30 オークストラテジスト
ゴン! ガンッ! ドガッシャァーン!!
「い、痛いっ!?」
ブォォォオオ……
オークの鳴き声が聞こえる。
目の前には女性を犯そうとしているオークが。
反射的にククリナイフで、イチモツを切り落とす。
そして、青い顔をする。
自分がされたときのことを想像したのだろう。
男にとっては途轍もなく恐ろしい事だ。
ブォォォオオ!!!
バギッ! ガゴッ! ドガッ!
無闇矢鱈に壁に立てかけていた斧を取り、振り回すオーク。
当たらないように服がはだけた女性を助ける。
というか、建物の外に一緒に脱出する。
「ま、まだ中にアルセノがっ!!」
「先に言えよっ!?」
慌てて戻る福幸。
まだオークは暴れている。
一度冷静になり当たりを見渡せば何人もの女性の姿を確認できる。
「クッソがぁ!! 鋭く研ぎ上がれ!! 【ウィンド・シャーペン】」
そう言い、風によって鋭さが増したような気がする不屈の魔剣でオークの肉を切る。
ギロッ!!
明らかににらまれる。
「ヘイト貰ったぞ!!」
そう叫び不屈の魔剣で、豪華な斧と切り合う。
(ん? 豪華な……斧? )
よく周りを見る。
茶色の作り込まれた皮の装備もある。
(もしかしてコイツ……オークの頭? )
チラッと頭によぎるその推測。
だが、それより速く重く早い斧の攻撃が福幸を襲う。
(受け止めきれねぇ!! )
慌てて、バックステップで回避。
そして、もう一歩下がろうとし壁に当たる。
これ以上、後ろには下がれない。
再度、斧が福幸を襲う。
今度は左に転がることで避けれたが……それ以上下がると今度は助けるべき女性達を守れない。
冗談を嘯く間もない。
額には玉のように汗が出始める。
手が濡れ、不安を隠すようにより強く握る。
絶体絶命。
今の福幸の状況とは正にそれ。
逃げも隠れも出来やしない。
上に振り上げられる斧。
「うぉぉぉぉおおおお!!!」
覚悟を決め、福幸は防御する。
先程と比較にならない程の衝撃が全身を襲う。
「グッ、がぁぁぁぁあああ!!」
吐血する。
目の前が真っ赤になる。
立つことすらままならない。
だが、まだ諦めてはいなかった。
「風、よ………自然と災害の証の………風よ………天地が轟き…………生命が………恐怖する、畏怖の………証の…………雷よ……………私に……力を………与え…………給え!! 【サンダー】」
全力で雷を放つ。
一瞬光り輝く。
薄暗い部屋を一瞬照らし消える。
これで倒し切ることはできなかった。
だが、問題ない。
少なくとも福幸が死ぬより先にオークが絶命する。
「さぁ、地獄を楽しみな。」
オークに向けてそう言うと、福幸は倒れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「大丈夫かっ!?」
一人の冒険者が、建物の中に入る。
中を除くと真っ黒とまでは行かないものの美味しそうな匂いを立てつつ倒れゆくオークと倒れている福幸の姿があった。
慌てて駆けつけオークの首を刈り取る。
そして、福幸の様子を見る。
「息は……あるな? これなら神殿の奴らが間に合う。誰かぁ!! 来てくれ!! 今回の英雄が死にそうだぞ!!」
苦笑交じりに叫ぶ。
笑いつつ、呆れつつも一刻の猶予を与えない状況を確認する。
あたりにある瓦礫をのけ、体の体制を変える。
「何じゃ? どいつもこいつもこの老体を……ちと待て、コヤツ死にそうではないか!? 早う言え!!」
そう言い、手早く治療を始める。
回復薬に浸した布を巻き付け、腰に下げている乾燥した根っこのようなものをナイフで削り口に入れる。
「ほれ、ゆっくり飲み込むんじゃ。よぉし、良い子じゃ良い子じゃ。飲み込めたかの? よし、大丈夫そうじゃな。」
「大丈夫か? その小僧。」
「少なくとも死にはせん。運が良けりゃすぐ直るじゃろ。運が悪けりゃ……そのときゃぁその時じゃな。」
「おいおい、街一番の名医が何を言ってやがる。」
「ならばここまで行軍させるなと言いたいわ。しかし、面白い身体構造じゃな。始めてみたわい。」
「おお? ばっさんが初めて見たってどういうことだ?」
「まぁ、人と変わりないのは変わりないが……」
そう言い、指で福幸のすがたを指す。
「回復薬の効きが異様に早い。幾らあたしの特製といえここまで早いのはあり得んじゃろ。」
「マジだ。クソ早いな。」
「それに、あの近距離で雷放っとるくせに対して火傷もしておらん。耐性があるのならまだしも有るのであれば麻痺もせんじゃろ。」
これまた呆れたように老婆は言う。
「ま、しばらくしたら。そうじゃな……。顔色が良くなったら連れ出すことにせぃ。」
「了解したよ、ばぁさん」
「あたしは他のところを回ってくるわい。」
そう言って老婆は家を出る。
「はぁ、やれやれだ。ってこいつは銀翼の羽の奴等じゃねぇか。まだ生きてるな。はあ、コイツラの手当もしなくちゃなぁ。ったく、やることが多いっての。」
そう言い、冒険者も女性達の手当をし始めた。
裸の将軍(笑)




