43 スローライフ
「はい、合計12200ペースですね。」
「ありがとうございます。」
ギルドで報酬をもらい宿屋に向かう二人。
ついでに、この世界での通貨単位はペースだ。
とはいえ、基本的には銅貨〇枚というような形で言うのが一般的だったりするのだが……。
「やはり、少ないですね……。魔獣討伐などを行ったほうが稼げますね。」
「そうかぁ……。」
「明日からは魔獣討伐をしたいのですけどね……。御主人様はまだしも私の武器がありませんから……」
「えっ? 何で?」
「オークに壊されたんですよ。そのせいで高火力の魔法は一切使えませんし糸を使用したものしか今の私には使えません。」
「そっか。じゃぁ、それも買わなきゃならないのかぁ……」
「ですね……。はぁ。」
「はぁ、生きるのも大変だなぁ……。」
「ですね、それにあの存在も不気味です。」
「ああ、あのボクっ娘? 戦ったら確実に負けるのは理解してるんだけどなぁ。何が目的なんだろうか……。」
「確か、異端審問官が来ると言ってましたね。」
「うん、けどその異端審問官って一体誰だって話でもあるんだよな。」
「私が知ってる噂程度の話ですが女神教の暗部という噂がありますね。」
「女神教? 門の近くにある教会のこと?」
「いいえ、あそこは十二神教ですね。歴史の古さでは十二神教のほうが古いですがどちらがより人気と言いますか、信じられているかといえばやはり女神教ですね。」
「ややこしいな。で? 異端審問官はその女神教の人達なんだろ?」
「ですね。」
「俺、少なくとも女神教と接点ないはずなんだけど?」
「奇遇ですね。私もです。」
「じゃあ、警戒する必要はないんじゃないか?」
「私もそう思いますが……、あれ程の圧を出せる人物がわざわざ無意味な情報を渡しますか?」
「それを考えるとそうなるけど、逆に初対面の人物に重要な情報を渡すか?」
「それもそうですね。」
「信用できないけど無下にはできない。本当に謎な情報を渡してきたな。」
「そうですね……。とりあえず、寝ますか?」
「あー、寝るわ。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
そう言い、ベッドに入る福幸。
コマチは横で福幸の寝顔を見ている。
そして、しばらくしたあとコマチも近くにあるソファーによこになり寝た。
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「うぅ~ん、ふわぁ。はぁ……」
朝、目が覚めた福幸。
相変わらず、微妙に糸で縛り付けられているのを無理やり解く。
そして、付いた糸を剥がしつつ部屋を移動し桶に貯められている水で顔を洗う。
パシャパシャ……
程よい冷たさで意識が覚醒し完全に目が覚める。
そして、宿屋の一階に向かう。
「おはよーさん、朝食食べるかい?」
「あー、お願いします。」
「ほい、銅貨3枚だよ」
この宿の女将さんに声をかけられご飯を頼む福幸。
特に何も考えず、代金を支払いパンとスープをもらう。
スープにまだ温もりが残るパンを浸し口に入れる。
「うん、美味しい。」
「おはよう御座います。」
「おはよ、コマチ。というか、メイド服以外を着てくれ……」
「嫌です。断ります。」
「断るな。」
などとくだらない問答をした後、二人共宿屋を出る。
「さぁて、討伐依頼を受けてみたいな。」
「同感です。御主人様はやったことはないのですか?」
「あー、無いね。どころか、登録したのもこれが初めてだし。まぁ、魔獣討伐はできるよ。」
「とりあえず、ゴブリン討伐に行きますか? 常駐依頼ですし。」
「そうするか。」
と、ギルドに付くまで話し合う。
「いらっしゃいませ、当ギルドにどのようなご要件で?」
「あー、討伐依頼ありますか?」
「わかりました。あなたのランクで今の依頼ですと……、常駐依頼としてのゴブリン討伐とその他の依頼で3件。あとは、オーク討伐依頼が5件ですね。」
「ゴブリン常駐依頼でお願いします。」
「わかりました。はい、こちらです。」
そう言われ、紙を差し出される。
横にいたコマチが受け取ると早速近くの森へと出向く。
「早速、倒していきましょう。えっと、あちらに二匹いますね。」
「了解、ぶっ飛べ【バースト】!!」
魔法を発動させる福幸。
ちょうど腹に魔法が発生し一撃で葬り去る。
「流石ですね。御主人様」
「これぐらいはできるよ。」
と言いつつも、鼻を高くする福幸。
だがそんな些細な自慢は次の瞬間に消え去る。
「では、私も少し頑張りましょう。【操糸斬撃】」
近くにいたゴブリンへと彼女も魔法を発動させる。
一瞬魔法陣が展開されると6つの糸が現れゴブリンを切り刻む。
「俺より強くね……?」
「御主人様を守るのは奴隷の役目ですから」
福幸那人は思う。
異世界に来てから一番、心安らかに過ごせている、と。
そして、願うこの日々がずっと続けばいいのにと。




