78 疲れた
「おいっ、角内!! どこ行ってたんだよ〜!!」
「ちょっと、トイレに……。」
「そうか。っと、そんなことよりあの子見ろよ。めちゃ可愛くね?」
「えっ? どれどれ……。あっ、(察し)」
その視線を向けた先には先ほどの王女様が……。
「あっ、手を振ってくれたぞ!! 俺にだよな!! 見たか? 俺に手を振ってくれたぞ!!」
「あ、うん、そうか。」
「何だよ〜、羨ましいのか?」
「いや、まぁ、あー、うん。頑張れよ。」
憐れみの目を向けてそう告げる。
「へっ、絶対に告ってやる!!」
「……。」
(ばっかじゃねぇの!! って言ってやりたいけどコイツの立場だったら俺もしそうだしなぁ……。それ以上にあの王女の本性がわからんところが多すぎて純粋に怖いし。逃げよっ、と。)
差し足摺り足忍足の要領で食堂の端に赴く。
手に持った皿にはハムとサラダ、パスタっぽい物が載っておりそれを頬張っている。
結構、ちゃっかりしている角内だ。
「あー、美味い。味は普通に一流なんだよな。」
「美味しそうですね!!」
「うわっ!? お姫様っ!? 何でここにっ!?」
「いえ、面白いものを見たので!! 楽しそうですね〜?」
「面白いものってなんだよ、面白いものって。」
「え? ご友人との会話ですよ!! サービスで手を振ってみたら面白いように反応してくれて、ねぇ?」
「あっ、はい。では、また今度……。うぇっ!?」
しなだれかかるように腕を組む。
そして、耳に囁くようにこう言う。
「あれぇ? 逃げるのですかぁ?」
「鬱陶しいのでお帰りください。」
「シクシクシクシク。」
「うるさい。」
邪険に扱う、が内心は焦りで逃げたいの一心だ。
一刻も早く逃げたい。
(逃げたい逃げたいっ!! 何で絡まれるんだよ!! 他のやつのところに行けよ!!)
カタン……。
「いい事を教えて差し上げましょう。」
声のトーンが急激に下がる。
その雰囲気は、まるで女傑のようだ。
「なん、だ?」
「我々が勇者様方を読んだ理由、聞きたくありません?」
「……ッ。」
タラリ、
汗が流れる。
拒否権はない。
「聞かせて、くださ、い。」
「100点満点です!! じゃぁ、教えましょうか? もうじきに私のお父上が崩御なされます。あとはわかりますよね?」
「戦争、いや、内乱の道具と?」
「ふふっ。」
(拙いっ!! 拙いぞっ!! この言い方、内容、俺たちに人権なんてものは鼻から用意してないって意味だよな。すなわち、所詮道具って考えな訳だ。最悪のパターンは完全に道具として扱う事。だが……。)
満面の笑みで凄んでくる女性を見てより深く考える。
(そんな旨味のない事をコイツがするはずがない。俺たちを呼ぶ労力と俺たちを消耗品として、得られる利益、確実に釣り合わない。)
「何をしたい?」
「えぇ? 私を疑うのですか?」
(疑うに決まってるだろ!! そりゃぁ!!)
怒りに駆られる。
匂わせておいて核心を一切言わない。
答え合わせを行えない。
その行動一つ一つにはらわたが煮え繰り返りそうな激情を覚える。
はっきりしないと言うもどかしさ、命の危機があると言う恐怖。
その理由を知り与えない存在への憎み。
一言では語り尽くせない複雑怪奇な感情が心の中で渦巻く。
「……、ご飯を食べたいので離してもらっていいでしょうか?」
「はい、どうぞ?」
嫌味ったらしい笑顔でそう告げると彼女は腕を離して表情を消しどこかへ歩いていった。
「………はぁ、疲れた。」
そう言うと、角内も歩き出す。
食べ物が並ぶテーブルへと向けて。




