5 剣姫ローズ メイド? ノーブル
「…… はぁ。
何やってるんだろう。」
「このような美女に下の世話をさせて泣き喚いていたのですよ。」
「ぎゃぁっ!?
い、いつからいた!?」
「つい先程ですが?」
日も暮れようかという時間帯、ようやく目が冷めた福幸は独り言を呟いていたらメイドがそれに答えた。
別に、エロい意味とかは含まれずただ介護するというだけだが。
「そ、そういや……
メイドさんのお名前は?」
「おや? このような美女に下の世話をさせたことを考え話題を反らしたいのでございますか。」
「わかってるなら蒸し返さないで!!
というか、下の世話って何をやったんだよ!?」
「聞きますか? R.18ですけど?」
「(ブンブンブンブン)」
全力で首を振り、嫌だということを示したときに気づく。
「あ、あれ?
う、動けてる?」
「感謝してください。
仮死状態だった全身の細胞に行き届くように回復魔法を発動したのですから。」
「あ、ありがとう?
って、いうか!!
魔法!? まじで!?? 魔法!?」
「煩いです。
そのような大声を出さなくとも汚らしい声は聞こえていますよ」
「毒舌だなぁ!? おいっ!?
キャラがぶれてるぞ!?」
「コホン、奥で姫様が【シチュー】を用意していらっしゃいます。
早く向かわなければ冷めますよ。
では。」
そう言い、メイドは退出する。
「唐突すぎるだろ…… 色々と。
まあ、行くか。」
そう言い、福幸はベッドから降り扉を開け部屋を出ていった。
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「ほれ、飯じゃよ。」
「し、シチューだ!!」
「ミルクを手に入れるのには少しばかり苦労したぞぃ?
味わって食べようぞ。」
「い、頂きます!!」
そう言って、スプーンを手にしようとした福幸の手をメイドに叩かれる。
「主が食べていないのに、客人であるあなたが先に食べるのですか? 馬鹿ですか?」
「えっ、いや、でも…… 」
「知らないと言うおつもりですか?」
「っ、けど!!」
「知らぬならば覚えれば良い。
だが、次やれば飯を食わさんぞ。」
「は、はい。」
剣姫の体から滲み出る圧倒的な威圧の前になすすべなく、福幸は下を向く。
知らないものは知らない。
けど、それが通用しない。
知らないならば覚えなければならない。
けど、知らないことを誰も教えてくれない。
福幸が、転移したこの世界はそういう世界なのだ。
日本では、みんなが優しく知らなければ教えてくれる。
だが、ここでは違う。
知らないならば見て覚えなければならない。
そのスキルが求められる世界なのだ。
「なら食おうか。
豊穣と食の神、メンデゲールに祈ってのぉ。」
そう言って、右手を額に軽く当てたあと胸に当てスプーンを手に取る。
「まあ、主様にはそんな事は意味がありませんがね。」
「こら、余計なことを言うでない。
あ、お主はお主の世界の祈り方で良いぞ。」
「は、はい。」
そう言って、福幸は手を合わせる。
「頂きます。」
「ほう、【日本人】か。」
「えっ、知ってるんですか!?」
「知っているも何も……、まあ良い。
お主には関係の無き事だ。」
「え、いや、教えてくだ……、いえ何でもありません」
軽く、メイドから睨まれ慌てて意見を翻す福幸。
こういう時は、不用意に突っ込まないほうがいいと学んだのだ。
「それで、美味しいかのぉ?」
「はいっ!! とてもっ!!」
「それは、手を掛けて作ったかいがあると言うもんじゃ。」
福幸は、とても美味しそうにシチューを搔き込む。
「久々だ……、実以外の物を食べたの。」
「そ、それは大変だったのぉ。」
「分かりますかっ!?
何を食べても途中から味がしなくなるんですよ!!
少なくとも、美味しいとはとても思えなかった……」
福幸は、目を潤ませながら訴える。
そして、軽くそれを睨みつけるメイド。
ある意味、この三人はいいコンビでは無いだろうか?
「まぁ、そんなことは良い。
それに、明日からのお主の食事はさっき言っておった、実じゃからのぉ。」
「……えっ、?」
思わず福幸は、驚いた声を出す。
それはそうだろう。
食べれば痺れるか毒状態になるか目眩がするか気絶するか苦いかのいずれかの実をもう一度食べ直さなければならないのだ。
「は、はい? ちょ、ちょっと待って下さいよ……?」
「待つも何も無いじゃろう。
あの食えもしない実をもう一度だべろと言っておるのじゃ」
「マジで?」
「マジで」
福幸は、絶望した。
とても、美味しいシチューを食べながら明日からの不味い食事の日々を考えなければならない事に絶望した。
「安心せい。
森の中におるときより良い食事は取れるじゃろう。」
「無理だろ!! 陰キャの非力男に何ができるんだよ!!」
「そんなこともないぞぃ?
お主は、全属性の適性があるようじゃからな。
魔力も鍛え上げれば増えそうじゃし良いではないか。」
「ん? えっ? 俺全属性扱えるの……?」
「お主以外でも、異世界からの者共は基本的に全属性使えるのじゃよ。」
「はぁ、チートじゃないのか……」
「そう嘆くでない。
お主には立派なものがあるではないか。」
「そんなチートなスキル、俺は持ってないぞ?」
「あるではないか。
冥府に実ガチャ。
冥府は我が、手に入れるのに随分かかったぞぃ?
実ガチャに関しては我は持っておらん。」
「なんだよ、冥府持ってるじゃん。」
「持つのに数百年かかったのじゃぞ? それを一瞬で手に入れたお主は我からすればかなり羨ましいのぉ。
もし、あのとき一瞬で手に入れさえすれば……、いや、何でも無いぞぃ?」
「なんか、すまんな。」
「お主が気にすることではない。」
そう言い、剣姫はスープを一気に飲みパンを食べる。
そして、口についたミルクをメイドに拭いてもらう。
|(可愛いな、おい! )
二人の美女の姿がとても絵になる。
言葉通り、美しいとしか表現できないぐらいに。
「あっ、」
「ほぉれ? どうしたのじゃ? 見惚れたかのぉ? カッカッカッカッ。」
「そ、そんなんじゃねぇよ。」
せんいっぱい、福幸も強がり残っていたスープを飲み干す。
そして、パンを食べて口元を拭う。
「お主の寝る部屋は先程までいた部屋じゃ。
では、明日に備えてゆっくりのぉ。」
そう言い、剣姫はリビングを出ていこうとする。
「ちょ、ちょっとまってくれ。」
「口調」
「あ、すいません。
というか、剣姫の名前ってなんですか?」
「言ってなかったかのぉ?
我は、ローズ。滅びた国の王女だったものじゃ」
そう言い、ローズは扉をくぐりその後ろにメイドがついていく。
「私の名は、ノーブルです。
以後、お見知り置きを。」
そう言い残して。




