36 痴話喧嘩は犬も食わない
「これで解散とする!! 報酬は各自ギルドにて受け取ってくれ!!」
そう言うと、領主は一つの豪華な馬車に乗りその馬車は領主が乗ったのを確認すると走り去ってゆく。
「さて、宿に戻ろうかな……」
一人つぶやき、あの宿屋に向かう福幸。
だが、その前に見知った人物を見つけそちらに向かう。
「あのバカ生きてるんでしょうね……?」
(残念騎士めちゃくちゃ心配してるじゃん……)
「全く、私を連れて行かないなんてほんっとうにばっかじゃないの!! あんたよりも私のほうが強いっつーの!!」
(ん? 心配してるんじゃないのか……? )
一瞬不安になる福幸。
だが、頭を振ってその考えを追い出す。
(まさか、そんなわけないよな……アハハ……)
そう言って、彼女の前に出ようとしたとき再度彼女の声が聞こえる。
「見つけたら絶対にギッタンギッタンにしてやる!!」
(ギッタンギッタンて……今日日聞かねぇよ……)
そして、目の前に行けば確実にヤバそうなので宿屋にすぐに向かおうとしたとき背後から肩に手を置かれる。
「あれぇ……? 私という奴隷がいながら他の人に浮気ですか……?」
ゴゴゴゴゴ……
(こ、この人は蜘蛛の人っ!? というか、奴隷のルビおかしくない!? )
そう、ヤンデレ化している蜘蛛の亜人種が背後から肩を置いている……いや、掴んで今にも粉砕しようとしているのだ。
「い、いや違うんだ!! というか、妻じゃないだろ!?」
「何処がですか? 男女で永遠の契を交わすということは即ち夫婦というものでは?」
(あながち否定できないっ!? )
確かに間違ってはいない。
そして、福幸のセリフの前半が浮気した男のセリフにしか聞こえない。
「私だけを見てくれなどと言うつもりはありませんよ、ええ。」
「(絶対に言うな)」
「何か?」
「イエ、ナニモ」
「それなら良かったです。」
ニコリと心の底からすくみ上がるような黒い笑顔をする彼女。
慌てて、話題の方向を変えようと必死になる福幸。
「そ、そういやあなたの名前は!?」
「あら、貴方などと他人行儀にならなくていいのですよ?」
「いや、名前……」
「私の名前はカバキコマチです。」
「カバキコマチ? 日本人らしい名前だな……。」
「ニホンジェン……? とやら走りませんが勇者様の伝統に沿ってつけられた名前です。私達一族の名前と言いますか、一族すべての名前をカバキと申し私自身の名前はコマチで御座います。」
「ニホンジェンって、いやまぁ、発音の問題なのはわかるけど……」
「どうかいたしましたか?」
「いや、こっちの話。」
福幸は剣姫の特訓と不屈の騎士の知識のお陰で異世界言語はある程度話せるようになっている。
3日で覚えなければ殺すと言われたら案外人間出来るものだ。
とはいえ、詳しく話せるのかというとそうではない。
日本風に言えば英検二級を持ってはいるがアメリカで過ごすにしては少々物足りないといったところだろう。
(というか、あった当初と性格変わりすぎてないか? 押しかけ嫁だったよな? )
精神的に余裕が出たのと惚れた影響でツンが強めのヤンデレ化してるということは福幸はまだ知らない。
「とりあえず、宿屋に行きたいんだけど……?」
「その前に、奴隷商へと向かいましょうか。」
「えぇ……、というか、自分から奴隷にされに行くものなのか……?」
「私と御主人様の愛の証ですから。」
「はぁ……」
半ば、諦めつつ流れに身を任せる福幸。
だが、世界はそれを許さない。
「あっ、いたっ!! あんたねぇ!! って、横の女は誰よ!!」
「うげっ、面倒くせぇ……」
「なんですか? ゴミクズが。」
「なんですってぇ!!」
(うわぁ……修羅場だ。)
周りに視線を感じて辺りを見ると騎士団からは同情が、冒険者と市民たちからは嫉妬と呆れが飛び交う。
騎士団はあの有名な行き遅れの残念騎士の話を知っている人物が多いからだ。
(ああ、不幸だ……。)
涙が出てきそうなのを堪える。
少なくとも、福幸の好きなタイプの女性はふんわりとした優しく家庭的な女性だ。
断じてヤンデレではない。
「貴方みたいなゴミクズが私の御主人様の近くにいられると迷惑なのですよ」
「貴方みたいな性格が捻れ腐ってる人が彼の周りに居ることが彼の迷惑よ!!」
(どっちもある程度あってるからどっかに行ってくれないか? )
三者三様の考えを持ちつつこうして、痴話喧嘩は大通りの真ん中で繰り広げられ騎士団長が止めに来る自体になったとだけここには記しておくべきだろう。
全く、呆れる他ない話だ。
というわけでメインヒロインのカバキコマチです。
感じで書くと樺黄小町ですね。
活躍をご期待ください。




