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19 騎士の誇り

「おい、起きろ」

 

 ペシペシ

 

 平手打ちを容赦なく残念騎士の頬に浴びせる福幸。

 頬が真っ赤に腫れ上がって少ししたときにようやく目覚めたらしい。

 

「良くも寝やがってくれたなぁ!! こちとら一睡もしてねぇんじゃ!! 何が怖いだぁ!? 堂々と寝てやがるじゃねえか!!」

 

 徹夜したこともあり、テンション高めの福幸が一息に捲し立てる。

 寝ぼけ眼の残念騎士はあたりをキョロキョロと見渡したあとこう告げた。

 

「あんた誰?」

「ぶち殺すぞワレ」

「ヒィッ!!」

 

 怯えるのならば覚えとけばいいものを寝起きで寝ぼけて忘れるからこういうふうに脅されるのだ。

 まあ、それはいい。

 火を消しつつ荷物をまとめて移動を始める。

 しっかりと燃えカスが他の木々に引火しないよう土で埋めることも忘れない。

 

「これで良し、と。」

「こんな乙女になんで力仕事させるのよ……(ブツブツ)」

「なにか文句あるのか? あと、乙女って年でもねぇだろ」

「アァン?」

「はんっ!!」

 

 互いにガンを飛ばし合う。

 仲がいいのか悪いのか。

 そして、そんな茶番じみた行動をしながらも森を歩き回り木々にククリナイフで跡をつけてゆく。

 もし迷っても少なくとも元いた場所までは帰れるだろう。

 そういう思いから歩き始める。

 地図を見て話し合っていたとき(福幸が教えてもらっていたとき)森は街から見て太陽の沈む方向にあるかと聞いたのだ。

 答えは反対。

 森の方から日が上がるらしい。

 ならば朝になって太陽の位置を確認してから時間を取って移動しようという結論に福幸の中では決まったのだ。

 

 そういう訳で早速歩き始めた訳だが……

 

「「・・・」」

 

 二人とも何も話さない。

 巫山戯られるほど心に余裕がないのだ。

 その理由はいくつもあるが最大の理由はそう。

 

「またあった、わね」

「だな」

 

 明らかに人の形ではない足跡がいくつもあるからだ。

 恐らく、オークの足跡だろう。

 絶対と言い切るには難しいが何度か見たことがある福幸とオークの村の奥へと逃げ込んだ残念騎士の位置的にもこれがオークの足跡で間違いないということは確実だ。

 

「ねぇ」

「何だ?」

「一つ思うんだけど……」

「早く言えよ」

「もしかしたら、オークの村にこのまま行けば着くんじゃないの?」

 

 その疑問を解決するかのように目の前が開ける。

 森が開拓され粗末ながらも雨風しのげる家がいくつも立っている。

 

「ッ、逃げるぞ!!」

「!!」

 

 小声で叫ぶという高等技術を駆使し残念騎士の首を持って後ろを振り向く。

 

 ブギャ?

 

 そこにいたのは豚頭の太った化け物。

 すなわちオーク。

 

「しまっ!!」

「ひぅっ!!」

 

 ブォォォオオオオオ!!!!

 

 醜悪な豚頭の化け物が、オークが叫ぶよりも早く走り出す福幸と残念騎士。

 しかし少し走り出してから気づく。

 いや、気づいてしまった。

 

 (完全に包囲されてやがるっ!! やべえよ!! マジでやべぇよ!! 取り敢えず、村向かうのは論外森の中は? いや、それもねぇな。可能ならばこの残念騎士がここまで来たルートを……って話してねぇ!! )

 

「残念騎士!! ここまで来たルートは!!」

「この形なら左手から私達は来たはずよ!!」

「りょぉぉぉおおかい!!」

 

 オークの攻撃を避けつつ二人は言葉をかわし合う。

 基本的に石の投擲や棍棒での攻撃の二択しかないが当たれば肋骨数本持って行かれるだろう。

 

「あー、もうっ!! 糞がぁ!! 『風よ、我らに速さの加護を!! 【アップ・スピード】』ぉぉぉおおお!!」

 

 命からがら必死に魔法詠唱をし己の足の速さを上げる。

 それでも数の暴力によって徐々に近づかれているのは事実。

 その時、残念騎士がついに見つけたのだ。

 

「こっちよ!!」

「ナイス、残念騎士!!」

「なら残念騎士というのをやめなさい!!」

 

 まるで熟年の漫才コンビのように言葉を掛け合い走る、疾走る、奔る。

 複数人が通り簡易的な道になっているここならばあの、オークの村より早く走れる。

 後ろからは相変わらずオーク共が走り追いかけてくるが関係ない。

 全力で走り、そこから約二時間後二人は残念騎士がいた騎士団が中継地点にしていた村へと着いた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「「ゼェゼェ、ハァハァ」」

 

 二人共疲労困憊の状態でいながら二本足で立ち歩いて村の中へと向かう。

 

 コンコン

 

「あ、はぁーい」

 

 中から声が聞こえ扉が開く。

 

「あぁっ!! 騎士様!! 何故ここに?」

「いや、森の中へと取り残されてな……ハァハァ」

 

 騎士らしい口調に気をつけているのか威圧こそないが相応の偉い身分の人間に思える。

 後ろで福幸が顔を隠したのは家の中にいた娘さんしか分からない。

 

「他の皆は戻ってきたか?」

「い、いえ。」

「となればほぼ確実に全滅だな。」

 

 ギリッ、……!!

 

 歯軋りする音が聞こえた。

 仲間が、殺されたのだ。

 落ち着いていられるわけがない。

 だが、彼女は必死に悔しさや怒りまた悲しみや諦めを心の中に押しこむ。

 そして、騎士という仮面を被りこう告げた。

 

「分かった。村の者にこう伝えてくれ。いざとなればこの村を捨てる覚悟をせよ、とな。私は砦町へと向かいこのことを報告する。」

 

 そう言うと、彼女は残念騎士は村を出ようとする。

 

「おい、待てよ」

 

 ザクザクザク……

 

「待てって言ってんだろ!!」

 

 ザクザクザクザク……

 

「待てって言ってんだろ、このボケがぁ!!」

 

 早足でうつむいて歩いていた彼女はこちらへ顔を向ける。

 決して奇麗とは言えない顔だ。

 平凡並の顔が泥に汚れて……、そして涙で頬は濡れ顔は歪んでいた。

 

「君は、あの村に居てくれ」

「いまさら取り繕うな、残念騎士が。こっから砦町までは何時間かかる。」

「君は!!」

「いい加減にしろ、お前一人にしとけば途中で魔獣に食われるぞ。」

 

 冷静に告げる。

 

「今のお前は気力と根性で動いてるんだよ。少なくともまともに動ける状態じゃない。それに足も怪我してるんだ。最低でも俺は連れて行け。」

「っ!!」

 

 必死に、なにかに耐える顔をする。

 

「何よ!! 私は……私は何もできないって言うの!!」

「何もできないから他人を頼れって言ってんだよ。」

 

 呆れたように福幸は返す。

 

「とっとと行くぞ、待ってる時間が惜しい。」

 

 目に浮かぶ涙を拭い、福幸を見る。

 呆れたような顔をしながら手を差し出す少年を。

 

「絶対に、後悔するわよ」

「しつくしたよ。」

「なら、死なないことね。」

 

 そう言って手を取る。

 視線を向けるは砦町。

 敵の姿は背後にあり。

 民を守るため、最弱の騎士が立ち上がる。

 物語は始まったばかりだ。

さて、本来の予定では砦町についてる予定なんですが……

まだまだ続きそうです

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