83 暴食の悪魔
「さて、始めるか。」
「頼む。」
福幸がそう言うと、不屈の騎士が地面に刺さっていた平凡な剣を抜く。
「其の剣は不屈を冠する魔剣」
剣が輝く。
淡く、強く、光り畝りを上げる。
「我が人生、我が英伝を冠する魔剣」
離れたくない、別れたくないと、子供が我儘を言っているかのような雰囲気を感覚的に受け取る。
「今ここに宣言しよう。」
言葉は平坦で、力強く芯に響いた。
「我が英伝の結晶、不屈の騎士を『不屈の騎士』たらしめんこの剣を譲渡することを。」
不屈の騎士の身体が淡く光る。
まるで今から消えゆく様に。
「ちょっと、ま、待てよ!! お前!! 死ぬのかっ!?」
「受け取れ、そうすれば解る。」
そう言い、剣を
不屈の魔剣の本質を福幸に渡そうとする。
「ふっ、所詮はこの身も長くは持たない。言うなれば、執念で永遠の時を生き永らえた身だ。ただ朽ち果てるよりは何かを残した方が、いや、違うな。」
ふぅ、と息を吐きまた、喋り出す。
「朽ち果てるしか未来が無かったこの俺にもう一度剣姫、ローズ様に合わせていただいた恩を返す時が来た。我が執念の本質、剣姫を生かすと言う願いの果を見させてもらった。」
カチャン、
鎧が音を立てる。
「あの邪竜は我が意志の果てに死んだ。幼少から見守らせていただいた剣姫、ローズ様は御立派に成長なされた。これ以上望むものはない。いい加減、永遠の生を終わらせたい。そう願うのは諦めか?」
「ッッッ。」
唇を噛み締める。
「俺がお前に願うのはただ一つ、我の行いの、英伝の結晶である不屈の魔剣を扱うに相応しい者となることだ。出来るな?」
「そこまで言われたらやるしかねぇな。」
「ふっ、よくぞ言った。」
その言葉を受け取るより先に剣に手を伸ばす。
「新たなる、英伝の始まりを見て新たな物語を俺に教えてくれ。不屈の魔剣。それが俺の最後の願だ。」
剣は完全に福幸に譲渡され世界が軋みを上げる。
「時は少ない。簡潔に伝える。あの荒野で貴様に声をかけてきたのは貴様の中にある暴食スキルだ。」
コクリと、
そう頷く。
「貴様はあの悪魔を倒さねば元の世界に戻ることは叶わない。勝利条件は、殺さずして悪魔を殺せ簡単な話だ。」
「訳がわかんねぇよ……。」
「愚鈍な奴だ。もっと簡単に教えてやろう。悪魔は人を殺す人類の敵ではない。真逆だ。奴等は人類の成長を助長する存在だ。そして、対価として人類の叡智の結晶、技術、技量、英伝の集合体。すなわち、エクストラスキルを奪う。貴様は、エクストラスキルをくれてやらずに悪魔を捻じ伏せその力を奪い取れ。簡単な話だろう?」
「意味が分からないな、まぁ、けど察した。言いたいことは解る。」
「最初に言っておく。人類の本質的な、潜在的な敵は悪魔ではなく世界を管理する神だ。我々人類はヤツによって一度終焉の黄昏を発生させられた。貴様が女神を討つのであれば覚えておけ。」
不屈の騎士の身体が完全に光の粒子となる。
「えっ、つまりあの神……、女神は完全に敵ってこと……だよな? また、倒す理由ができた訳、か。」
そう言うと後ろを振り向く。
無数の剣が刺さっていた荒野は崩壊し始めている。
「『貴方は苦労しなくていい。全て俺に任せろ』」
福幸の声で福幸の姿でそう告げる存在がそこにはあった。
「偽物か? 全く、なんで世界の命運を俺が握らなくちゃならないのか……。あぁ、不幸だな。」
そう言う割には、不適な笑みを浮かべ不屈の魔剣とククリナイフを手に持っている。
「『変わってやる』」
「高慢で高圧的、俺の暴食がそんな奴だったなんてなぁ。」
心理的余裕からくる煽りは、自分を奮い立たせる起爆剤でもある。
「全力で相手してやるよ。かかって来い。」
「『この分からずや。こうなれば力で捩じ伏せるしか方法はない。』」
互いの一歩目は、同時に踏み出された。
書きたいことを書くほどに下手になってる気がする




