23 いざ、歩まん戰場へ
「ここですよ」
そう言って大部屋の扉を開く。
「ありがとうございます。」
「いえ、もしかしたら僕も今後お世話になるかもしれませんしね」
「そうかもしれませんね。ですが、私としては貴方のような子供が大怪我をしないことを祈っています。」
そう言ってニコリと笑う。
福幸は軽く頭を下げ大部屋に入る。
そこにあったのは、複数人のシスターが怪我人を世話している姿だった。
「あ、福幸!!」
「久しぶりだな、残念騎士。」
「残念騎士とは何じゃぃ!!」
「そういうとこだよ。」
やや呆れつつ、この会話を心待ちにしていた事に気づく福幸。
思ったより、残念騎士のことが気に入っていたことに驚く。
だが、それも一瞬。
次の残念騎士の行動に呆気に取られてそんな気持ちも吹き飛ぶ。
「おりゃぁぁぁあああ!!!」
何と、残念騎士はドロップキックをかましやがったのだ。
病人であるのに、だ。
思わず、避ける。
残念騎士は背後にあった、ベッドに運良く入ったからいいものの受け止められなかったらどうするつもりだったのだろう?
「男なら受けなさいよ!!」
「受けれるか!! お前みたいな重いやつが目の前から飛んできたら普通に避けるわ!!」
そう言うと、ベッドに福幸はすわる。
剣は、一旦取り外している。
「で、体調はかなり良さそうだな。」
「いいわよ!! 当然ね。酒とつまみが食べれないのが悔しいけど。」
「おいおい、そんな不健康な生活送ってんのか?」
「私の家見る? ゴミまみれよ?」
「遠慮しよう。」
そう言って軽口を叩きあう二人。
しばらくそうしあったあとついに福幸が本題に入る。
「で、多分今日の昼ぐらいからオークの集落を殲滅に向かうらしいんだけど……」
「はあっ!!? 何言ってんのよ!? あの規模をたった2日で殲滅できる兵力をどうやって手に入れたの!?」
「領主様直々に俺のところに来たんだよ。」
「ああ、あの人そういう所有るよね。仕事でもサボりたいのかしら?」
お前じゃあるまいしと言いたい口を無理やり閉じる。
そして、核心部分を聞く。
「お前も来るか?」
「え、私はいけないの?」
「知らねぇから行くかどうか聞いてるんだよ。」
「そうね……、今日のお昼って言ってたわよね?」
「ああ。」
「どこに行けばいいの?」
「俺達が入ってきた門だから……」
「西門ね」
「あ、そこは変わらないんだな。」
「何の話?」
「こっちの話だ。」
そう言うと、福幸は立つ。
「じゃあな。」
そう一言告げて。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから数時間。
福幸は少し街を見て昼前にここに戻ってきた。
そこには、時間前にも関わらず多数の人がそこにはいた。
「小僧もオーク討伐に行くクチか?」
「ええ、まぁ。」
後ろから声をかけられる。
まとっている装備は革製で如何にも冒険者ということがわかる。
「いや、しっかし驚いたぜ。朝にギルドに張り出された依頼でオークの村の殲滅立ったなぁ。」
「だよなぁ。まあ、これで明日も旨い酒が飲めるんだ。ガッハッハ」
先程の男と横の人物が互いに肩を叩きあう。
「そちらの方とは知り合いですか?」
「ん? ちげぇが? っていうか丁寧語はやめろっての!! なんかこう、背中がむず痒くなるっていうか……。おっ、依頼主様のご登場だぜ?」
そう言われ、前を見ると朝に話した男……いや、領主がいるではないか。
思わず驚く。
(え、領主ってこんなフットワーク軽くていいの? )
そんな疑問を抱きつつ話を聞く。
「本日、冒険者諸君、騎士団の諸君に集まってもらったのは他でもない。オークの集落を潰すためだ。」
「「「おぉ!!」」」
「その上で、諸君らに伝えておかねばならないことがある。」
そう言って、一旦口を閉じそうしてまた開ける。
「今回の集落はオークが最低、14体。また、上位種がいるかも知れないとのことだ。」
「それ以上の情報はありませんか!!」
「ない。」
「精確なんですか!!」
「我が騎士団のソー部隊が一人を除き全滅した。その上で手に入れた情報だ。」
そう言うと、質問はないかと周りを一瞥する。
この雰囲気から考えてこの領主はかなり領民に慕われているのではないか?
その思考が福幸の中で一巡し、とりあえず考えるのをやめた。
後で、冒険者たちに聞けばいいだけの話だ。
そう思って、立っていると背後から誰かに掴まれる。
「うわぁっ!?」
「黙れ、手間を掛けさせるな。」
振り向いて見えたのは朝対面したときに領主の背後にいた騎士の一人だ。
「ふむ、ちゃんといるようだな。感心感心。」
そう言って福幸を先頭まで連れてゆく。
「村までは領主様の話し相手になってもらおうか。」
「いや、フレンドリーすぎるだろ」
「是非とも気に入ったそうだ。我々としては非常に、ああ、非常に認めたくはないのだが領主様の意向だ。」
とてつもなく嫌そうな顔をしながらそういう。
思わず同情する福幸。
確かに、身分も立場もわからない人間を側に置くという行為は非常に気がかかるし咄嗟の対応もしづらいだろう。
そして、警戒の目を向けられながら対話をする。
そう思った途端、思わず福幸から溜息が出る。
「なんだ? 問題があるのか? ならばこの瞬間にでも……」
「物騒だなぁ!?」
慌てて突っ込む福幸。
その言葉が本気でならないように感じ背筋が震えたように感じたのは嘘ではないだろう。
いや、領主が何で討伐隊に入って向かってるんだよ?




