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7 剣術の基礎

「あぁー、腰が痛いっ!!」

 

 箒で部屋を掃除している福幸が声を上げる。

 そして、腰をトントンと叩きながら愚痴を言う。

 

「急に異世界に連れてこられて死ぬ思いして今は謎に部屋の掃除って……、色々どうなんだよ? って思ったら駄目か? 駄目か……いや、けどさ!! 愚痴の一つぐらい言いたくなるのは当たり前だろ!! 急に異世界に連れてこられてだぞ? 愚痴ぐらい言いたくなるよ。 」

 

 ブツブツ言いながらも手を止めずに部屋を掃除する。

 ホコリはだいぶ消え横になれと言われてたら横になれる程度には綺麗になった。

 この程度の汚さであれば福幸にとっては問題はないという程度ではある。

 最も、一度やり始めたら最後までやりきりたいという謎の拘りのせいで今も手を動かして掃除していたりするのだが……

 

「う、うぅ〜ん。腰の痛みも出てきたしそろそろ辞めるか?」

 

 自分に話しかけるように独り言を呟き部屋を見渡す。

 

「やめようか。メチャクチャ綺麗にしても今の所俺以外使わないだろうしなぁ。」

 

 妥協した。

 まぁ、惰性でやってたものだ。

 仕方ないといえば仕方ないだろう。

 

 コンコン

 

「は〜い」

「大分、気が抜けて居るようですねよ。」

「あ、ノーブルさん。」

「トレーニングに行きますよ。一ヶ月程度であなたに剣の基礎を叩き込みます。」

「えっ!? いや、聞いてませんけど?」

「今、言いました。」

 

 そう言うと、話はもう聞かないとばかりに福幸に背を向け歩く。

 

「え、ちょっ、まってください!!」

 

 慌てて、福幸はその後ろを追いかけた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 屋敷から少し離れた草原で一人のメイドと少年が立っている。

 足首程度まで生えている青草が、太陽の恵みを受け取り瑞々しく生え並ぶ。

 周囲を見渡せば、小動物があちらこちらに居ることだろう。

 そんな中、ノーブルが福幸に声を掛けた。

 

「まずは、武器の持ち方からです」

「はぁ。」

「声から気合が抜けておるのぅ?」

 

 後ろから絶世の美女が声を掛ける。

 

「あ、ローズさん。」

「ふん、我のことはどうでも良いじゃろ」

 

 そう言うと、彼女は二人から少し離れ、椅子と机それに日傘を召喚する。

 

「魔法っ!?」

 

 パシンっ!!

 

「今は、剣の指導です。」

 

 小気味良い音が響きノーブルが冷めた目で福幸を見る。

 そして、呆れたようにため息をつくとハリセンをメイド服のスカートの中にしまう。

 

「カカカ、良いツッコミじゃのぉ? なぁ、ノーブル。」

 

 剣姫であるローズがそう言って笑うとノーブルは自分の主に呆れたように目を向ける。

 

「まあ、いいでしょう。それより、先程私が渡したナイフを持って構えてください。」

 

 そう言うと、福幸は皮の鞘に収めていた形状としてはククリナイフに近い物を取り出す。

 

「これ?」

「それですね。軽く構えてみてください。」

「構えるって……どうやって?」

「いえ、真っ直ぐに。」

 

 福幸は理解できてないように頭を捻る。

 

「はぁ、ノーブルお主が悪い。」

 

 そう言うと、剣姫は手に持っていた本を机に置き福幸の後ろから手首を握る。

 

「うわっ!!」

「これ、どうした。」

 

 福幸は顔を真っ赤にしている。

 それもそうだろう、剣姫に実るたわわな2つの実が自分の後頭部に当たっているのだ。

 思春期真っ盛りの男子が興奮しないはずがない。

 

「この不埒者が。」

「これ、そう怒ってやるな。男児は皆こんなもんじゃて。」

 

 吐き捨てるようにノーブルが言い、剣姫がそれを諌める。

 そんなやり取りをしつつ、福幸の体勢を軽く変えククリナイフを構えさせる。

 

「こんなもんじゃろう。」

「相変わらず、教えるのも上手いですね。」

「そのようなことはない。」

 

 謙遜とも取れる言葉を呟き、テーブルに戻る。

 そして、椅子に座り本を読む。

 

「はぁ、まあいいでしょう。それより、構えは覚えましたか?」

「アッ、ハイ」

「はぁ、ぼうっとしてないで気合を入れなさいっ!!」

 

 剣姫という絶世の美人に触れられた福幸の意識はノーブルが再び出したハリセンに叩かれるまで戻ることはなかった。

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