77 トイレでのひと時
ザワザワ……ザワザワ……
西洋の教会風な場所の中にある食堂が騒々しさに包まれる。
中にいるのは五十人余りの男女。
互いに不安そうに、楽しそうに、声を掛け合っている。
ただ1人を除いて。
「おい? 角内どうした?」
「い、いや、なんも無いよ」
そういい、また思考の渦に入り込む。
(なんで誰も気づいていない? 複合那人がいないことに。アイツらから見てアイツはそんなにどうでもいい存在なのか?)
真っ当な疑問を抱く。
あたりを見渡せど、声を聞けど、それらに含まれるのは未来への希望だけであり今に対する恐怖はない。
冷や汗が出る。
自然に喉が乾く。
いつのまにか、シャツの下に着ていた下着は汗で濡れていた。
暑さではない。
恐怖によって。
「もしかして……。」
(俺たちは洗脳されている?)
一つの結論に辿り着く。
異世界物によくある結論だ。
そして、それが最もしっくり来る。
「その先はなにかしら? 勇者様?」
唐突に声をかけられる。
見たこともない金髪の女性だった。
おおよそ、16〜19歳だろうか?
佇まいは品の良さを感じさせる物であるが夜半の窓際に座る令嬢と言った感じではなく白昼堂々、玉座の横で無能な王に己の欲を伴った進言を述べる高貴な者と言った雰囲気を感じさせる。
「ッ!? い、いや何でもないです。魔法とかあるのかなー、って。」
「ああ、そんなこと? ありますよ? 無ければ貴方達を呼べないじゃないですか。」
「は、はは。そうでした。そういえば、貴方は?」
「私、ですか。そうですね。ええ、そのうちわかりますよ?」
「はは、なら楽しみにしておきましょう。」
最低限は取り繕えた。
そう思い内心、ほっとしている角内であったが次の瞬間にその安堵は氷を背に入れられたかのような悪寒に変わり果てる。
「安心して下さいまし? 我々は貴公らに対して……|何も致しておりませんから《・・・・・・・・・・・・》。」
「 」
言葉が出ない。
そっと告げられた何気ない一言は、角内の耳にはこう聞こえた。
|お前の考えなどお見通しだ《・・・・・・・・・・・・》
と。
震える手を押さえる。
理性からくる恐怖は、抑えられる。
息を吸って、吐く。
「何もしていないんですよね?」
「ええ、我々は何もしていません。」
「そうですか。」
それだけを聴くと、角内はにっこり笑ってこう言い退けた。
「わかりました。この国のお姫様? 間違っていたらすみません。」
「わぁっ!! 素晴らしい知性をお持ちで!!」
(黙れよ……、お前の言い方腹につくんだよ!!)
表情筋を無理やり押し留める。
心を殺す。
「少し、手を洗いたいのですが……。無知なもので……。」
「まぁ!! これはいけない!! お客人への配慮が足りませんわね!? きっちり、言いつけておきます。では、手洗い場はメイドにお聞きくださいませ。」
「寛大な配慮、ありがとうございます。」
「では、こちらへ。」
(ようやく逃れれる……。)
そう思い、安堵の溜息を漏らす。
その後ろ姿を、王女に見られているとも知らないで。
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「ふぅ。」
今度こそ、全身の力を抜く。
そして、頭を抱える。
「王女……様の言葉がもし本当だとしたら俺たちは確実に何かされてるってことだよな……。だって私たちはだし。」
お手上げ、そう言いたそうな顔で推理を述べていく。
「俺たちへの洗脳内容はおそらく違和感を持つなとか、倫理面を怪しくさせるモノだろうな。あと他に、逆らうなとかか? 他にもあり得るが、おそらくそこまでキツいものじゃないだろう。絶対制限とかあるだろうし。」
異世界物によくある話だ。
それぐらいの予想は立てれる。
「そう考えたら、那人に感謝しないとな。アイツがいなかったら俺はこのことに気付けなかった。」
そう言うと、天井を見る。
何の変哲もない、石の天井だ。
「誰か聞いてるだろ? 答え合わせぐらいしてくれないか?」
一秒……二秒……三秒……
時間は過ぎる。
「え、本当にいない? それなら俺はただの痛いやつなんだけど……。」
「ふふ、そのようなことはございませんよ。角内様。」
「あっ、よかった。いたよ……。ふぅ。」
角内をここまで連れてきたメイドがそう言う。
「見事なご推察です。惚れ惚れする物でした。」
「じゃぁ、惚れた弱みってことで王女様に言うのは辞めてくれないか?」
「公私混同はしない主義ですので。」
「ですよねー。はぁ、分かったよ。チッ、取引をしようか。」
「取引、でございましょうか?」
「ああ、出来るだろ? 少なくとも貴族の子女の貴方なら。」
「話だけは聞きましょうか。」
「じゃぁ、本題と行こうか。」
こうして、二人の逢瀬が始まる原因となる。
トイレのことを花の園と言っているのは男性の時のトイレに行く言葉を角内は知らなかったからです。




