37 偏見
「とりあえず、冒険者ギルドに行こうか。」
「先に、奴隷商へと行きましょう。ええ。」
「いや、なんでだよ。というか、身分証明ができないから先にギルドに行くぞ。」
そう言って、コマチの手を引っ張る。
「強引ですね。嫌われますよ。」
「いや、というか奴隷にしたくないんですが?」
「一度死んだ人はその国では再度身分を取れないので奴隷になるんですよ。分かってください。あと、私があなたを嫌うわけないじゃないですか。頭の先から足の下まで。髪の毛一本ですらあなたのものであれば私は愛しますよ。ええ。他の女が近づいてこれば確実に殺しますし。」
「怖ぇぇええ……」
「どうかしましたか? 当たり前ですよね? これぐらい当然ですよ。」
「君はどういう環境で育ったのかめちゃくちゃ気になるな。見たらその時点で終わりな気もするけど。」
という、雑談をしていたら冒険者ギルドについたようだ。
「おい、ガキが女侍らせて来るんじゃねぇぞ。」
早速絡まれる。
さすが、不幸な人だ。
「別にいいと思いますが?」
「ここはなぁ、その日その日に命かけてる奴等の集まりだってんだよ。実力も玉も小せぇやつがいるところじゃねぇ。」
「私の、御主人様を蔑むのならば私が命を賭してでもあなたを殺します。」
「実力が伴わねぇ言葉はいらねぇよ。」
「そこまでにしなさい。ギルドとしての品格を問われますよ。」
「チッ、ここまでにしてやるよ。」
「はぁ。」
溜息をついて呆れる長身の本が似合いそうな男が一人。
福幸たちの目の前に現れる。
「誰ですか?」
「噂はかねがね伺っております。冒険者ギルド組合員としての証明書を欲しのようで。」
「まあ、はい。」
「すみませんが、本ギルドのギルド長は現在領主様との会談を行っております。」
「あぁ、昨日の件ですか?」
「ええ、オークストラテジストがここまで街の近くにいたのははっきり言えば我々ギルドの怠慢です。」
「そ、そうですか?」
「そうですよ。おっと、自己紹介がまだでしたね。私は、このギルドのギルド長補佐のオットー・クレラデヒルと申します。」
「き、貴族様でしたか……」
「弱小貴族の4男ですからそこまで畏まらなくとも構いません。」
「それは有り難いな。」
「き、貴族様ですよっ!?」
「本人がいいって言ってるからいいんだよ。」
福幸たちが納得(? )したのを見たオットーはギルドの受付の奥に入り階段を登る。
「どうかいたしましたか?」
「いや、登録だけ出来たら十分なんだけど……」
「報酬の件がございますからそうは行きません。」
そう言って有無を言わさず二階に連れてゆく。
彼が向かったのは階段を登ってすぐの部屋だった。
「さて、まずこちらがギルド証です。」
「は、はぁ。」
銅のような色のカードが渡される。
「こちらの針で一滴血を垂らしてください。」
「わ、分かりました。」
刃物には慣れたというのに自分から血を出す行いを怖がる福幸。
覚悟を決め、えいやっ!! と指を軽く針で刺す。
たらりと垂れる血。
すぐさま、カードに血をつける。
鈍く、カードが幾何学模様を描き一瞬発光する。
「これでギルド登録は終わりました。」
「ありがとうございます。」
「では、報酬の件ですが……今回の討伐依頼の達成及び人命救助2名。また、個人依頼を含めた3つを達成いたしました。その報酬ですが端数を切りまして締めて金貨3枚となります。」
「少なくないですか?」
コマチがそう、疑問を呈する。
「少なくとも、オークストラテジスト討伐の費用ならば最低でも5枚になるはずですよ。」
「いえ、これが正当な金額です。」
「なんでですかっ!?」
「貴女は身分証明すらされていない人物がオークストラテジストを討伐したとして、貴女はどれほどの報酬を払いますか? 実力すら不明の人物に対して果たして、限りあるギルドの資金のどれほどを払えますか?」
「それは……」
「私達、ギルドはギルドカードをその人物の身分証明と実力保証として扱っています。はっきり申しますと世界で一番簡単に取れる身分証明です。彼はそれすら持っていません。そんな人物にどれだけの信頼を寄せろと? 少ない金を切り崩して一体幾ら払えと? 馬鹿にしていただきたくない。即ち、実力、身分ともに今こうして、我々が保証してやろうというのですよ。どのような犯罪を犯したのか知りませんが……金貨5枚失う程度損ではございませんよね?」
福幸は腸が煮えくり返りそうだった。
この眼の前にいるオットーという人物の言いたいことを把握したのだ。
こいつは、お前みたいな犯罪者に身分を証明して金をくれてやるのにまだ文句があるのか? と福幸に喧嘩を売っているのだ。
情けなく、悔しさで目の前の光景が歪む。
このような認識を持たれることが悔しかった。
このような偏見を受ける自分はどれほど不幸なのか、と。
拳を握りしめる。
言い返せない。
彼が言っていることはあながち間違いではない。
だから、実力で見返してやろうと心のなかで違う。
剣姫から教えてもらった知識と不屈の騎士から受け継いだ剣技の2つがあればきっとできると思ったから。
クラスで孤立したような状況にはならない。なりたくないと思ったから。
彼は心にそう誓った。




