70 本当に残念
「なんでついてくんの?」
「いや? わたし一人だけだと死ぬしぃ? あなた強いしぃ? 強い者には巻かれろって言うじゃん?」
「うっざ。」
残念騎士を邪険に扱いつつ銃を歩きながら展開してゆく角内。
たまに響く銃声は、残念騎士をより一層怖がらせることとなっているが気にしてはいけない。
そんなこんなで二時間ほど歩いた結果森を出ることができた。
「やっと出たか。」
「あ、ここアレスターだ。ありがとー!! ちょっと用事があったんだよねー。」
「ん? アレスター?」
何かで聞き覚えがある気がして角内は黙り込む。
(どこで聞いた? 王城じゃない、少なくとも。よく思い出せ、一体どこで聞いた?)
思考が重巡する。
どんよりと、泥で作られたプールを泳いでいる気持ちがする。
それほどまでに、思い出せそうで思い出せない。
「何を悩んでるのかしら?」
「いや、ちょっとしたことだ。それより、大聖堂はどこの街にあるんだっけか?」
「こっから二つ先の町。それよりなんで聞いたの?」
「用事があってな。」
「あら、奇遇。わたしも用事があるのよ〜。どうせだし、連れてってくれない?」
「い、や、だ。」
断固たる拒絶をする角内。
たった二時間で残念騎士の性格を見抜いた(身抜かされた)彼は二度と付き合うものか、とばかりに早足で歩き始める。
「まっ、待ってよー!! 一緒に旅する仲間でしょうー!!」
残念騎士はもう既に、仲間になったつもりのようだ。
「はぁ。」
そうため息を吐きながら歩き始める。
「なんで無視すんのよー!!」
仲間でも無い執拗に構ってくる他人を無視するのは当然のことでは無いだろうか?
「奥の手を使うんだからー!!」
一瞬、足を止めたが思考を切り替える。
あんな残念騎士が奥の手などを持っているはずがない。
事実、奥の手があるのなら恐怖に怯えながら森の中で見ず知らずの他人を頼るはずがない。
と言う、論理的思考を辿ってそう結論付けた角内は無視して先に進む。
「本当だからね!! 後悔するわよ!!」
無視して進む。
「うわぁーん、奥の手なんかないのにぃ〜、なんで無視するのよぉ〜。」
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「ぴぇぇぇえええん」
醜く、みっともなく泣き叫ぶ様子を見て
「急ぐか。」
無視した。
「ちょ、ちょっとそこー!! 普通、助けたりしないの!? このろくでなし!!」
「嘘泣きしながらついてきたお前に言われたかぁ、ねえよ!!」
「ナイスツッコミ!! 世界を狙えるわよ?」
「うるせえ!! 黙れ!! いっぺん死んどけ!!」
そんなやりとりをここから、約20分。
とうとう街にたどり着いた。
「おい、そっちじゃないぞ。列に並べ。」
「いいのよ。どうせだしあなたも来なさい。」
列に並ぼうとしない残念騎士を見て引き止めた角内だったが、その言葉に何か考えがあるのかと門の前までついてゆく。
「ごめーん、私よ!! チュネッリーよ!! 扉を開けて。」
ドンドンドン!! ドッドッドンドンドン!!
扉を女性と思えぬような力強さで叩く残念騎士改めチュネッリー。
その様子に唖然とし呆れる角内。
それを1、2分ほど続けた時に、ドンッ、と扉が開き、目つきの悪い青年騎士が青筋を立てて怒鳴る。
「あんたうっせえんだよ!! 貴族様が来てたらどうすんだよ!! このバカがッ!!」
「てへ? いいじゃないのよ。私だったら問題ないんだし。あ、入っていいわよね?」
「ッチ、ん? 後ろのそいつは知り合いか?」
「あ、えーと。」
「森の中で助けてもらったの。あ、早く通して? 濡れてて気持ち悪いから。」
「どこのなにが濡れてて気持ち悪いんだよ……」
「えー? 乙女にそんなこと言わせるの? うわあ、変態。」
「黙れ!! 三十路のババア!!」
角内は無事に街に入ることができるのだろうか。
残念すぎるッ!?




