53 コマチの伯母
「なんで急に……」
「いや、大した理由はない。このポーチの解析をあちらに回したいという思いはあるが、それも些細な理由だな。」
「じゃぁ、余計なんで。」
「まぁ、慌てるな。実は最近教授から貴様もいい加減誰かを推薦しろ、と手紙が来てな。私が見るに君と彼女の魔法力とでもいうべきものの力がまぁ、平均と比べ高い方だと睨んでいる。それを使いこなせなければ宝の持ち腐れだろう? それに、私の紹介程度なら大した効果はない。あの教授に恩を売りたいだけだ。」
「売れるんですか……それ。」
「売れるぞ? 人数不足ではないものの魔術学園はやはり貴族が多くてな。庶民が一定数居なければ貴族たちとの触れ合いと言うものがやはり出来ないものだ。」
「それって、俺たちに生贄になってくれって言ってるようなもんじゃないですか……。」
「そうだが? 君たちとは余り面識はないがとりあえずこれといった問題を起こしそうにないから推薦したまでだ。はっきり言って、私としてはやる気はない。ああ、言い忘れてたが強制ではないぞ。」
「さいですか……」
呆れる福幸。
強制ではないため余り行く気にならない福幸だが、次の一言を聞いて真反対の方向の感情に振り切れる。
「まぁ、噂によればかなり珍しい知識を宿した者たちが居るらしいがな。何やらカガクとやらの知識だそうだ。私としては……ん? 何でこちらを見ている?」
「あっ、いや。」
(絶対、クラスメイトじゃん。)
幸運にも今、一番欲している情報を手に入れた福幸だが、次の瞬間には地のそこに叩きつけられたような絶望感に襲われる。
「まぁ、興味を持つのはいいが……。あまり会うのは推奨しないぞ? 問題行動が多すぎると専ら噂だからな。」
何事もトントン拍子で進むわけではない。
推薦に関してもご都合主義のように思えどその内容は高貴なるもの(貴族)が、下賤のものと交わってはいけないということを教育するための推薦だ。
そのため、平民や身分が低い、没落間近の貴族は碌な授業も受けられない。
その割には、推薦がなければぼったくられたようなレベルの授業料も取られる。
「まぁ、行くのかどうか自分達で決めるがいい。私としては、研究するときに便利だからなのと、その魔法袋の礼で貴様らに渡しただけだ。勘違いするな。さて、私は貴様の」
そう言うと、彼は福幸たちを屋敷から追い出す。
やや呆れつつも増えた荷物をポーチに仕舞い、二人はギルドに向かった。
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「依頼は終わったのですか?」
「なんて言いますか……ねぇ?」
「終わったといえば終わりましたね。結果的に追い出されましたし。」
「それは……、お疲れさまです。」
そう言うと、受付嬢は手元の依頼を広げつつ受けるかどうか聞く。
流石に達成かどうか不明の依頼だけで今日はもう休むというのは違うと福幸も思っていたのか雑用を2、3個受けるとそれを終わらせに、空きっ腹を抱え街に出ていった。
「さて、私は別の用事を終わらせますか。」
ギルド前で福幸と分かれたコマチは例の服屋に向かう。
「お久し振りです。ジョロウ。」
「ああ、コマチじゃないの。おや? 前回の彼はどうしたのかな?」
「ギルドの依頼をこなしてますよ。それよりお願いがあるのですが……」
「全く、連れないねぇ……。そんなに無愛想だったら私が彼を奪っちゃうよ?」
「死にたいですか?」
「おぉ、怖い怖い」
そう言って、冗談のように手をひらひらさせるジョロウ。
ただ、一言言わせてもらうのならば目は本気だった。
「で、お願いって?」
「メイド服の予備を。」
「美的センス狂ってるねぇ……。正直、こっちのほうが似合ってるし防御力も高いのに……。」
「私達虫系種族の美的センスなどは狂ってるでしょう? 愛するものにすべてを捧げるという思考は昔は分かりませんでしたが今なら解りますね。」
「美的センスもそこに引っ張られるのも必然ってわけ? ならば、彼に最も好かれる服のほうがいいと私は思うのだけど?」
「すべてを捧げるという意思表示で着てるだけなので。彼も満更嫌いではなさそうでしたし。」
「ま、両者が納得してるのならばいいよ。樺黄小町。」
「その妙な言い方をやめてくださいません? 言いづらいのですが……?」
「ま、古くからの伝統とか歴史とかだから。あんまり、変えるつもりはないよ。」
「そうですか、残念です。」
「はいはい、お代はまぁ、あなたの両親から貰おうかしらねぇ。」
「すみません。私自身が自由にできるお金はすべて御主人様にささげているもので。」
「気持ちはわかるから、あなたの両親から貰うよ。その理由ならあの二人も許すでしょうし。」
「ありがとうございます。伯母さん。」
「たまにはこういうところを見せないとね!!」




