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61 悪辣な歯車

いつも以上に短いです。

 血に塗れた教会から福幸は、出ようとする。

 幾つもの死体が腐敗し、腐った匂いを醸し出している中、レオと名乗る女性が出ていった扉を見つめる。

 半開きの大扉からは光が差し込んでおり、その光によって照らし出された内臓が空っぽの胃から何かを捻り出すようにさせる。


「うっ……。」


 吐き気がする。

 もう見たくも無い。

 いつの間にか、福幸はそこに座り込んでいた。


 嘔吐く。

 

 焦点が定まらない。

 酷い、頭痛がする。

 意識が朦朧とする。

 気力が湧かない。

 先程までのレオに対する警戒心はどこえやら。

 

「なんなんだよ……。」


 口から出た言葉は、それだけだった。

 なんで、こんな目に遭わなくちゃいけない?

 なんで、こんな絶望を味わわなくてはならない?


 なんで、なんで、なんで、なんで?


 心が軋む。

 あの光景がフラッシュバックする。

 自分が、あの異端審問官と戦っていた姿が。

 

「コマチ……。」


 乾いた笑いが喉から出る。

 嗚呼、滑稽だ。

 碌に何も出来ず、只々死を待つばかりの自分がそこにいるのが。


「はは、ははは、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ、ガハッ!!」


 吐血する。

 喉が裂け声がもう出なくなったようだった。


 地面に寝転がる。

 

 ビチャ……。


 顔に、血が混じった嘔吐物が張り付く。

 不快感はあれど不思議と何にも感じなかった。


 目を閉じる。


 夢であればいいのにと。

 

 そんな訳がない。

 夢であるはずがない。

 もう何もかもがどうでもいいような気がした。

 もう何もかもが……。


「って、訳にも行かねぇよな。」


 手を上げる。


 天井へと


 立ち上がる。

 福幸は、手に持っていた剣を腰に戻す。

 不屈の騎士と交わした約束がある。

 コマチが生きているのか確認しなければならない。

 それ以上に、


『女神に一矢報いなければ、死んでも死に切れない。』


 絶望に暮れる時間は終わった。

 不幸を嘆く言い訳はもういらない。


「俺が、いつまで経っても不幸だって、嘆いても始まらないよな。」


 覚悟する。

 

「言い訳の時間は終わりだ。逃げ惑う時間は終わりだ。今からは、反撃の時間と行くか。」


 その言葉を聞くものは誰1人としていない。

 

 グチャ……。


 生々しい音が響く。

 血と肉に塗れたその足が歩む道は厳しいものだろう。

 体にへばりつく吐瀉物は彼の醜さを一層掻き立てるだろう。

 だが、福幸は進まなければならない。

 その先に幸福があると信じて突き進まなければ心がもたない。

 故に、そう誓うのは必然だったのだろう。


 「絶対に殺す。クソ神が。」


 歯車が回り出した。

 哀れな子羊の迷える歯車が。

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