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4 下らない平凡、届かない普通

「では、ご用事があればお声掛けください。

 下の世話からナニから何までやらせて頂きます」

「それって、介護って意味だよね!?」

「はてさて、もしかしたらそのまま頂いちゃうかもしれませんね。」

「介護って意味だよね!? 本当だよね!? っていないし!?」

 

 福幸は、変な妄想を頭に浮かべ慌てて消す。

 そして、もう一度辺を目だけで見渡したあとそっ、と呟く。

 

「ここって…… 何処なんだろうな。」

 

 静かに、ゆっくりと、確かに、頬に違和感を覚える。

 一筋、そして、そこを辿るように

 

 もう一筋。

 

「家に、母さんが待ってる家に、帰りたい…… よ。」

 

 嗚咽が漏れる。

 咽び泣く。

 耐えられない。

 耐え切れなかったのだ。

 現実という絶望に。

 異世界という夢に連れてこられ、そこで目にしたのは死ぬ、死にかけるという残酷なまでな現実。

 学校に行けば肥えているから、不細工だからと虐められ、家に帰れば親はおらず、ご飯を食べようとすれば冷蔵庫にはなにもない。

 女の子を助けようとすれば泣き叫ばれ警察を呼ばれかける始末。

 満員電車では痴漢を疑われそのせいで遅れても先生は話を聞こうとしない。

 家の中にはたまに虫が出て福幸の睡眠を妨害し、鬱陶しい弟が福幸を蔑む。

 

 そんな世界ですり減った魂はそんな世界ですり減った心は、死にたいと願っていた。

 

 何度、線路に身を投げようか。

 何度、窓から飛び降りようか。

 何度、何度、何ど、なんど、なんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんどなんど

 

 死のうと思ったか。

 

 けど死ねなかった。

 死ねるはずが無かった。

 

 死ぬ、それを考えただけで足がすくんだ。

 死ぬ、その言葉を聞くだけでいっそ「起きたら死んでないか」などと願ったか。

 

 一度死んだら取り返しがつかないのだ。

 心が磨り減った程度で、死ねるはずが無かった。

 本質的な絶望を知らない福幸は、死という永遠の楽園へと辿り着けなかった。

 

 その結果がこれだ。

 現代日本という寝ていようが起きていようがある程度は生きることが保証されている世界とは違い、寝ていても起きていても生きていることを保証されない。

 いつ死んでもおかしくない世界に迷い込んだわけだ。

 

「バカみたいじゃねぇか、よ。」

 

 今までの、安全とは程遠い気を貼った生活から開放され心の平穏が訪れた。

 否、完全な平穏はまだもたらされていない。

 ただ、一時の安息と守られた生活という状況で一時の平穏が訪れたわけだ。

 

 もう福幸の視界は、無い。

 先程まで見えていた天井はその眼に写る前に乱反射しぐちゃぐちゃの色で飾られたモノしか写ってない。

 絶望から救い出された時、人は何を思うか。

 

「死にたいと思ってた事が馬鹿みたいじゃねぇか。」

 

 死を望まなくなるのだろう。

 なぜなら、二度と絶望を味わいたくないから。

 唯それだけの理由なのだろう。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆

 

「おお、帰ってきたぞ。」

「お帰りなさいませ、ローズ様。」

「その様子じゃぁ、まだ泣き喚いておるのかのぉ?」

「いえ、泣き疲れて寝ていますよ。

 とても可愛らしい寝顔です」

「ふむ、それなら良かった。

 人の介護などお主にはかなり大変なことじゃろう?」

「そのようなことはございませんよ?

 私の趣味の一環ですし。」

「人間観察が趣味とは。

 我もえらい拾い物をしたものじゃ」

 

 そう言うと、カッカッカッと笑う。

 そして、用意されていた紅茶を口に入れるとメイドと話し出す。

 

「今は、暮れの季節かのぉ?」

「豊穣の季節でございますね。

 あとしばらくしたら、極寒と忍耐の季節となるでしょう。」

「不幸なもんじゃのぉ。

 この時期にこちらに来るとは。

 早く、異邦人が居る緑園の大陸へと送ってやれれば良い、が……。」

「少なくとも、すぐには無理でしょう。

 あちらの時間軸であと、18日は待っていただきたいものです。

 貴方様の空間ですから時間経過も操作されていらっしゃるのでしょう?」

「当然。

 今はあちらの一日が10日となるようにしておる。

 ついでに、生命と歓喜の季節に合わせておる。

 彼らの所へ送ったときに感覚が狂わぬようにな。」

「ならば、それ以上の心配は要らぬでしょう。

 下手に手を掛けると愛情が芽生えます。」

「ふっ、それもその通りじゃな。

 軽く鍛えてやるだけにしてやろう。」

「貴方様の軽くは、軽くありませんが…… まあ良いでしょう。

 その程度は。

 □□様に、頼まれていたのでしょう?」

「まぁ、それだけでは無いが。」

「ならば私からは意見はあれど文句はありません。」

「まあ良い、久々に【シチュー】とやらを作ってやるか。

 □様に教わったからのぉ。

 ククク。」

「それが良いでしょう。

 私が作りましょうか?」

「いや、我が作ろう。

 久々の料理じゃ。

 腕がなる。」

「はぁ、まあいいでしょう。

 ですが、主としての自覚はお持ちください。

 そのようにして側仕えの仕事を奪うのは褒められた行為ではないですよ。」

「別に今更。

 ここまで来れるものなどほとんどおらん。

 それに、ここに来れるものに対して下手に取り繕うのは悪手じゃぞ?」

「まぁ、ご趣味の範囲でしたらご自由にどうぞ。

 彼の肉体は、『回復(ヒール)』で回復させて頂きました。

 おそらく、明日の朝には動けることになるでしょう。

 ですが、まともな生活を送るにはかなりの時間がかかるのもまた事実です。

 そこらへんは、貴方様のお考えで鍛えてあげてくださいませ。」

「体さえ動けばどうとでもなるであろう。

 さてと、明日の朝からは甘えを無くしてやろう。

 剣の基礎までは叩き込んでやろうぞ。」

「それが宜しいかと。

 では、私は彼の様子を見て参ります。

 ある程度、細胞が復活し始めたとはいえ殆ど死んでいたような状態です。

 体から出てくる汚物を布団やベットに撒き散らされるのは遠慮願いたいですしね。」

「頼んだぞ。」

 

 メイドは扉を開け部屋を退出し剣姫は、早速今日仕留めてきた魔物を解体し始めるのであった。

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