21 領主対面
「ふむ、君が私の部下であるチュネッリーを助けた人物だね。名前は?」
「福幸那人だ。」
「フコウ・ナヒト? ほう、貴族であったか。」
「いや」
「と、なれば東の島国の人物であるか? そのような珍しい名前は貴族以外ではあそこしか考えつかぬのでな。」
「あ〜……、そうなるな」
「随分と、西方言語を勉強したものだ。まぁ、基礎は似たりよったりか。」
「必死で覚えたんだ。かなりな。」
そういうふうに相手に合わせる。
下手に否定するより肯定したほうが良いと考えての言葉だった。
相手は、嘘か真か探るように目を細めて見てくる。
冷や汗をかきつつも堂々とした態度がこうを成したのかもしくはまたは嘘を見破ったのか。
真偽はどうであれあっさりと視線を背ける。
「まあ、そんなことはいいか。問題はオークの集落の大きさだ。君は見たらしいじゃないか。どのぐらいの大きさだった?」
立派な礼服に視線を向けつつ後ろにいる騎士というべきか剣士というべきか。
まあ、対話相手の護衛であろう人物を軽く見る。
対話相手の後ろ左右に立っており下手に動こうものならすぐにでも切り捨てれるように剣の柄に手を掛けている。
(残念騎士とは格が違うな。)
そう思いつつ、福幸は対話相手の身分を考察していく。
(少なくとも残念騎士を部下って言ってることから彼女の上司なのは間違いない。ここに来るまでに彼女から聞いた話では彼女の直属の上司に当たる人物は合計3人。そのうち一人は班員で死んでいるはず。ならば残り二人。もう一人は領主と聞いているから残るは騎士団長のノルダーとおもう……、が……)
そう思考を回しつつ相手の言葉に答えてゆく。
「村の規模は不明だが最低でも15体以上はいることは把握している。」
「ふむ、証言通りだな。」
「あっ、あともう一つ伝えなければならないことがある。」
「何だ?」
「恐らくだが、魔法を使うやつがいる。」
ガタンッ!!
驚愕したように目の前の男が立ち上がる。
目は見開き三十代の渋いイケメンフェイスが崩れている。
「本当か!! それは……、いや、それが嘘でなければ彼女一人しか生き残らなかった理由に説明がつく。」
その後、何かを考えるかのようにブツブツと呟いたあと福幸に話をする。
「よく解った。私が思っていたよりかなり危険な状態だな。その上で言うが……、オークの討伐に君も力を貸してくれないか?」
「……なんでか聞いても?」
せんいっぱい背伸びをしてこちら側が油断ならない相手のように思わせるために声を低くする。
お前の腹の底は見えているぞと脅すかのように告げる。
「道案内を頼みたい。それに、君もそうおうに腕が立つのだろう? 助力を頼みたいと思うのは当然じゃないか。」
「ならば、報酬もあるんだろうな?」
「当然だ。そうだな……金貨一枚を報酬としてはどうだ?」
「済まないが……、価値としてはどれぐらいなんだ? この国に来たばかりでな。」
「おお、そうだったな。君は東の島国からの来訪者だった。価値としては我が国の平民の年収と同じぐらいと思ってくれて構わない。」
(日本円にして百万ぐらいか……!? いや、同じ価値じゃないだろう。少なくとも良くて五十万ぐらいか? いや、それでも多すぎると思うが。)
驚きを隠せず取り繕うために目だけは睨みつける。
「ふむ、金額に不満があるようだな。」
相手が程よい勘違いをしてくれた訳でそれに、福幸も乗っかる。
「ああ、最低15体だ。下手をすれば20体近いかもしれない。その中にこれっぽっちの金額でいけ、と?」
「ギルド的に考えた場合は十分だが……、たしかに君の言うことには1理ある。だが、そこまで出す利がないと私としても易易と出せる金額ではないのでな。」
「俺は魔法を使える、ではだめか?」
「おお、それは素晴らしい。オーク15体から初めてあったものと連携し逃げれるだけの実力があるのは分かっていたが……。属性は?」
「土を得意としている。」
「ふむ、ということは妨害か?」
「そうなるな。」
「ふむ、そうか。それを踏まえた上で金貨2枚はどうだ?」
「これ以上粘るのは愚策だな。」
「聡明だ。」
そう言うと、扉から出ていく。
二人の護衛もともに出ていこうとしたとき片方が福幸に話しかける。
「あまり、領主様に対して馬鹿にしたような態度を取らぬほうが良い。今回は緊急性があり特例として赦してもらえたが次はないと思え。」
そう言って扉が閉じられる。
残された福幸は一言。
「え、領主だったの?」
ある意味勇者とも取れる対話をした福幸だった。
騎士団長だと思った?残念!!領主様です!!




