24 死に急ぐ者
「今朝ぶりだな。」
「ですね。」
ギロッ!!
少しでも無礼な態度をすれば領主の背後に控えている二人の騎士が睨みつけてくる。
「よいよい、下手に堅苦しくされるより余程好感が持てる。」
そういうと、二人の騎士が渋々といった形で目を背ける。
勘違いしてはならないが認めたわけではないことだろう。
「さて、そろそろ出してくれるか? 時間が惜しい。」
そういうと、福幸たちが乗っている馬車が動き出す。
「君との対話は2回目だね。まあ、その様子だと私の立場に気づいたようだがね?」
「次回から事前に伝えてほしいのですが?」
「ハッハッハッ、残念ながらそれは断らせてもらおう。これも私の趣味なのでね。」
さも愉快そうに笑い飛ばす。
そして、本題を告げる。
「さて。お前から見てこの集団は勝てそうか?」
「唐突だな。」
「総監督として聞かねばならぬのでな。」
「正直に言うとわからん。」
「いい時間つぶしにはなるか?」
「なんでだ?」
「聞くまでもないだろ? 仕事をサボりたいのでな。」
「笑えねぇ冗談をどうもありがとう。」
そう言って、福幸は馬車を出ようとする。
「まあ、待てよ」
「なんでだ? わざわざ、こんな人間と一緒にいる必要はないだろう?」
「いや、それがあるんだな」
「は?」
「うちの騎士団が一つ壊滅している。それの言葉の意味がわからないほど愚かか? 貴様は。」
言葉に重さというものがあるように思えるほどに目の前の男の威圧はすごかった。
福幸は座り直す。
「いくらなんでも魔物が一定数以上存在する森の近くの小型の都市だ。いくら弱くとも最低限は鍛えてある。それがほぼ全滅? ありえんな。」
「だが、現にそうなっている。」
「即ち、私の予想を遥かに超える状態なのだよ。」
先程の巫山戯たような言葉とは打って変わり魅せる顔は領主のそれ。
一体、目の前の男は何人の人間の命をその肩に乗せているのだろうか?
「ありえない、とは言わない。だがおかしい。」
「そうか。」
「で、俺はお前を疑っている。」
「随分と買いかぶられているようだな。」
「そうか? 俺はそうは思わん。」
「で? 俺が騎士団を壊滅させた犯人だと思うのなら相応の証拠がいるよな?」
「安心しろ、その疑いはもうとっくに晴れている。ここに呼んだのは貴様の人間性を確認するためだ。」
「は?」
「冷静に考えてみろ? なぜ、わざわざ目撃者と思わしき人物を助ける? 会話内容も聞いた。心配などしてないわ。」
そう言い、革袋を渡す。
「褒美だ。中身は金貨2枚。」
「破格すぎるだろっ!?」
「当たり前だ。それほど私は貴様のした行為を評価しているのだよ。この街に未曾有の驚異をいち早く知らせ我が部下の命を救った。十分この褒美に値する。それに、私からしたら所詮それは端金だ。」
「いや、かなりの額だろ……?」
「貴族を舐めているのか? 即金で用意しろと言われて最低金貨1000枚はだせるぞ。」
驚愕する福幸だが、そこまで驚くことではない。
階級により保有する金額というものは大幅に変わる。
彼は平民の年収と言っていたが嘘ではないが彼は福幸を騙していた。
貧民街に住む人口50%を含めた場合の数字であり更に言うのであれば基本的な貴族は貧民街の者達を除いた者たちの年収の軽く50倍には達している。
強気な交渉に見え、実際は最初から金銭価値が違いすぎ彼からすれば、たったこれだけで良いのかという程度には拍子抜けしていたのだ。
「自由に過ごせ、女を買うのでもよし、武具を買うのでもよし、貯めるのでもよし。」
「そうか、ありがたくもらうよ。」
「ふっ、ならばまた後で会おうか。」
そう言われ、今度こそ福幸は立ち上がり馬車を出る。
動いている馬車から福幸は飛び出す。
大した速さは無いので怪我はしない。
軽く受け身を取りそらを見上げる。
「さて、行くか」
百人近い人間が馬車の後ろに続いている。
福幸もそこに加わろうとする。
しかし、それを止める手があった。
「すまん、少し話をしたい」
「誰?」
「いや、ちょっとした騎士だよ。君はチュネッリーさんを助けたんですよね?」
「まあ、一応」
「ありがとう。」
そう言い、右手を握り上に向け左手を背中に周り曲げた状態で礼をし顔を上げてこう言う。
「街に帰ったら何か一食奢らせてもらうよ」
そう言い、さっと列に戻る。
その様子を見て福幸は一言。
「フラグ建設は洒落にならねぇよ!!」
周りから奇異な目を向けられながらも日本のサブカル文化を理解しているものなら皆絶対叫ぶであろう言葉を言い福幸は後ろの人たちの中に入っていった。




