89 暴食の天使
「到着、と。」
「ここがそうなのか……。」
福幸が目覚めた教会とは違った場所に到着した。
そこも、おおよそは変わっておらずただ一つの違いは血に塗られていないと言う点だ。
「よぅし、出てきそうか確認するかー。」
「どうやってやるんだ?」
「魔法陣があるよね?」
そう言って教会の中心に書かれている魔法陣を指差す。
「あれに魔力を込める。」
「ほうほう。」
「そしたら魔力残量が分かるから一定量以上装填されてたら確定ってことだね。」
「ふーん。」
分かったような分からないような返事をして近くの岩に座る。
「どうしたんだい?」
「いや、ちょっち疲れた。」
体が訴える疲労を無視していた代償が回ってきた。
厳密に言えば疲労と空腹感だ。
(さっきからずっと、モンスターを見るたびに敵というよりかは食べ物って見てたな……。コレ、暴食が覚醒し始めたか?)
勝手な憶測、推論を頭で唱えながら岩に座りぐったりとする。
チラリ、と腕を見る。
そして、頭を振る。
「よし、当たりだ。って、どうかしたのかい?」
「い、いや、別に。それより何か食いもん持ってないか?」
「食べ物? えー、持ってないよ。」
「そうか。ちょっと狩に行ってくる。」
そう言うが早いか、不屈の魔剣とククリナイフを抜き地面を駆ける。
「見つけた。」
ギギャッ?
視線より先、おおよそ百メートル先にいるゴブリンを見つける。
「技を共有、完了。本来の使い方とは違うが……。行くぞ、『崩牙』!!」
百メートル先の獲物を相手に不屈の騎士の記憶から引き出した崩牙という技を、剣を上段に構え剣先が下にくるように振る技を放つ。
技の範囲内に敵はいない。
故に当たらない、が福幸の目的は相手に当てることではない。
爆音と、轟音が響き地面が衝撃で跳ね上がる。
「『実ガチャ』」
辺り一面の石を実ガチャで変換して行く。
出て拾って食べるなどと言う行儀の良いことはしない。
手当たり次第、口に入った物から嚥下し空腹の足しにする。
それと同時に、動きに力が戻っていることが自覚できる。
「バリバリゴリゴリガギガリッ。」
あらゆる種類の実を噛み砕き嚥下し力を増す福幸。
そして、技を使う。
「技を共有、完了。『螺旋』!!」
直後、体が螺旋を描き一息に百メートルを詰める。
「切り裂け!!」
叫び声を発すると同時に、螺旋を描いていた二振りの剣がゴブリン達に達する。
ザシュッッ……。
肉が、弾け飛ぶ姿を見て福幸は嗤う。
「腹が、減ったな。」
手を出して、爆散した肉片を実ガチャで変換しようとする。
「嗚呼、」
ガギッ、ギッ。
歯と歯が肉を噛みちぎり軋んだ音がなる。
「腹が、減った。」
弓が現れ、分解され、翼となる。
頭の上に、暗い光輪が現れる。
脚から根が生える。
「腹が減った、腹が減った、腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った腹が減った!! 腹が減った腹が減った!! 腹が減った!! 腹が減った!!」
目に爛々と宿る黒い光は辺り一面の変換できうる全てを実ガチャにより実に変換する。
それらは地面から現れた黒い霧によって消し去られる。
「」
言葉が消える。
理性が戻る。
「っと、ぺっ!! ぺっ!! にっがいな。やっぱりゴブリンの肉はこんな程度か。」
価値あるものを食べた感想を口にしつつ福幸はレオの元に戻る。
背中の翼はもうすでに弓となり消えていた。
急展開⭐︎




