71 スキル
「諦め悪く、足掻くというのであれば方法は一つあります。」
「そ、それは?」
「それは、美徳を大罪に変換することです。」
声が、静かに部屋に響く。
リリカと呼ばれた女性の声が、静かに。
「本当に、できるのでしょうか?」
「不可能ではありません。それで、命だけは助けることができるでしょう。」
「ッ、やはりそうなのですね。私の姪は助からないんですね?」
「今はなんとも。」
先程の憤りの様子は表情から消え去っていた。
そこにある顔は能面の様に無表情で冷徹なものでしかなかった。
「ぁぁぁ……、ねぇ、……、フコウさま?」
生気の抜けた彼女からその声が聞こえてくる。
「ほぅ? コレは。」
「ただの譫言でしょう。それもとびっきり残酷な。もう、見てられません。」
涙ながらにそう告げる姿はあまりにも哀れで虚しかった。
「彼女を楽に、してあげてください。」
「その依頼、意味はわかっているのでしょうね?」
「我らが宿命、我らが悲願。その道をゆく貴方様のお力に彼女を加えてあげてくだ……」
「しばし待たれよ、色欲? 我を放って面白そうな話をしているではないか?」
唐突にその声が聞こえた。
「強欲ですか。一体なんの用で?」
「大したことではない。されど、そこの小娘を助けなければならない義理ができたのでなぁ?」
「貴方に義理、ですか、珍しい。」
「ハッ、我は傲慢と違い欲するものを自由に手に入れるだけよ。相対するものには敬意を払う。」
「はぁ。それで、一体何がお望みで? 残念ながら彼女は差し出せませんが?」
「くだらん、他の男の虜となっておる女を欲するのは我の中でも最も嫌いな行為でな? 貴様もわかっておろう?」
「ええ、あくまで冗談です。で? 義理とはなんでしょうか。」
「ハッ、我が欲していた財物の在処を知る奴がいてな。其奴は暴食とそこの小娘の二人が助けたと言うではないか。しかも、暴食の奴はそれがきっかけであの辺鄙な場所に入れられておる。そこまでして我の財宝を守ったのだ。コレを義理と言わずになんと言う?」
「ほう、その様なことを……。しかし、助けると言えどどうやって?」
「ハッ、我にも隠し事の百や二百はあるものだ。」
「では期待しましょう。私たちは出たほうがよろしいので?」
「構わん。大した事でもないしな。」
そう言うと、彼は手を伸ばす。
「ふう、じゃぁ、やるか。『奪え、奪え、奪い尽くせ、奪い尽くすは我が強欲』」
「その術式、ほう、面白い。補強しましょう。『富め、孕め、豊穣よ、我が色欲は芳醇なり』」
変質した魔力がコマチを包む。
一つは荒々しく、一つは妖艶に。
「『不浄を持って清浄を奪う、我が強欲に勝る欲はなし』」
「『清浄は侵され、我が色欲によって性質を変質させる。さあ、清なる膿を吐き出せ』」
「「『さあ、いざ仰げーーーーーーーーー』」」
最後の言葉は、人の声ですらない。
一つの単語に1000の意味が込められる。
一言紡がれる度に、彼らの姿が変貌する。
リリカは、背中から八本の足を生やし体に食い込み始める。
強欲は四肢が獣と化し始める。
「「『 』」」
魔力が圧縮され、一つの回路を描く。
「ふう、一応除去しましたね。」
「協力感謝する。」
「そうですね。しかしコレはどうしましょう。」
そう言い、宙に浮いている回路を指差す。
「だな、生憎と我には対処する方法がない。奪い込んで武器にでも入れようかとでも思っていたが……、ここまで綺麗にスキルを出せてしまっては消すのが勿体無いな。」
「私には毒にしかならないので遠慮します。」
「だが扱えれば、いや? 面白い事を考えた。」
ニヤリと強欲は嗤う。
「暴食に食わせるか」
「いい案です。移動自体はできるのですか。」
「可能だ。こっから先は見るな。」
「そう、ですか。では私は先を急ぎます。ああ、一つ、忠告を。」
「なんだ?」
「獣人種の貴方は早く出た方がいいですよ。さもなくば、我々この砦街に巣食う大罪種に殺されますよ。」
「ご忠告痛みいる。」
そう言い彼は出て行った。
スキルは技術であり回路です。
細かいことはさておき、コマチは大罪の覚醒を無理矢理美徳で封じられてました。
今回はそれを取り除いたというわけです。
詳しい解説は要望があればします。




