47 掃除
「この地図のとおりならここだよな?」
「ですね。」
二人は、街の中にある屋敷へと来ていた。
外装は意外と小綺麗だったが……如何せん、悪臭が外まで漂っている。
「マジではいるの?」
「入りましょう。」
意を決したように言うコマチ。
恐る恐る、扉を開ける。
プゥ〜ン……。
バタンッ!!
「ゲホッ、ゲホッ、!! ま、マジでここに人住んでるの?」
「お、おぇぇぇ……、た、多分住んでるんでしょう……」
あまりの匂いに慌てて扉を閉める二人。
思った以上の悪臭だった。
いや、悪臭というのは少し表現が違うかもしれない。
化学薬品の匂いと自然に存在する複雑な香りが混ざりあったとでも言えばいいのだろうか?
一言で言えば悪臭だが、どちらかというと匂いのベクトルが違うものが混ざり合って不協和音を奏でているのだ。
まぁ、一言で言えば悪臭だが。
「と、とりあえず入るか……。布持ってる?」
「い、一応……。」
「顔に巻くから貸してくれない?」
「えっ、あっ、どうぞ。」
そう言い、エプロンの後ろからいくつかの布を取り出す。
「ありがとう。」
そう言い、顔にさっと巻く。
それに習い、コマチも顔に巻く。
そして、再度扉を開ける。
「うっ、………」
再度顔を顰めるものの、そこは気合と根性と諦めで乗り切る。
そして、次に部屋の中を見て……絶望しかけた。
そこにあったのは様々な素材が玄関であるにも関わらず雑多に置かれている惨状だった。
植物だけであればまだ良い。
いや、良くはないがまだ良い。
だが、明らかに内臓のようなものだったりホルマリン浸けにされたようなものだったりが転がっているのだ。
再度言おう、そこらへんに転がっているのだ。
福幸たちが恐れ慄くのも無理はない。
「あー、来たんだね。済まない済まない。ちょっと待っててくれるかね?」
そう言っているうちに依頼主が登場した。
長い緑のローブを着て腰には幾つかのポーションが入った瓶をぶら下げている。
頭には少しズレているが学者がつけていそうな帽子をつけている。
「あの、掃除ということでしたが……。とりあえず、もう、してしまって構わないですか?」
「ふむ、私の研究室以外ならば自由にしてくれ。終了期限は本日の陽が沈むまでだ。」
「研究室はどこにありますか?」
「口調が丁寧で好感が持てるな。研究室はここだ。ここにはくれぐれも入らないでくれ。今の研究ならば……そうだな。君たちの肉体が炸裂する可能性が高い。」
(こえぇよ!! )
心の中で叫ぶ福幸。
全然余裕がありそうだ。
「殆どの物は捨ててもらって構わないが……。標本は少し待ってくれ。それ以外の素材ならば勝手に取られても文句はない。」
「わ、わかりました……。」
「ではよろしく頼む。」
そう言うと、すぐに研究室に引っ込む。
「早速始めますか……」
「そうしましょう。」
依頼主のマイペースさに驚きを隠さず呆れる二人。
そして、早速片付け始めた。
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「こんなものかな?」
「ですね。」
とりあえず、玄関のアイテムの殆どを福幸のポーチに放り込んだ二人は一息つく。
流石にホルマリン漬けのようなものは入れてはいないが中々に綺麗になったと福幸は思っている。
「じゃあ、魔法使うから退いといて。うん、そこぐらいでいいよ。行くぞ〜。『清く美しく、在りし日の姿に戻せ【清掃】』っと。」
そう言うと、水の膜が発生し汚れを浮かせてゆく。
最終的にその汚れきった水が一箇所に集まる。
それを操作して福幸は道路にその水を捨てた。
「さすがの魔法操作力ですね。」
「いや、これぐらいはできなきゃ殺されかねなかったんだよ………」
少し青い顔をする福幸。
コマチは訝しげにその様子を見るもすぐに意識をそむける。
「で、この漬物? は一体どうしましょうか?」
「ほっとこうか。集めといたらいいだろ。下手に触るのも嫌だし。」
その言葉に納得したコマチは福幸とともにそのホルマリン漬け(仮)を邪魔にならない場所に集めていく。
そして、それを終わらせたら次の部屋へと向かっていったのだった。
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「ふぅ、終わった終わった。」
「かなり大変でしたね。」
「だな。というか……、いらないもの多すぎないか?」
すべての部屋を掃除し終え一息ついた福幸だったがさっきも行った通りいらないものが多すぎた。
本当に意外なことにポーチの容量の8割をこの屋敷のゴミで埋められている。
流石に明らかなゴミは捨てたもののそうでなさそうな素材などだけを入れているにも関わらずだ。
かなり呆れと掃除した疲れも相まって二人は依頼主に一声かけて帰ることにすることにした。
新生活の中、心機一転ということで掃除をする方も多いのではないでしょうか?
皆様も、家は片付けてみてください。
もしかしたら懐かしの品が出てくるかもしれませんよ?




