8 森散策
「本日の鍛錬はここまでです。御飯は貴方が自力で調達しなさい。」
「マジですか?」
「まじ……? よくわかりませんが本気ですが?」
(マジかぁ……)
そう心の中で言うと、メイドであるノーブルは消える。
彼、福幸は疲れ果てて、地面に寝転ぶ
「どうしようかなぁ。」
夕食を自力で調達しろなど、まぁ、普通の高校生には無理な話だ。
それは、不幸な高校生でも代わりはしない。
無理なものは無理。
だが、調達せねば死ぬ。
体力が無くなり死ぬだろう。
というわけで、自力で調達するために森へと向かうのだった。
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「あっるっこ〜、あっるっこ〜」
呑気に歌を歌いながら森の中を進む。
その声に、小動物は逃げ残るは中型の動物の群れか大型の肉食獣のみ。
福幸はそれに気づかず呑気に歩く。
そして、程々に歩いたところで微かに他の人物の足音が聞こえる。
「っ!!」
慌てて、警戒して木の陰に隠れる福幸。
だが、足音の人物はそんなものお構いなしに近寄ってくる。
「やぁ? はじめまして」
唐突に挨拶される。
自分が向いている方向、すなわち先程まで誰もいなかったところから声が聞こえる。
「はっ、わっ、」
「ははは、慌てなくていいから。落ち着け。」
そう言って笑うと、黒い人物としか表現できないソレが袋を投げる。
「いい天気だな? やっぱり出会いってのはこういう天気じゃねぇと。」
感慨深げに話す、黒い人物から目を離さず投げた袋を拾う。
大きさはそれほどでもない。
精々、小振りのスイカ1つ分といったところだろう。
重さはもっと軽い。
精々、林檎1つ分だろう。
「大したもんは入ってないぞ。お前にくれてやるつもりだったしな。」
「中身はなんだ?」
「本当に大したもんじゃない。」
「何なんだ?」
「言ってしまえば一種の制御装置だよ。」
「なんの?」
「なんでもいいじゃないか。」
そう言うと、もう答えないとばかりに視線を逸らす。
そして、少し開けた場所まで歩いて腰を下ろす。
「ほら、座らねぇの?」
「いや……」
「遠慮すんなって。」
そう言い強引に座らせる。
「異世界で元気にやってるか?」
「ちょ、ちょっと待てよ!! お前、なんで俺が異世界人だって……」
「気にすんな。」
「気にするわ!!」
思わず突っ込むと、それが心底楽しいことのように黒い人物は笑う。
「落ち着けって。俺は敵じゃない。興奮してたらハゲるぞ?」
「興奮するわ!! もしかして日本出身か?」
「一応は、な。」
思いがけず、同郷のものと出会ったことに興奮する福幸。
「さて、仕事はやったし帰るとするか。 」
「えっ、早くないか?」
「まぁまぁ、お前がこのまま進めばいつか出会うだろうよ。」
そう言って彼は消える。
まるですべてが夢だというように。
そこに残るは間抜け面を晒している福幸と青々と茂っている草木だけだった。
「何なんだ?」
そうボソリとつぶやく。
横においていた革袋がなければすべて夢と言われても信じれるぐらいに唐突で不思議なことだった。
故に、革袋を強く握りしめる。
摩訶不思議の中で唯一冷静なのが自分だと鼓舞するように握りしめる。
他人に頼れるレベルは終わったのだ。
恐怖に震える体を意思で止める。
いくら震えようが今になっては変わらない。
自分の意図した結果でなくともそれを享受しそれに合わせて生きていかねばならない。
それが、福幸那人に許された唯一の生きる道だからだ。
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「結局成果はなし、かぁ。」
残念そうにしつつもそれを受け入れているように嘆く。
最も全くのゼロというわけではないが望んでいた動物性タンパク質、すなわち肉が取れなかったとことがかなり響いているようだ。
とはいえ、絶望するにはまだ早い。
思ったよりも長く森の中で彷徨っていたのだろう。
日は沈み始めている。
早く戻らねばあっという間に暗闇に包まれるであろう森に取り残されるのは流石に怖すぎるので急いで数少ない荷物を持って歩き出す。
周囲を見渡し何も居ないことを確認して歩き出す。
だが、いくら歩けど屋敷や草原は見つからない。
そのうち、空は完全に深い藍色に染まり頭上に浮かぶ二つの月が現れる。
「マジで、ここは異世界なんだなぁ……。」
一人呑気に、空を見上げている福幸の背後に黒い大きな蜘蛛の姿がある。
音を立てずにゆっくりと近づき、福幸に襲いかかった瞬間。
「これ、気を抜くでないぞぃ?」
剣姫の声がした。
ザシュッ、ドンッ、ゴロゴロ、コツン。
一刀の元に切られた蜘蛛の頭が……福幸の足に当たったのだ。
生暖かい湿りを感じながら足に目を向け……、悲鳴を上げる間もなく気絶した。
「全く……、お主は乙女か?」
呆れたような声色で剣姫は、言い放ち担ぐように福幸を持って屋敷へ帰っていった。




