74 平穏
「それで、ナヒトを名乗る人物の情報は?」
「現状、判明しているのは教会から大罪魔認定しているというところだけです。」
「あー、あのバカ一体何をやらかしたのよ!! 多少なら命の恩もあるし助けようかと思ったけど大罪魔って何よ!! 大罪魔って!!」
「流石に、大罪魔を庇うと言った行為は不可能ですよ? チュネッリーお嬢様。」
「わかってるから、そんな口調で言うな!!」
ヒステリックとはまた違った形で騒いでいるのは残念騎士、改てチュネッリー・ウィンスター。
とある貴族の八女であり武芸を程々に納めた人物でもある。
「で、どういたします? はっきり我々の見解を述べますと手を引いた方がよろしいかと。」
「でしょうね。私もそう思うわ。」
「ですが、それを選ばないのでしょう?」
「当然よ。私ほどの人間が受けた恩をそのままにしておくなんて許されない。」
「では、どう言った対応を?」
「とりあえず、奴らの総本山……、の一歩手前。大聖堂に赴くとするわ。あそこなら内情を知ってる人間がいるはずだしね。」
「大聖堂……、ですか。正直、私達から申し上げますと遠慮なさった方がよろしいかと。」
「理由は?」
「最近、まことしやかにこう騒がれています。『大罪魔が動きはじめている』と。」
「それと大聖堂にどんな関係が?」
「私が思うに、大聖堂の地下にあるナニカを奪おうとしているのでは? と思われます。」
「笑わせないでちょうだい。所詮ソレは噂よ。」
「……わかりました。ですが一つだけ。」
「何?」
「命の危険があらば今度こそ失敗しないため無理矢理にでもつれ帰らせていただきます。」
「ええ、それはお願いするわ。」
そう言うと残念騎士は部屋の外に出る。
中に残った初老の男はふぅ、とため息をついた後頭を抱えてこう呟く。
「お転婆姫の子守りは我々の仕事では無いのですがねぇ……。恨みますよ。当主様。」
そこからしばらくの後、部屋には誰も居なくなった。
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街に到達して二日目。
鬱陶しい残念騎士が誰かと話に行き、旅の物資の補給をし終わったころ角内は……。
「さて、行くか。」
ちょうどいい機会だからと残念騎士を置いていくことを決断していた。
実際のところなんやかんやで、邪魔になっていたのは事実。
この決断は英断だと言えよう。
「そうと決まれば早速……、ん?」
街を出ようと門の方へ視線を向けた先にいたのは残念騎士だった。
「マジか。どっか行けよ。」
ボソリとそう呟くと、気配を消して歩き始める。
「あー!! アンタ逃げんじゃ無いわよ!!」
「なんで見つかんだよ!!」
残念なことに後少しと言うところで見つかってしまった角内は、空を仰ぎそう叫ぶ。
辺りの人達の視線は哀れみを宿しており、このような事が何度もあると言う事がよく分かる。
ポン。
「兄ちゃん、コレでも食いな。」
後ろから、肩を叩かれ振り返るとごっついおっさんが串焼きを片手にそう言ってくれた。
「同情するなら変わってくれ!!」
「ガッハッハ、そりゃできん相談だな!!」
そう言うと、見た目からは考えられない俊敏さで人混みの中に隠れるおっさん。
「マジで何なんだよ!!」
「いいじゃない? 貴方大聖堂行くんでしょ? 連れてってよ。」
「展開の説明ェ……。」
今日も残念騎士のいる街は平和なようだ。




