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28 不条理

 それから約一時間ほど。

 粗方、襲ってきたオークを撃退し警戒をしている冒険者以外は大部分が村の中心に集まっていた。

 時刻は夕暮れ。

 日がもうそろそろ落ちようとしているときだ。

 

「しっかし坊主。お前の料理、上手ぇな。」

「こりゃぁ、作ってもらって正解ってもんよ。ガッハッハッ。」

「この程度なら楽なもんですよ。」

 

 (家にいたときは母さんが帰ってこなかった日も多かったり……、涙が出てきそうだなぁ。)

 

 もう二度と帰ってこない。

 もう二度と戻ることの出来ない日々を夢み一滴の涙を流す。

 そして、気持ちを切り替える。

 確かに福幸はあの平凡よりも不幸な人生に戻りたいと思った。

 いや、思っている。

 けどそれ以上に諦めが強い。

 それと同時に戻れないと自覚している。

 

 福幸は、不幸で莫迦で愚かだ。

 だが、それ以上に聡く、聡明で、理不尽に強い。

 

 だからこそ、彼は異様なほど不幸なのだ。

 戻ったときに、果たして自分を迎えてくれる人間がいるのか?

 戻ったときに、自分たちは死亡していると判断され戸籍がないのではないか?

 そして、戻ったときに果たして自分は人間社会にそのまま残れるのだろうか?

 

 魔法という異質で異端なものを持っているのだ。

 人間社会で他人と同じように笑い楽しみ幸福を共感し不幸をシェアしあえるのか。

 

 無理だろう。

 

 諦めとは違う。

 なにか、表現しがたい感情が渦巻いていた。

 帰れるならば帰りたい。

 ありふれた日常に戻りたい。

 だが、自らに残る理性が、知性が、それを否定する。

 

 剣姫のもとで習った剣術はどういうものか。

 人を殺す、生き物を殺す、殺傷の力だ。

 即ち、兇器。

 そんなものを持ちながら平和に生きよう? 巫山戯るな!!

 例え、地球でその技を使わなくとも何よりも誰よりも切れる刃を持ってることには変わりない。

 そんなものを持ちながら平和に生きようなんて出来るはずがない。

 誰かを守るために使えばいい? 笑わせるな。

 他者にふるう力とは自らに振るわれる刃だ。

 地球にある名言でもこういう。

 

『撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ。』

 

 まさにそうだ。

 だが、よく見てみろ。

 地球での社会は本当にこの言葉が通用するのか?

 しているのか?

 一つの会社の社長が大金をせしめ豪遊し他者へばら撒いているのと同時にその日その日を気に抜くために自販機の下を覗き込みたった百円を探している。

 そして、そのどちらも互いに世見のもとに晒される。

 金をばら撒いているのは貧民への救済と見られ褒め称えられるのに対しその日を必死に生き抜くためにお金を探し求める者は馬鹿にされ続け世間で社会で除け者にされる。

 

 多少話が逸れた。

 今は福幸の力を持っていながらまともに生活できるのか。

 一つの社会で先程例に上げたようにここまで差があるのだ。

 では、異世界という倫理も考えも世界の仕組みも違う場所に行ったものが戻ってきたとき果たして認められるのか。

 認められるはずがない。

 

 福幸は、それを理解しているからこそ戻ろうと切に願わないのだ。

 地球で、死ぬほど辛い思いをするより異世界で死ぬことと生きることを天秤にかけその日その日を生き抜く為に働く。

 その2つを見たときどうしても地球に戻ろうとは思えなかったのだ。

 

「おい、どうした小僧?」

「あ、いや、ちょっと考え事を……」

「坊主が辛気臭い顔をするんじゃねぇ、ほら、酒でも飲めよ、ガッハッハッ。」

「そうだそうだ。」

 

 顔を赤くし酒を勧める冒険者を見ながら少し目尻が下がる。

 

「こらぁっ!! あんたら明日オークの村に突撃ってわかってるんさね!!」

「わぁーってる、わぁーってるっての。あー、耳がいてぇ。」

「そうですよ、あまり飲まないようにしてください。」

 

 少し、先程よりも笑顔になりながらそう冒険者の人たちを諌める。

 

「あー、坊っちゃん悪いさねぇ。この、あほんたれ共が坊っちゃんに飯作らせたんさね。済まないねぇ。」

「いえいえ、このぐらいなら構いませんよ。」

「全く、坊主がそんなに働いてちゃあたしら大人の出る幕が無いさね……、はぁ。明日はあたしらがどーんとアイツラの首を取ってくるさかいよぉ、見ときよ。」

「僕も、微力ながら手伝いますよ。」

「はんっ、口説き文句かい? ならもっと腕も体もそっちもでっかくなってからいいな。」

 

 そういったあと、女冒険者は他の人と混ざりまた飲んでいた。

 

「全く、下ネタかよ。」

 

 少し、恥ずかしさで頬が赤くなりつつもボソッと言い返す福幸。

 そして、また手に持っているフライパンに似た調理道具を動かす。

 オークの肉はこの世界では食料として見られており程々に美味しい豚肉に味が似ている。

 調味料はほとんどなく、肉を焼き塩をまぶす程度の料理だが思いの外福幸の調味料の入れ具合が冒険者達にハマり今、こうして料理をさせられている現状に繋がるわけだ。

 程よく美味しい匂いが漂い福幸も一段落してからいただこうと頭の中で考える。

 

 まぁ、暫く福幸が食べる機会が無かったのはここだけの話だ。

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