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86 意識の覚醒

「戦闘は終わりだ。俺の勝ちだ。なあ? 暴食スキル? (・・・・・・)

「どこでわかりましたか?」

 

 中性的な声が聞こえる。

 目の前に倒れた福幸の姿はない。

 

「詠唱を聴いたら想像は付く。」

「そう、ですか。」

「さて、答え合わせをしたい。お前は俺の何だ? 予想は暴食スキルに宿った俺の精神性だと思ってるが……。」

「おや? おやおや? おやおやおや? おかしな事を言うものですね。」

 

 嘲笑しながら嗤う。

 

「そんなちゃちなものでは無いですよ。そんな程度とっくの昔に……。」

「とっくの昔に?」

「美味しく頂いてしまいました♡」

 

 恍惚な笑みを浮かべながらそう答える。

 

「俺の分身的な存在を?」

「いえ、貴方ほどの美味しさも魅力もありませんでしたよ。所詮、あなたを模倣した偽物ですね。」

「そう、か。」

 

 吐き気がするほどの悍ましさを覚えながら福幸はそう告げる。

 

「一つ、聞きたい。」

「何でしょう?」

「不屈の騎士は俺が見た妄想か? それともお前が作り上げた幻想か? それとも剣に残った残留思念か?」

「アレですか。」

 

 忌々しそうにそう言うと暴食の霧を出す。

 

「想定外、なんだな。」

「そうです。」

「じゃぁ、アイツに言われた言葉は、言われたすべては、俺の感じた全ては本物。そう言う事でいいんだな。」

「あの時代の存在の全ては、規格外の一言ではすみませんからね。特にあの騎士は、貴方が直接お会いしたと言う剣姫、彼女が幼少の時に剣術を教えた存在ですからね。技量を授けられた貴方も彼並みの技術は発揮できるはずですが……。」

「今は、聞かなかったことにする。聞かない方が明らかに俺の精神的な為になりそうだ。」

「でしょうね。」

 

 福幸は、その言葉を聞き彼女に背を向ける。

 

「お前は一体どんな存在かはわからないし知らない。そして、知る気もない。だけど一つ言わせてもらう。」

「何でしょう。」

「俺の前で!! 小町の姿をとるんじゃねぇ!!」

 

 青筋を立ててそう言い捨てると福幸は不屈の魔剣を心臓に突き刺す。

 

「なっ、何を!!」

「いい加減、この気持ち悪い場所から出させてもらう。死ねば出れるだろ?」

「やっ、やめなさいっ!! そうすれば、貴方は永遠に不幸を受けずにここで何も考えずに過ごせるのですよ!?」

「要らない。」

「何故!! あれだけ不幸を嫌い平和を享受しようとしていた貴方が何故!!」

「唐突すぎるし結論を急ぎすぎてる。そして、やっぱり俺はまだ死んでない(・・・・・)。」

 

 世界の崩壊が始まる。

 否、崩壊ではない。

 夢から覚めるのだ。

 暴食の世界という夢から覚めるのだ。

 

「次は殺す。小町の姿をした女。次は必ず殺す。」

 

 返答は聞けない。

 その言葉を言い放った瞬間世界は覚めた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「」

 

 意識が覚醒すると同時に無限に発生していたエネルギーが収束する。

 背中から生えていた二翼の骨と内臓で形取られた天使の羽は福幸が体の制御を取り戻すと同時に取れて変質、一本の弓は骨で弦は小腸で作られた弓となった。

 下半身から生えていた木の根のような物は一瞬で腐り腐敗し土となる。

 頭に現れていた光の輪は消え去りそこにはボロボロの衣服を纏った福幸本来の姿があった。

 

「ようやく戻ったかい? 馬鹿な奴。」

「久しぶりだな、レオ。」

 

 背後から聞こえた疲弊しきった声に反応する。

 

「ようやく、暴走が止まったみたい……、だね?」

「すまん、記憶はないが……、迷惑をかけたっぽいな。」

「そう思うなら二度とこんな事をしないでくれ。」

 

 そう言うと、彼は地面に倒れる。

 

 事態は加速する。

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