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42 異端審問官

「えっと、おすすめは……薬草採取ですかね?」

「あっ、じゃぁそれでお願いできますか?」

「わかりました。よろしくおねがいします。」

「こちらこそ。」

 

 そう言って、福幸は受付を後にする。

 

「それでは行きましょうか。」

「受付の人と喋っててもなんにもしなかったな。」

御主人様(旦那様)は最終的に私のもとに戻ってきますので。」

「物凄い自信だな。」

 

 そういったあと、福幸は何かを考え始める。

 

「あのさ、どこに行けばいいの?」

「はぁ……、近くの草原で取れるはずですから早速向かいましょう。」

「あ、ありがとう。」

 

 というわけで、二人は草原へと向かい始めた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あっ、発見。」

「こちらは……、アリガメンハーブですね。」

「パセリに似てるけどな……」

「ぱせ……り? とは?」

「あっ、いや何でもない。ただの独り言だよ。」

 

 そう言い、また薬草を探し始める。

 しばらく探し続け、計23本ほど見つけたとき福幸の腹が鳴く。

 

「もうそろそろ御飯の時間ですね。こちらをどうぞ。」

「うん、ありがとう。それで一つ突っ込んでもいい?」

「え? ○○○をですか? 非常に嬉しいのですがここでは流石に……」

 

 と言いつつも服を脱ごうとするコマチ。

 

「ちげえよ!! 全然違うからなっ!!」

「嘘はいけませんよ? 嘘は。」

「本当にちげえって!! というか、なんでお前メイド服なんだよ!!」

「そういうご趣味なのでしょう? 分かってます。わかってますから。」

 

 わかりきったような顔をしてメイド服を脱ごうとするコマチ。

 本気で止めに入る福幸。

 しばらくドタバタしたあと昼食を食べ始めた。

 

「あー、美味いなこれ。」

「そうでしょう、そうでしょう? 私の愛をたっぷり詰めましたから。」

「変な意味ではないだろうな?」

「安心してください。ピーーーを入れたりしてませんから。私は貴方様に頭の天辺から足の裏まで味わい尽くしてほしいのが本音ですが……」

「おいっ!! ヤベえこと言うなよ!! 明日からの評判に関わるだろ!!」

「安心してください、そのような輩は事前に排除します。」

「するなっ!!」

 

 などと百済ぬ問答を繰り広げたあと再度薬草採取をし始める。

 意外にも福幸は長時間作業が苦にならないタイプの人間らしい。

 その日のうちに合計132本集めた。

 昼からはかなり順調に集めれたようで合計数が百本を超えたのは朗報だろう。

 日が沈み始める頃には二人は帰路に付き始めた。

 

「沢山採れたな。」

「そうですね。」

 

 言葉数少なく、帰る。

 長時間作業に加えてしゃがみながらの作業はだいぶ足腰に来るようだ。

 

「誰かー、僕を助けてー」

 

 夕日もだいぶ沈み、程よい絶景が空に浮かぶ。

 空は朱と蒼に染まり澄んだ空気で空に星座が浮かぶ。

 

「たーすーけーてーくーだーさーいー!!」

 

 ふと後ろを見る福幸。

 足は止めない。

 

 (よし、無視でいいかな? )

 

 かなり元気そうな女の子が地面に倒れているのを見つけたが外傷はなさそうだし顔色も遠目に見てもかなり良い。

 

「たーすーけーないとー、下手したら死にますよ?」

 

 ゾッと、背中に氷を入れられた気分になる。

 最後の部分が、まるで耳元で囁かれたようだった。

 

「くっ、【アース・ニー……」

「無駄ですね。」

 

 あっさり、魔法がかき消される。

 慌てて、ククリナイフを手に取るより先にコマチが動く。

 

「【操糸捕縛陣】!!」

 

 地面が一瞬光り糸が現れその女性を捕縛する。

 だが、完全に地面に縫い付けられていた蜘蛛の糸をたやすく引き千切り起き上がる。

 

「全く、失礼しちゃうね!!」

「誰だ?」

「あー、そこの蜘蛛人族の女の子? 今の攻撃良かったよー。まぁ、嫉妬よりは弱かったけど。」

「誰だって、聞いてるんだよ。」

「教えませ〜ん。というか、普通に薬草十本頂戴?」

「何故?」

「これ以上質問をすれば私は怒るよ?」

 

 その言葉にそこしれぬ恐怖を感じる。

 冗談めかした口調だが明らかに言葉の重さが違う。

 

「わかった、渡すよ。その代わりお前のそばに行って渡すのは遠慮したい。」

「あー、まぁ、それぐらいならいいよ? 足元に置いておいて。離れたら取りに行くから。」

「ありがとう。」

 

 そういったあと、福幸は彼女から目を離さずに街へと向かう。

 約束通り、十分に離れたときに彼女は薬草を手に取った。

 

「ありがとー、じゃあいい情報を一つ教えるよ? この街に、今異端審問官来てるから!! まだ着いてないみたいだけどそれは時間の問題かな?」

「ちょっと待っ!!」

 

 福幸が待てというより先に彼女の姿は消えた。

 しばらくの間、福幸は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。

 

「帰りましょう。御主人様。」

「そう、だな。」

 

 どちらも心の底から疲れた声でそう言うとギルドに向かった。

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