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29 アンラッキー

「準備はいいか?」

「勿論。」

 

 今、時刻は朝。

 日に照らされ周りも明るくなった頃。

 福幸含めて冒険者と騎士たちはオークの村を包囲していた。

 昨日、襲撃されたことを踏まえ短期決戦に持ち込もうとの結論が出た。

 問題は時間だったが、それも一晩休んで朝に一気に決めると決まった。

 互いに互いの意気込みを聞きあい、村を包囲し終える。

 そして、始まりは唐突だった。

 

「突撃ィー!!!」

 

 一瞬静まる空間。

 そして、次には音にならない怒号と表現できない熱気が押し寄せる。

 福幸も負けじと声を張り上げ剣を持って突撃する。

 

 (捉えたっ!! )

 

 真っ先に飛びつきククリナイフを一閃。

 腹を裂き腸を出す。

 

 ブォォォオオ!? ゴォォォォオオオ!!!

 

 醜い悲鳴が聞こえる。

 

「ナイス坊主!! その調子だぁ!!」

 

 横から、昨日ともに戦った冒険者が声を掛ける。

 そして、彼も負けじと他のオークに攻撃を仕掛ける。

 福幸も腹を裂いたオークを見る。

 かなり出血があるようだがまだ死には至っていない。

 

「これでも食らいやがれ。【バースト】」

 

 そう言い、ククリナイフで発動したいつもより威力の低い魔法を当てる。

 血飛沫が飛んだあと、そこには一体のオークの死体。

 死体の方へと目を向けないようにしつつあたりを見る。

 冒険者たちは全体で見れば苦戦しているわけでもなければ善戦している様子もない。

 一進一退といった形が近いのだろう。

 オークも馬鹿ではない。

 的確にこちらの弱い人物が固まっているところを陰湿に狙う。

 

「あいつか?」

 

 福幸の目が捉えたのは他のオークへ命令を下しているように見える奴だ。

 よくよく見れば装備も他のものと違い多少ではあるが豪華に見える。

 

「物は試しだ。火矢よ飛べ【ファイアー・アロー】」

 

 呪文を唱えオークを相手にしてククリナイフを向ける。

 飛んでいった、魔法はオークに当たり掻き消える。

 

「下級が消される程のスキルか装備か……。」

「スキルだ坊主!! 他にも耐久系を幾つか持ってると思う!!」

「了解しました!!」

 

 冒険者からの助言で魔法耐性系のスキルと当たりを付ける。

 装備での軽減ならば基本効果は弱いもののすべての属性を対処されるがスキルでの軽減ならば1属性に特化している。

 となれば対処方法も簡単だ。

 

「母なる大地よ!! 我が外敵となる者を穿け【アース・ニードル】!!」

 

 地面から大きな針のようなものがオークを貫く。

 だが、運悪く避けられる。

 

「チッ、クソっ。」

 

 ブォォォオオ!!!

 

 息をつく間もなくオークが襲い掛かってくる。

 一旦、あの指揮官のようなオークを狙うのをやめ向かってきたオークに対して対処をする。

 

「グッ、」

 

 (重ったい……!! )

 

 明らかに前日や先程戦ったオークより強い。

 力を受け流すことがほとんど不可能と思えるようなパワーで押される。

 

 (明らかに強い!! 魔法の発動……いや、無理だ。そんなことをしてる暇がない。)

 

 軽く吹き飛ばされた福幸はそのまま数メートル転がる。

 魔法を発動させるか一瞬迷った福幸だったが思った以上の速さで距離を詰めるオークに対してそれもできないと頭で理解する。

 

「おりゃぁ!!」

 

 ククリナイフを投げる。

 上手く、腹に当たったものの刺さることは疎か軽く傷をつけるだけに終わる。

 だが、一瞬怯んだのも事実。

 稼いだ時間で不屈の魔剣を抜き去る。

 

 それと同時にオークも斧で福幸を叩き斬ろうとする。

 

「無駄だ。」

 

 そう、一言。

 瞬間、疾速の突きが一太刀。

 心の臓を捉え突き刺さる。

 

 ブォ……? ブォォォオオ!?

 

 一瞬にして、そのことに気づくオークだったがもう遅い。

 引き抜かれた傷からは血が吹き出る。

 

「真っ赤じゃねぇか。」

 

 荒々しい言葉使いとともに、後ろに倒れるオーク。

 オーク越しに見えるのは、先程の将軍のような相手。

 忌々しそうにこちらを睨んでいる。

 数歩歩き、ククリナイフを手に取る。

 

「【アース・ニードル】」

 

 今度は詠唱なしで発動させる。

 すると将軍のやや後ろにいたオークが刺し殺される。

 

「っと、これで合計3体か。うわっ、グロっ!?」

 

 足元にある死体と自分の体を改めて見てそう叫ぶ福幸。

 

 軽く、ポーチに入れていた布で血肉を拭き取る。

 

「坊主!! 調子はどうだ?」

「悪くないですよ!!」

「そうか、こっからもっと厳しくなるぞ。」

 

 そう言い、冒険者は村の中心部に向かう。

 改めて見るとほとんどのオークは倒され始めていた。

 見えるのは上位個体と見間違えるほどに背が高く装備が整っているオークのみ。

 

「俺も急がないと。」

 

 そう言い、福幸は駆け出し……石に躓いて転げてそのまま村一番の大きな家に入っていった。

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