取られかねない速度。
すなわち音速。
音すら置き去りにし、一瞬にして十人余りを薙爆ぜさせる。
ドォォォォォォォン。
爆音と爆風が吹き荒れる。
土煙が巻き起こり、福幸が動いた直線には細く黒いガラス化した地面が現れる。
「おー、いいじゃん。『怒れる獅子』」
大地が鳴る。
ただの踏み込みが大地を抉り、地震を起こす。
大罪スキル、憤怒
その効果は単純明快。
技術を必要としないほどの力を持っての圧殺である。
「マジっかよ!!」
その様子を片目に今にも潰れそうな両手を震わせて戦う。
体への負荷は計り知れない。
知識から呼び出した経験をもとに無理矢理動きを繋ぎ合わせ体を動かしているだけに過ぎない。
痛みはもう超えている。
「初手ミスったなぁ……。」
無数の知識による経験に酔って身体に過剰な負荷がかかる技を使ったのが間違いだ。
本音を出せば、今すぐに休みたい。
だが、100を超えるであろう御子の軍団に突っ込んだのは福幸自身である。
喚け、叫べ、狂え。
その上で殺戮し蹂躙しろ。
自業自得とはまさにこのことだ。
「オラオラオラオラ!! 俺の痛みを味わえ!!」
理不尽に怒り理不尽に殺す。
今の福幸に出来ることはただそれだけ。
一瞬意識が抜ける。
若干の浮遊感。
「『我が純潔よ!!』」
一瞬の隙を狙われて横から魔法が放たれる。
体は動かない。
「ヤッバッッ!?」
足が踏み込めない。
放たれる技を避けられない。
ヒュッ!!
「援護いるー?」
「助かった!!」
憤怒が小石を蹴り飛ばし、技の使い手の頭部を破裂させたのだ。
時間が、余裕ができた。
ならば動きはより洗練される。
「技を共有、肉体負荷は軽度か。ならばよし。『螺旋』っ!!」
福幸の体が回転し、敵を薙ぎ倒しながら進む。
一挙一動が記憶した技を共有した技術を貪欲に、強欲に、喰らい成長する。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!」
口から涎が溢れる。
慢心ではない。
油断ではない。
ただの高揚だ。
自分でも人を殺せるという高揚だ。
前に一歩。
腕がそれより長く早く放たれる。
動きは作業的に、心は愉悦に歪みながら血反吐を吐くような激痛に狂わされながら嗤い殺す。
処理は遅い。
敵は遅々として減ってゆかない。
だが、着実に殺している。
「こんなところにいられるか!! こんな世界にいられるか!! 全員しね!! 俺の邪魔をするやつは全員死ね!! 死ね死ね死ね死ね!! 死んで詫びろ!!」
感情的になる。
無駄という言葉は不必要だ。
さぁ,蹂躙を始めようか。




