56 貴族
「ゴブリン討伐ゴブリン討伐っと。」
「随分久しぶりですね。まぁ、最近は中での仕事が多かったですけど。」
「正直こっちのほうが脳死でできるから楽なんだよな。」
「油断はしませんようお気をつけを。」
「当然な。」
そう言い、やってきたゴブリンを不屈の魔剣で両断。
その背後にいたゴブリンはコマチが針状にした糸で串刺しにしてこと切れさせる。
「討伐証明っと。」
「順調でございますね。」
「まぁね。」
しばらく無言。
ゴブリンを見つければ即座に向かい首を掻っ切る。
森の中では数分歩けばすぐに見つかるほどゴブリンは多いのだ。
「なんで、こんなにゴブリンが出るんだから不思議でたまらないわ。」
「さぁ? 一節によると生まれて一日で育ち、繁殖相手は種を選ばないことからこれだけ大量に存在するとも言われていますね。」
「牛とかでも行けるのか?」
「一応可能です。言い方は悪いですがピーー(放送禁止用語)があれば種族を選ばないのではないかと。」
「仮にも乙女がピーー(放送禁止用語)を喋るなよ。」
「この程度では恥ずかしがったりしませんよ? 貴族の子女でもない限り結構ピーー(放送禁止用語)とかピーー(放送禁止用語)とか平然と話してますが?」
「いや、たしかに俺もよく聞いたけどさ。女性にそれを平然と言われたら幻滅するじゃん?」
「そうですか? まぁ、控えておきます。」
そう言って、また歩き出す。
また歩くこと数分。
ゴブリンの集団を発見。
即時殲滅。
はっきり言って作業とかしてる。
「暇……ですね」
「ゴブリン如きとは思ってないけどそれでもやっぱり気を抜いてしまうな。」
「とりあえず、気を引き締め直しますか。丁度いいことにゴブリンもいますし。」
そう言って、接近即座に気づいたゴブリンも慌てて棍棒を構え迎撃しようとするがあっさりやられる。
その背後にいたゴブリンは福幸が剣を胸に突き刺し殺す。
「やっぱり弱いよ。稼ぎがいいからやるけど。」
「あっ、スライムです。」
「【アースニードル】」
グシャッ!! ベチョッ………
「弱い……ですね。」
「弱なぁ……。かと言って強敵は来てほしくな……こんな時に空気を読んでやってくるなよ……。」
ブォォォオオオオ!!
近くにオークが一体。
倒れている冒険者と接触した。
その様子を目に捉えた福幸は、走り出す。
「『風よ、万象を駆け巡る風よ。我が先に向けて何よりも早く矢として届き給え。【ウィンド・アロー】』」
ヒュンッ………
ブォォォオオオオ!!
今度は感激ではなく絶叫を上げるオーク。
大した攻撃ではないが当たりどころが良かった。
こちらに振り向くオークに向けてコマチが糸の針を二本飛ばす。
ッッッツツツツ!!
絶叫を上げることすら許さ無い痛みとともに目を貫き視界を暗転させる。
正面から戦えば互角程度の相手。
奇襲を仕掛けて二人がかり。
負ける要因がない。
福幸が、オークの持つ斧を止めコマチが糸で首を切る。
その巨体が倒れている二人の方に倒れぬよう福幸が、剣で体を弾く。
大きくは反れないもののある程度は動く。
二人に当たらぬように上手く反らし地面に落ちる肉体を見下ろす。
「一件落着っと。」
「そう簡単に行きますかね……?」
「えっ、どういう意……ああ、そうか。」
一瞬で理解し、その場を立ち去りたいという思いに包まれる福幸。
その理由は、単純明快。
「銀髪にこの服、そしてこの紋章って確実だよ……な……。ハァ。」
その男性に歩み寄り体を揺さぶる。
「うっ、うぅ」
「おーい。」
「此処は……」
「すまないが名前を教えてくれるか?」
「あ、ああ。私はアグレイト・オールバー。」
「貴族?」
「しがない、弱小貴族だがな。して、なぜ私を助けた? 金はないぞ?」
「見つけたから助けた。厄介ごとに巻き込むなよ。」
「百も承知だ。あ、後すまないが町まで送ってくれないか?」
「構いませんよ……はぁ、メンドクセエ。」
「何か言ったか?」
「イエ、ベツニ」
片言でそう言いコマチに手で討伐証明を取るように指示。
察したコマチはサッと耳を切り取りそれを貴族に見せないよう福幸に渡す。
それを悟られぬようポーチに入れ代わりにリンゴのような果実を出す。
「食べますか?」
「ありがたい。貰おうか。」
そう言い、齧り付く貴族、もといアグレイト。
福幸も、共にポーチから状態異常が発生する実としない実を出し片方だけコマチに渡す。
恭しく受け取るとそれを上手に食べるコマチ。
横でビクンビクンと軽く震える福幸。
どうやら、麻痺の状態異常らしい。
三者三様の実を食べ終えその後、街へ帰り始めた。




