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60 カニバリズム

「ここは……、どこだ?」

 

 地面に倒れ伏せ、体が軋みを上げ地面に倒れふせっている。

 不思議とここが現実でないということだけは、理解した。

 

「やぁ、始めましてだな。」

「あんたは……」

「ふぅ、再度紹介しようか。私は不屈の騎士と呼ばれた人物の成れの果て、だ。」

「は?」

「まぁ、細かいことはいいじゃないか。しかし、貴様を呼び出してみたらこんな空間になるとは思いもしなかったな。」

 

 そう言われ、あたりを見渡す。

 どこかで見たことのある風景がそこにはあった。

 無限のように続く荒野。

 先史文明のあとのように残る瓦礫。

 すべてが、何故か涙を誘う。

 

「我らの故郷もこうなればおしまいだろうに。」

「あれ……は?」

「ああ、あそこに立っている人物か?」

 

 一点に目線を向ける。

 そこには、剣を構え未だ朽ち果てず立ち続ける男がいた。

 

「フッ、もうわかっているんじゃないのか?」

「あんた……だろ?」

「正解だ。」

 

 そう言って不屈の騎士は正面から福幸を見る。

 その目は静謐ながら静かな激情を滾らせ未だなお朽ち果てぬ遺志がそうさせる。

 

「貴様なら救えるのだろうかな。姫様の心を。」

「ローズさんの?」

「今は、言えん。そろそろ目覚める時間だ。」

 

 そう言われた瞬間意識が浮かび上がる。

 眼下に荒野が広がり、何かを突き破った感覚とともに福幸那人は一人の女性と対面していた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おはようだね!! 暴食の君?」

「誰だッ!?」

「失礼しちゃうなぁ……? 教えてあげたじゃないか。君に異端審問官が来るって。」

 

 そう言われ、眼の前の人物のことを思い出す。

 かつて、薬草集めの帰り道に出会った人物だと。

 

「ここはどこだ!?」

「教会。めんどくさいから片っ端から潰すつもりだったけど一発目で見つかってよかった良かった。」

 

 鉄の匂いが漂い、水が滴る音が聞こえる。

 

 そして漂う腐臭。

 

「ヴッッ……!!」

 

 胃を逆流する胃液を感じ取り素直に吐き出す。

 空っぽになるまで何度でも。

 

「よーし、よしよし。辛かったねぇ〜」

「ば、馬鹿にずんじゃねぇ、おばぇは……、何なんだ?」

「んー、僕は憤怒のレオ。よろしく。暴食の福幸那人クン?」

 

 朗らかにそう告げる。

 久しぶりに会った友人に告げるかのように。

 

「なんで俺の名前を知ってる?」

「知ってるも何も結構有名だよ? キミ。」

 

 そう言って、手元の斧を拾い地面に叩きつける。


 ドシンッ!!  パラパラ……。


 大地が揺れる。

 天井から、埃が降ってきて福幸の頭にかかる。

 

「埃臭いなぁ。さぁて、立てるかな?」

「無理。」

「だろうねぇ……」

 

 相変わらず、福幸の腕には矢で貫かれた跡があり今尚赤黒い肉を見せ続けている。

 血も止まっておらず、未だ滴っている。

 

「僕は魔法使えないし……、どうしようか?」

「どうするもこうするもないだろ……。」

 

 呆れ果てたように空を見上げる。

 暗い天井が見える。

 先ほどの振動により欠けたスタンドグラスからも光は届いておらず、今が夜である事を認識する。

 

「コマチのことを知らないか?」

「あー、君の横にいた彼女さんかぁ。あの街にまだいたはずだよ?」

「戻り方は?」

「教えてあーげない。」

 

 うざったらしくそう言う。

 どうしようもない殺意が湧く。

 

「教えろ。」

「いやだぁ〜。」

「チッ、質問を変えるここはどこだ?」

「さぁ? 教えなぁーい。」

 

 本格的にうざったらしくなり始め魔法で攻撃してやろうかと画策し始める。

 

「まぁ、大人しく指示に従ってくれれば何も言わないよ?」

「断る。一刻も早くコマチのところに戻りたいんだ。」

「ふぅん。まぁ良いけどね。」

 

 そう言うと、スタスタと歩き始め大扉を少し開け出ていった。

 

「チッ、『回復せよ、【ローヒール】』ッ!! グァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!!?!?!?!???!!!??」

 

 ほとんど治らないが何十回もかけ直せばなんとか治るというもの。

 あまりの激痛に何度も意識を失ったものの何とかなった。

 最も、そのせいで今度は疲労で動けなくなり、何度も気絶したため半開きの扉から光が差し込み始めたが。

 

「実でも食うか。」

 

 ポーチに手を突っ込み、実を幾つか出し食べ始める。

 徐々に疲労感が抜けてゆき、なんとか立てる程度には疲労感がなくなった。

 

「よいしょ、と。」

 

 そして、あたりを見渡したときにあることに気づく。

 暴食とは、物を食べる事で成長するスキル。

 それならば、

 

「この人肉を食えば俺はもっと強くなれるのか?」

 

 自分の口から出た言葉が悪魔の言葉に聞こえたような気がした。

 それを実行すればもっと強くなれるのか?

 コマチを、護ることができるのか?

 

 ドガッ!!

 

「馬鹿なこと考えんじゃねぇよ。俺。」

 

 怒りを持ってその欲求を鎮める。

 自らを殴りつけた拳の痛みが涙を誘う。

 

「幾ら、強くなりたいからって言って人の道を外しちゃ駄目だろうが。」

 

 それが、福幸の意地だった。

 オークの肉を食ったことにより他者を食えばスキルを手に入れることができるのは確定だろう。

 だが、そこまでして強くなりたいのか?

 人としての最後の道を踏み外してまで強くなりたいのか。

 

 そう言われれば否と。

 違うと言えるほどには。

 

 福幸那人は、マトモだった。

暴食の能力1つ目


スキルを保有する存在を1キログラム食えばその対象が保有してたスキルをすべて獲得できる。

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